baroque 21
なんでだろう
palpitant
あなたを見ると
palpitant
心が踊り出す
「ステファン__元気かな?」
薫を見送りながら、いつも陽気なステファンの事を考えてくすっと笑った。
ステファンは、もともと薫の友人で大学を卒業した年に筒井のセミナーを受けに日本にやって来たヴァールナ家の御曹司だ。ヴァールナ家を通して正式につくしに交際を申し込んで来た事がある。だが、つくしに報らせる前に雪乃が断っていたのだ。ステファンだけではなくつくしに惹かれつくしを欲したものは沢山いた。その度に雪乃はまだ早いと握り潰してきたのだ。その事をつくしは知らない。
「さぁてと__片付けしちゃおうっと」
夕飯の下ごしらえまで終え時間を持て
余したつくしは、プールで一泳ぎする事に決めスイムウェアーをバッグに詰め込み部屋を出た。
何往復かした所で
「つくし!」
名前を呼ぶ声がして顔を上げれば、総二郎がつくしを見て笑っていた。
「どうしたっちゃ?」
「それは俺の台詞。今週は京都に戻んなかったのか?」
「あっ、うん。用事が出来たから__」
「そっか」
「総は、どうしたっちゃ?」
「っん? 仕事帰り__って奴になんかな?__相手に用が出来たとかで思いの外に早く終わっちまったから、まぁ息抜きって奴かな? あっ、お前背中どうした?」
「背中?」
つくしが聞き返せば
「所々赤くなってんぞ。なんか虫にでも刺されたか? キスマークみたいだぞ。って、マジにキスマークだったりしてな。ククッ」
屈託なく総二郎が笑う。
「ははっ__そう言われたら何か痒い感じかな?」
ドクドクと心臓が跳ね上がった次の瞬間、総二郎の指先がつくしの背中に触れた。
「ひゃっ」
「あっ、悪り。でも、腫れてはないみたいだぞ」
総二郎は、慌てて手を引っ込めながらそう言った。
「あっ、うん。ありがとう。あとで薬つけとく」
「背中付けられっか?付けてやろうか?」
「えっ?」
「うんっ?……………あっ、ゴメン」
つくしは首を振りながら
「ううん。って、どんだけ女に見られてないっちゃっ?」
可笑しそうに大きく笑った。
「イヤ……」
違うと言いかけて...... これ以上口にしたら全てを壊してしまいそうで総二郎は口を噤んで違う言葉を紡いだ。
「あっ、お前この後用事は?生菓子あんぞ。食いに来いよ」
つくしは室内の時計をチラッとみてから
「__少しだけお邪魔させてもらおう…かな?」
「じゃぁ、俺先に行って待ってから」
「うん。あともうちょっと泳いでから行くね」
誰かに見つからない様に別々の行動をとって同じ場所に行くのだ。
生菓子を食べるつくしの横で、総二郎は冷凍庫から緑の瓶を取り出してグラスに注いでいく。
「それ何?」
「っん? 飲んでみるか?」
好奇心にかられてつくしが一口口にする。
「これってジン?なんで凍ってないっちゃ?それになんだかトロトロしてるっちゃ」
「あぁ、ジンは度数が強いから冷凍しても凍んねぇんだよ。代わりにトロトロになんの」
「へぇーーっ 不思議」
たった一口口にしただけなのに__つくしの白い肌がほんのりと桜色に染まっている。
その様が何故かとても艶かしく見えて
ゴクリッ
総二郎の喉が上下した。
「つくし……」
「っん?なに?」
「あっ、いや呼んでみただけ」
「ぷっ、なにそれ。ぷぷっ ふふっっ」
誤摩化す様にグラスの中のストレートジンを一気に飲み干してバカ話しに興じた。
「くくくっ、もう総ったら。ぁぁもう、笑ってばかりでお腹痛いっちゃ。あっ、そうそう24日ね大丈夫になったんだ」
「マジ?じゃぁ、この前みたいにお忍びすっか?」
「いいの?」
「あぁ、行きたい所考えときな」
コクンとつくしは頷いてから時計を見て
「あたし、そろそろ失礼するね」
そう言って立ち上がった。
刹那
__倒れそうになって総二郎に抱き竦められた。
「大丈夫か?」
「あっ、うん。大丈夫。ま、ま、またね」
「あぁ、またな」
つくしを見送りドアを閉める__抱き竦めた感覚が腕に残っている。
「はぁっ、ったく、やってらんねぇよな……
でも、この感覚悪くねぇんだよな。って俺、かなり重症ってやつだよな」
一人呟き優しく笑う。


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