明日咲く花

感激に浸る暇もなく‥
「そうそう如月‥悪いんだけど、あなた出向してくれないかな？」

既に加藤社長の顔に戻って、涼しい顔をして事も無げに、あたしに言う。

目をパチクリするあたしに

「じゃぁ、そう言う事で、今日これから宜しくね」

そう言う事で宜しく？はぁっ？のあたしに

「新しく会社を立ち上げるらしいのよ。と言うわけだから、まっ宜しくね」

宜しくねで片付けられて、何の説明もないまま‥あたしの丸6年が終わりを告げた。

出向かぁー　うーーん。なんて思いながら‥メモの住所に向かう。
ここは、どこ？
〝うわっ、もしや道に迷った？〟なんて思いながら‥テクテクテクあたしは歩く。
歩いても歩いても目的の場所につかない。

あっ、そうそう文明の利器をね、利用しようっと‥スマホで検索検索と、マップを立ち上げる。

音声ガイドが、
『右です。左です。目的地に到着しました。お疲れさまでした』
無機質なのに、お疲れさまが可笑しくて、クスッと笑う。

見上げた先にあったのは、どでかいビルだった。
ビルの受付で名前を告げると、メモを渡される。
メモには、
オフィスの用意がまだなので、屋上庭園にお会いしましょうと書かれている。
ここのビルの一室にでも、オフィスを作るのかな？そんな事を考えながらエレベーターに乗りこんだ。

チーン　
音と共に、エレベーターの扉がゆっくり開く。　

目の前に広がったのは‥‥大きな大きな楡の木だった。
思わず、笑みが溢れる。
くくっ、こんな所で待ち合わせする社長は、きっと素敵な社長に違いない

ビル風が吹く。楡の木がサワサワと揺れている。
楡の木の下には、これまたお誂え向きにベンチが置かれている。

約束の時間には、まだ早い筈。


ちょっと図々しいけど‥いいよね？
うんっいいよ。
そうだよねー

ベンチに座り目を瞑りながら、風と楡の木のお喋りに耳を傾ける。お喋りな楡の木は、子守唄を歌い始める。
サワッサワッサワッ‥‥‥　

すぅーすぅーすぅー　あたしは眠る。　

高校時代の夢を見る。夢の中のあたしが、叫んでる。大きな声で叫んでる。
『くそバカやろー　どたまかち割れろ〜』
あははっ、夢の中のあたしは、随分と威勢が良くって‥自分で放った寝言に驚いて、一瞬目が覚める。
でも‥楡の木の子守唄は、再びあたしを眠りに誘った。

夢の中の小ちゃなあたしが、小ちゃな類に夏みかんの名前を聞いている。

「おにいちゃん、これのおなまえは？」
「夏みかんっていうんだよ。花ことばは、花嫁のよろこびっていうんだ。クゥちゃんがボクのお嫁さんになったらいっぱいいっぱいあげるよ」
「クゥちゃん‥‥‥なる。　ねっ！おにいちゃん　やくしょくよ」

小ちゃな２人が笑ってる。幸せそうに笑ってる。

どこからか、ふわりと夏みかんの香りがする。
夏みかんの香りに包まれて、あたしは、深い深い眠りに落ちて行く。
幸せな幸せな眠りに落ちて行く。


夢の中で、愛おしい人の声が聞こえる。
「つくし、お帰り。会いたかったよ」

都合のいい夢だなぁーなんて思いながら、夢だからいいよね。なんて事をおもった。
あたしは、夢の中で叫ぶ
「類、ただいま。会いたかった」
って。
夢の中のあたしは、幸せに幸せに微笑む。

幸せな夢は、あたしに勇気をくれる。
次に目覚めたら、類に会いに行こうって。



類に会ったら、こう叫ぶんだ。

「類大好き」って。

あたしは、深い深い眠りに落ちていく。





明日はいよいよ最終回





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