無花果の花は蜜を滴らす 02
「確かに、今度食べに行こうとは言われましたが……」
「昨日の昼食は会食だったし、夜は残業だったからね。それに明日は休みだろ？ だったら来ない選択はないだろ？」
彼は、ニッコリ微笑んでカブサを口にする。その笑顔があまりにも可愛くてたまらない。今日の花沢さんマル秘日記には、この事を書こうと決めた。
「本来は、手で食べるんですよ」
「ふーん。外だとやりにくいから、牧野さん、今度作ってよ」
彼の瞳がキラキラ光りながら、あたしを見つめる。吸い込まれそうになるほどに美しい瞳にあたしの心臓はバクバクしっぱなしだ。
「牧野さんの瞳って、綺麗だよね」
サラリと誉め言葉を言われ、クラクラしそうになっていたら
「アバヤ被ってても、いっぺんで見つけられたのにな……まさか、トルコやサウジアラビアだなんて思いもしなかったな」
なんとなく避けていた当時のことに触れてきた。何から話し始めたらいいのか、あたしは途方にくれて言葉を詰まらせた。
「あっ、ごめん。なんか、凄く意外な国の名前が上がったからさ」
「意外でした？」
「うん。トルコはまだしも、サウジアラビアは観光ビザも降りない。日本企業も限られてるし、それに、戒律も厳しいでしょ？」
「確かに制約は多いですけど、実は女性はみんなお洒落で、自宅ダンサーだったりするんですよ」
「ダンサー？ こんな感じのダンス？」
店内で踊られているベリーダンスを指差す。
「ハリージスタイルって、言ってもっとスローテンポなのが主でしたよ。うんと……あっ！女子会、そう、日本でいう女子会があるんですよ。そこで踊るんです。でね、そこは男子禁制だからアバヤは被らない。みんな色とりどりの流行りの洋服でね。あっ、サウジの人って、彫りが深いから美人市みたいなんですよ。つくしは、なんでそんなにツルツルしてるんだって、言われててね。最初は、肌がツルツル？なんて喜んだんですけどね」
あたしの話しに、目尻に優しいシワを寄せ優しく笑いながら
「じゃあ、俺のタイプは、ツルツルな人かな」
シレッと言うものだから、あたしの顔が真っ赤に染め上がる。
「牧野さん、顔が真っ赤になってるよ」
彼がクスリといたずらっ子の笑みを浮かべる。
「スパイス料理なんで発汗中です」
「恋のスパイス……なんてね。プッ」
自分で発した言葉が、どうやらドストライクでツボに嵌まったらしく、彼は暫く笑い続けた。
見たくて見たくて堪らなかった笑い顔。こんなに幾つもあるなんて知らなかった。
「花沢専務って笑い上戸なんですね」
「時折ね。あっ、それよりさ、二人で食事するときは、専務は止めてくれないかな？」
眉をしかめながら訝しげに見つめれば
「どこで誰の耳があるかわからないでしょ？ 態々、注目集めることないかなって」
「はぁあっ」
「っん？随分不服そうだね」
「いやっ、不服ではないのですが、なんてお呼びすれば宜しいのかと……やはり、花沢様？」
「それ、変でしょ。第一、そんなに年齢変わんないし」
「じゃ、花沢さん？」
「いやいや、花沢だと社名だからさ、ばれやすいよね」
「……じゃ、なんて？」
「類でいいよ。類で。で、俺は、つくしでいいよね？」
「ぅへっ」
つくしなんて呼ばれて、あんまりにもビックリして喉の奥から変な声が出た。
「プッ、つくし、やっぱり、あんたって変わってるよね」
彼はあたしの名をスラリと調べに乗せる。
「はい。じゃ、つぎはつくしが俺の名を読んでみて」
「は、は、」
「ハ行じゃないよ。はい。もう一度」
「ラリルレ、ルイ……さん」
「ラ行でもないよ」
「る、る、ルイさん」
「るが二つ余分」
「ルイさん」
「惜しい！さんは要らない」
「そ、そ、それは……
呼び捨てなんて、し、し、親密みたいじゃないですか」
「じゃあ、親密になればいいじゃないかな？
それとも、バカンスを１０日申請OKしてくれる？」
ニンマリと笑う。彼は昔も今もあたしの落とし所に詳しいようだ。
「……る…い」
「っん？ ５日はOK？」
「類っ」
思いきり叫んだら、顔をクシャクシャにして
「良くできました」
小さな子のように誉められて、なんだかくすぐったくてフワフワした照れ臭い気持ちに包まれた。
店を出て、裏通りを二人で歩く。
喧騒の音と車のクラクションの音が、どこか遠くで聞こえ
「まるで……「「二人きりみたい」」
自惚れそうになるほどに言葉が合わさった。
大きく一つ息を吸い
「少しあたしの昔話に付き合ってもらっていいですか？」
あたしはあたしの過去を今に未来に繋げるために、話し出した。
