ケサランパサラン 04 司つく
密室の中には、不敵に笑う男とその秘書。
2人きりになったら文句の一つでも言って、そのままばっくれようと考えていたのに、中々チャンスは訪れないままにエレベーターは、地下車庫に降りて行く。
チーン
「では道明寺社長、私はこちらで失礼させて頂きます」
会釈をして、秘書の人が去っていく。
ヨシッと気合いを入れた所で‥前方5メートル車の扉を開け待っていたのは、懐かしい顔。
「これは、これは、牧野様。お元気でいらっしゃいましたか?」
嬉しそうに話しかけてくれる。
「はい。打水さんも、お元気でしたか?奥様もお元気ですか?」
「はい。牧野様、お車にどうぞ」
打水さんに促され車に乗り込んでいた。
はっ! すっかりすっかり、あたしこの男のリズムにのせられていると気が付いた時には、車はどこかに向って走り出していた。
「ヨッ」
「‥‥‥」
ヨッじゃない。ジロリと睨めば
「お前、それ久しぶりに会う彼氏への態度じゃないだろうよ?」
どの口で、そんな事を言う?ってぐらい いけしゃぁしゃぁとそんな事を言う。
「‥‥彼氏って?」
「っん?俺だよ俺。この車の中には、打水と俺とお前の3人だろうよ?」
至極当たり前のように口の端をあげながら言う。
「えっ?何それ?」
「何それ?って、何それは俺の台詞だ」
「はっ?あんた何言ってんの?あんたから連絡あったのって、もう何年前よ」
「あぁ、我武者らだったからな。ちょっと待たせちまったよな」
っん? ちょっと? 3年半がちょっとか?
「でも、ちゃんと迎えにきた。昨晩メールしたんだが、お前バックメール寄越さないから、直接押し掛けたってワケだ。待ちきれなくなって行く前に電話しちまったけどな」
なんて言いながら、肩を抱き寄せようとする。
肩を抱き寄せる?いやいや、だから彼氏じゃないし。
慌てて手を払いのければ‥‥美しい顔に陰がさす。
ズキンッと、一瞬胸が痛んだけど‥‥陰がさそうがなんだろうが、そんなのあたしの知ったこっちゃない。
「ねぇ、どこの世界に3年半も連絡がつかないカップルがいるの?」
なのに‥目の前の男は
「たったの3年半だ。たったの3年半で変わりはしないだろうよ?現に俺の気持ちは、牧野しか見てない」
何言ってるんだろう?たったの3年半? 違う。約束の4年だって、会えたのは数える程だ。
連絡が途絶えた最初の半年は、死ぬ程に心配した。デカデカと道明寺司氏婚約間近の記事を見て、あぁ、あたしは、あっけなく捨てられたんだと理解した。惨めだった。きちんとした別れ話もされないで捨てられた自分が。
それから1年。目指していた司法の道を諦めて、それまで以上に死にもの狂いで、勉学に励んで剣崎に入社した。
この日本で、F4と関わりのない会社なんて皆無だった。だけど、剣崎なら道明寺HDに匹敵する大会社だ。だから剣崎を選んだ。
剣崎に入社が決まった時、初めて道明寺との事を思い出して泣いたぐらいだ。
家に引きこもって、バカみたいに泣いた。食べ物を買い込んで、3日3晩泣いた。
泣いても泣いても涙は涸れなかった。
4日目の朝‥ふいに泣いてる自分がバカらしくなった。
窓を開け部屋に風を通して、大掃除して髪を切った。
泣き腫らした目で、髪の毛を切りにいったもんだから、いつもは色々喋って来る美容師の春ちゃんが、何も言わずに黙々とベリーショートに髪を切ってくれた。
鏡に映ったあたしは、目が腫れた小猿みたいだった。
笑っちゃうくらいに小猿に似てて、それが何だかとっても可笑しくて、あぁ、まだ、あたし笑えるんだって思ったのを憶えてる。
それなのに、目の前の男は事も無げに、《たったの3年半》だと言っている。
ケサランパサラン Fin は 11時11分11秒に更新


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