紅蓮 96 つかつく
「……つくしが……娘を…連れて……帰って…くる……」
類の言葉を反芻するように繰り返えせば
「牧野の産んだ子、娘らしいんだけど。牧野以上に外に出さない。もうじき3つになるらしいんだけど……一度も正式にお披露目は無し。お披露目が無しどころか、写真一枚出回らないし、娘の世話をするのも限られた者のみらしいよ。宗谷家の極秘事項って言うのかな」
「極秘事項?」
「あぁ」
「それなのにどうやって?」
「牧野への愛」
冗談とも本気ともつかぬ口ぶりで類が言う
「って言うのはさておき、静経由でなんだ___静の恋人の親友の彼女から聞いたらしいんだよ」
「親友の彼女?」
「あぁ、その友達の結婚相手って言うのが、結構由緒正しいお嬢様らしくてね、静に色々聞いて来るらしいんだよね。で、前の結婚の時に、教育係は招待したか?って話しになったらしくてね」
気怠げにソファーに腰掛け横に置いてあるクッションを抱きながら……
「で、最初は気づかなかったらしいんだけどさ、色々話しを聞いてたら、トワちゃんのガヴァネスとそのお嬢様とやらのガヴァネスが同じだって事が判明したらしいんだよ。あっ、司、悪いコーヒー淹れてくんない?」
俺の口端から苦笑が漏れる。
カップにコーヒーを注ぎ類に手渡せば、優雅に頷きながら話しを続ける。
「で、後日会った時に、それとなく聞いてみたらしいんだよね。そしたらさぁ、結婚式に出て欲しくて連絡を取ったら、式には行けないけど日本に帰ってくるから是非会いたいって話しがでたんだってさぁ」
「それで解ったわけか___」
「あぁ、たまたまね。静も最初は誰だか解らなかったらしんだけどね。出身校の話しになって__もしやと思ったらしいよ。偶然って凄いよね。まぁ、全くの人違いかもしれないけどね」
偶然なのか、必然なのか___そんな事はどっちでもかまわねぇ。ただ、運命が俺に味方してくれる……そう感じた
類は、いつもと同じ何を考えてるのか良く解らない表情でほんの少し微笑みながら
「たださぁ、娘もいるんだったら、牧野、幸せなんじゃないのかな。横恋慕なんてやめて祝福してやれば?」
「無理だ」
何も考えずに出た言葉に
「くくっ、無理か__じゃぁ、牧野の娘を含めて愛せるの?」
「愛せる」
「ふっ、即答だね。___それが、牧野の娘を不幸にする結果だとしても?」
「不幸になんかさせやしねぇよ。宗谷以上に俺が愛してやるよ」
「随分と傲慢だね」
「傲慢か。あぁ、そうかもしんねぇな。でも、それが俺だからな」
俺の答えに類は、肩を震わせながら一頻り笑った後
「そうだね。色々思い悩むよりもその方が司らしい___かな。 だったら、今度は牧野が手を掴むのを待つんじゃなくて、奪えるんだよね?」
真顔に戻り真摯な顔で俺に聞く。
「あぁ、今度こそそうするつもりだ」
あの日___強引に西門の邸からつくしを奪って逃げなかった事を一日たりとも後悔せずに過ごした日はない。俺の持つ全てを投げ打ったとしても___もう一度会えたら、宗谷から奪うと決めていた。
つくしの気持ちも、後先も考えない。
クククッ、確かに___傲慢な考えだよな。
「じゃぁさ、良いものを一つ司に見せてあげるよ」
「良いものを一つ?」
後ろポケットからスマホを取り出し何やら操作をする。
「はい、コレ」
「コレ……?」
「うん。抱っこされてるからしっかり顔は解らないけどね__牧野の娘、両親共々にストレートな髪の毛なのに、何故かクルンクルンした巻き毛なんだってさ。静もさぁ、コレ見て教えてくれたんだよね。そうそう静から言伝ね___遺伝子って凄いね。だってさ」
♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
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