「昨日の昼食は会食だったし、夜は残業だったからね。それに明日は休みだろ？ だったら来ない選択はないだろ？」
彼は、ニッコリ微笑んでカブサを口にする。その笑顔があまりにも可愛くてたまらない。今日の花沢さんマル秘日記には、この事を書こうと決めた。
「本来は、手で食べるんですよ」
「ふーん。外だとやりにくいから、牧野さん、今度作ってよ」
彼の瞳がキラキラ光りながら、あたしを見つめる。吸い込まれそうになるほどに美しい瞳にあたしの心臓はバクバクしっぱなしだ。
「牧野さんの瞳って、綺麗だよね」
サラリと誉め言葉を言われ、クラクラしそうになっていたら
「アバヤ被ってても、いっぺんで見つけられたのにな……まさか、トルコやサウジアラビアだなんて思いもしなかったな」
なんとなく避けていた当時のことに触れてきた。何から話し始めたらいいのか、あたしは途方にくれて言葉を詰まらせた。
「あっ、ごめん。なんか、凄く意外な国の名前が上がったからさ」
「意外でした？」
「うん。トルコはまだしも、サウジアラビアは観光ビザも降りない。日本企業も限られてるし、それに、戒律も厳しいでしょ？」
「確かに制約は多いですけど、実は女性はみんなお洒落で、自宅ダンサーだったりするんですよ」
「ダンサー？ こんな感じのダンス？」
店内で踊られているベリーダンスを指差す。
「ハリージスタイルって、言ってもっとスローテンポなのが主でしたよ。うんと……あっ！女子会、そう、日本でいう女子会があるんですよ。そこで踊るんです。でね、そこは男子禁制だからアバヤは被らない。みんな色とりどりの流行りの洋服でね。あっ、サウジの人って、彫りが深いから美人市みたいなんですよ。つくしは、なんでそんなにツルツルしてるんだって、言われててね。最初は、肌がツルツル？なんて喜んだんですけどね」
あたしの話しに、目尻に優しいシワを寄せ優しく笑いながら
「じゃあ、俺のタイプは、ツルツルな人かな」
シレッと言うものだから、あたしの顔が真っ赤に染め上がる。
「牧野さん、顔が真っ赤になってるよ」
彼がクスリといたずらっ子の笑みを浮かべる。
「スパイス料理なんで発汗中です」
「恋のスパイス……なんてね。プッ」
自分で発した言葉が、どうやらドストライクでツボに嵌まったらしく、彼は暫く笑い続けた。
見たくて見たくて堪らなかった笑い顔。こんなに幾つもあるなんて知らなかった。
「花沢専務って笑い上戸なんですね」
「時折ね。あっ、それよりさ、二人で食事するときは、専務は止めてくれないかな？」
眉をしかめながら訝しげに見つめれば
「どこで誰の耳があるかわからないでしょ？ 態々、注目集めることないかなって」
「はぁあっ」
「っん？随分不服そうだね」
「いやっ、不服ではないのですが、なんてお呼びすれば宜しいのかと……やはり、花沢様？」
「それ、変でしょ。第一、そんなに年齢変わんないし」
「じゃ、花沢さん？」
「いやいや、花沢だと社名だからさ、ばれやすいよね」
「……じゃ、なんて？」
「類でいいよ。類で。で、俺は、つくしでいいよね？」
「ぅへっ」
つくしなんて呼ばれて、あんまりにもビックリして喉の奥から変な声が出た。
「プッ、つくし、やっぱり、あんたって変わってるよね」
彼はあたしの名をスラリと調べに乗せる。
「はい。じゃ、つぎはつくしが俺の名を読んでみて」
「は、は、」
「ハ行じゃないよ。はい。もう一度」
「ラリルレ、ルイ……さん」
「ラ行でもないよ」
「る、る、ルイさん」
「るが二つ余分」
「ルイさん」
「惜しい！さんは要らない」
「そ、そ、それは……
呼び捨てなんて、し、し、親密みたいじゃないですか」
「じゃあ、親密になればいいじゃないかな？
それとも、バカンスを１０日申請OKしてくれる？」
ニンマリと笑う。彼は昔も今もあたしの落とし所に詳しいようだ。
「……る…い」
「っん？ ５日はOK？」
「類っ」
思いきり叫んだら、顔をクシャクシャにして
「良くできました」
小さな子のように誉められて、なんだかくすぐったくてフワフワした照れ臭い気持ちに包まれた。
店を出て、裏通りを二人で歩く。
喧騒の音と車のクラクションの音が、どこか遠くで聞こえ
「まるで……「「二人きりみたい」」
自惚れそうになるほどに言葉が合わさった。
大きく一つ息を吸い
「少しあたしの昔話に付き合ってもらっていいですか？」
あたしはあたしの過去を今に未来に繋げるために、話し出した。
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