三角波 7 総つく
もうじき、この街に来て二年の月日が経とうとしている。
「つくし‥こっち来いよ」
西門さんが、あたしの名を呼ぶ。慣れ親しんだ手順で、お互いの身体を貪りあう。
慣れ親しんだ筈なのに、抱き合う度に、新鮮な驚きと絶頂が訪れる。
セックスの後、あたしの胸の頂をもう一度弄びながら
「お前の身体‥俺のために作られてるんじゃねぇの?」
西門さんがそんな事を口にする。
刺激に?言葉に? 身体が跳ねる。
「したリねぇか?」
「あっ‥ぁっ‥事ない‥」
「あっ、そっ」
不意に止まった刺激。
なのに、疼く身体に声が出る
「っうっ‥」
「したりねぇんだろ?」
西門さんの身体に腕を回して、抱きしめる。
体勢を変え、身体に唇を這わせる。
「くくっ、ホントお前好きもんだよな」
美しい男が、意地悪く笑う。
この貌、仕草に、いいや西門さんの全てに、あたしの身体は蕩けていく。
身体の中に色々なうねりがやってくる‥違ううねりが合わさり、三角波がやってくる。大きな大きな波が‥‥
「あぁあぁーーーーっあぁーーーー」
もうじき‥二つ目の季節が巡って来る。枷が外れて、あたしは自由になれる。
なにものにも縛られず、自由になれる筈なのに‥
嬉しい筈なのに‥
それなのに‥
西門さんの寝顔を見つめ涙を流す。
いつの間にか、いつの間にか、彼を愛していた。西門さんの全てを欲していた。
でも‥あたしは、知っている。
西門総二郎との未来は、道明寺との未来を夢見るよりも‥もっともっと険しい事を。
だったら、飽きるまで‥この関係を続ければいいと考えた。
でも、あたしは知っている。
この男に、この躯に飽きる日など来ない事を。
だって‥‥
西門さんに抱かれたあの日から‥あたしの躯は、彼だけしか求めていないのだから。
一番認めたくなかった感情。
一番見たくなかった感情。
全てが、溢れ出てしまうその前に、この関係に終止符を打とう。牧野つくしとして、立っていられるように。
それが、あたしのプライドだ。
眠る男に呟く。万感の思いをこめ小さく小さく呟く。
「総‥」
窓の外から、
ザブゥーン、ザブゥーン 波の音が聞こえてくる。
別れの日は、雲一つないこれぞ正しい夏の一日というくらいに快晴だった。
最後の思い出に、朝から晩まで抱き合った。言葉など必要ないくらいに抱き合った。
幾ら抱かれても、幾ら絶頂を迎えても足りないくらいに、抱き合った。あたしの女を全て注ぎ込む。
あたしは、あなたを愛してる。
カチッカチッ カチッ 時計の針が0時を指した。
「西門さん‥画像ちゃんと消してね。ここの部屋、あと1週間くらい住んでてもいいかな?」
「はぁっ?お前何言ってんの?」
「っん?昨日で丁度2年だよ」
「‥そんで、お前はいいのかよ?」
「いいも悪いも、最初から約束したでしょ?西門さんとの関係は、二年経ったらお終いだって」
「西門さん‥かぁ‥お前、最後まで‥名前で呼ばねぇのな‥ははっ‥最初から最後まで俺の独り相撲ってやつかよ?」
愛しい男の愛を奏でる台詞にクラクラしながら‥あたしは、笑う。
「西門さんの躯は、最高だったよ。思いのほか楽しめた。有り難うね」
それが、別れの言葉だった。
ザブゥーン、ザブゥーン
波の音だけが聞こえていた。


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