曇天 7 あきつく
「あぁ綺麗だな。」
降ってくる雪を掴まえようと、手の平を差し出している姿が妙に愛らしくて、見るとはなしに見ていた。
「雨は嫌い、でも雪は好き
だなぁー」小さな声で呟いた牧野。
耳元でピアスが揺れている。ゆらゆらゆらゆら揺れている。
「美作さん 明日は何してるの?」
「っん?仕事。」
「そっかぁー 残念。」
「って、お前休み?」
「うふふっ 仕事だよ。」
「じゃぁ 残念でもなんでもねぇじゃん。」
「あはっ、そうだね。」
「なぁー」「ねぇー」
2人同時に
「明日休んじゃおうか……」
目を合わせ笑い合う。
「はぁー 笑った。笑った。」
「あぁ。」
「あたし、五木に入って無遅刻無欠勤」
「俺もだよ。」
「うふふっ、あやうく欠勤1がついちゃう所だった。」
「あぁー そうだな。」
「なぁ牧野、土曜は何してる?」
「うーん、掃除洗濯に読書かな。」
「じゃぁさ、鍋しようぜ、鍋。昼間買い物に行って夜は鍋。どうよ?」
「うん、うん。じゃぁー明日は仕事頑張るかぁー」
「俺も頑張るかぁー」
一瞬空を舞った雪は止み、凍てつく寒さだけが残る‥…
「ねぇ、美作さん雪が積もったら、今度こそずる休みしちゃおうか?」
「それ良いなぁー」
「うん。そうしよ。」
「‥…でもさぁ、きっとあたし達、大雪降っても会社行っちゃうんだろうね。」
「多分な。」
「どう頑張っても羽目をはずせない?って、感じか?」
「ぷぷっ、羽目外しまくりの美作さんに言われても説得力ないけど、そんな感じだね。」
イタズラ気な目をして微笑んだ牧野。
***
あの日から続く寒さが肌を凍てつかせる。
「美作さーん こっちこっちー」
「おぉ」
「ねぇねぇ 何のお鍋にする?って、何その大荷物?」
「新鮮!美味しい!海の魚介。」
「ぷっ、何そのフレーズ。」
「昨日、取引先の社長から貰った。」
「へぇー じゃぁさぁー 」
「「ブイヤベース」」
2人同時で、ブイヤベースに決定した。
バゲットはいつものお店。
細かい買い物をして店を出る。
牧野のマンション。オートロックのしっかりとしたマンションだ。
「うふっ、床は抜けないよ」
幼い日の恋の思い出を口にする牧野。
牧野の部屋は、牧野の香りそのものでとても清潔で温かな部屋だった。
「なんか牧野って感じだな。」
「そう?どんな感じ?って、ツッコミたくなるけど、美作さんに言われると素直に嬉しいね。ありがとう。」
「あっ、これ、お土産」
キャラメル・アンティークのバラの花束を渡す。
「うわぁー綺麗な色。ありがとう♡」
2人でキッチンに立ち、あーだこーだ会話をしながら男の料理とばかりに、俺がブイヤベースを作り、横で、牧野がつまみを作る。
どれどれとつまみ食いをしては怒られる。
「うーーん 美味しい」
「うーん 美味い」
あたし達は同じもの見て綺麗だと思い、同じもので笑い、同じものを食べて美味しいと感じる。
あたしは、美作さんといると幸せで、曇天の空さえも穏やかな気持ちで過ごせる。
美作さんは、心の中にスゥーッと入ってくる。音さえさせずに。
どこか似ていて、どこか違う。
どこか違って、どこか似てる。
あたしと美作さん
美作さんを眺めながら、あたしは、美作さんに恋をし始めた自分に気が付く‥…
窓の外には、夜の帳とともに、いつの間にか雪が降って来ていた。
シンシンと雪が降り積もる...
あたしの心にも恋心が降り積もる。
★曇天は不定期連載中。
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