baroque93
沈みゆく太陽が空を黄金色から緋色に染め上げていく。
「見て見て 総くん。このデザート、2匹のウサギの絵が描かれてる」
はしゃぐように雛子に言われ、総二郎は寄り添うように、雛子の前の緋色に縁取られた皿をのぞき込む。
美しい二人が仲睦まじく寄り添うその姿は、窓から見える緋色の空と相まって、どこか幻想的だ。そんな二人の姿を見て篠田は嬉しそうに微笑んだ
「……そう言えば、西門の後援会に、克昭さんも入ったのよね?」
「えぇ、友香里伯母さまが伯父さまに勧めてくださったみたいなの」
篠田の問いに雛子は嬉しそうに答えた。嬉しそうに話す雛子の言葉に篠田は目を細めた。
「そうなのね。
じゃぁ、すっかり若宗匠のファンになった私も主人に進言しないとだわね」
「ぜひお願いいたします」
「雛ちゃんたら、宣伝部長さんみたいだわね」
「それはそうよ、おば様。
総くんは、将来絶対に人間国宝になるお方ですもの」
言い切る雛子に、総二郎は苦笑しながら
「雛ちゃん、よく言い過ぎだよ」
言葉を挟めば
「あら、総くんは未だ御自分の事をよく知らないだけでしてよ。だって私の私の審美眼は優れてますもの」
「そうね。雛ちゃんの薦めてくれるものは、本当に価値があるものが多いものね」
「でしょう。おば様。
その雛子がいま一押しでお薦めするのが総くんです。
______って、なんだかテレビショッピングの宣伝みたいになっちゃった」
コテンと首を傾げる雛子に、篠田と総二郎が微笑む。
墨汁を垂らしたかのように緋色に染まった空にジワジワと暗闇が広がっていく__________ジワジワと広がった暗闇は、気がついた時には真っ暗な空に変わっていた。
篠田を見送った二人は、手を繋ぎ街を歩いた。
「見て総くん」
「っん?」
「プリクラがあるの」
上目遣いに雛子に見つめられ総二郎は
「一緒に撮ろうか?」
そう聞いていた。雛子の顔に満開の花が咲く。
プリントされたプリクラを胸に抱え
「雛子の一生の宝物」
可愛らしく雛子が微笑む。総二郎は雛子の笑顔を見ながら、つくしと初めて撮ったプリクラを思い出し、柔らかく微笑んだ。
その瞬間……雛子の目に悲しみの暗闇が浮かんだことに、総二郎は気づかない。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
薫は手を止め、黄金色の空が緋色に染まっていくさまを見ていた。
綺麗だねと、いつか心から感じた言葉をなぞってみても、その時感じた思いを何一つなぞれない。
「ふっ」
薫は己を自嘲するかのような乾いた笑いを一つこぼして、緋色に染まった空から目を離した。
つくしの心変わりを感じ始めた頃からだろうか……世界が少しづつ歪んでみえるようになったのは__________それでも、つくしと二人、同じ時間を過ごしている時だけは、歪ではない時間の中で過ごすことが出来た。
「本当に、もう一度……綺麗だと……思える日が来るの……かな」
そう呟きながら、久しぶりに触れたつくしの温もりを思い出し
「くる______いいや、こさせる」
自分に言い聞かせるかのように右手を握った瞬間_________
ドアがノックされ、時政の来訪が告げられる。
「見て見て 総くん。このデザート、2匹のウサギの絵が描かれてる」
はしゃぐように雛子に言われ、総二郎は寄り添うように、雛子の前の緋色に縁取られた皿をのぞき込む。
美しい二人が仲睦まじく寄り添うその姿は、窓から見える緋色の空と相まって、どこか幻想的だ。そんな二人の姿を見て篠田は嬉しそうに微笑んだ
「……そう言えば、西門の後援会に、克昭さんも入ったのよね?」
「えぇ、友香里伯母さまが伯父さまに勧めてくださったみたいなの」
篠田の問いに雛子は嬉しそうに答えた。嬉しそうに話す雛子の言葉に篠田は目を細めた。
「そうなのね。
じゃぁ、すっかり若宗匠のファンになった私も主人に進言しないとだわね」
「ぜひお願いいたします」
「雛ちゃんたら、宣伝部長さんみたいだわね」
「それはそうよ、おば様。
総くんは、将来絶対に人間国宝になるお方ですもの」
言い切る雛子に、総二郎は苦笑しながら
「雛ちゃん、よく言い過ぎだよ」
言葉を挟めば
「あら、総くんは未だ御自分の事をよく知らないだけでしてよ。だって私の私の審美眼は優れてますもの」
「そうね。雛ちゃんの薦めてくれるものは、本当に価値があるものが多いものね」
「でしょう。おば様。
その雛子がいま一押しでお薦めするのが総くんです。
______って、なんだかテレビショッピングの宣伝みたいになっちゃった」
コテンと首を傾げる雛子に、篠田と総二郎が微笑む。
墨汁を垂らしたかのように緋色に染まった空にジワジワと暗闇が広がっていく__________ジワジワと広がった暗闇は、気がついた時には真っ暗な空に変わっていた。
篠田を見送った二人は、手を繋ぎ街を歩いた。
「見て総くん」
「っん?」
「プリクラがあるの」
上目遣いに雛子に見つめられ総二郎は
「一緒に撮ろうか?」
そう聞いていた。雛子の顔に満開の花が咲く。
プリントされたプリクラを胸に抱え
「雛子の一生の宝物」
可愛らしく雛子が微笑む。総二郎は雛子の笑顔を見ながら、つくしと初めて撮ったプリクラを思い出し、柔らかく微笑んだ。
その瞬間……雛子の目に悲しみの暗闇が浮かんだことに、総二郎は気づかない。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
薫は手を止め、黄金色の空が緋色に染まっていくさまを見ていた。
綺麗だねと、いつか心から感じた言葉をなぞってみても、その時感じた思いを何一つなぞれない。
「ふっ」
薫は己を自嘲するかのような乾いた笑いを一つこぼして、緋色に染まった空から目を離した。
つくしの心変わりを感じ始めた頃からだろうか……世界が少しづつ歪んでみえるようになったのは__________それでも、つくしと二人、同じ時間を過ごしている時だけは、歪ではない時間の中で過ごすことが出来た。
「本当に、もう一度……綺麗だと……思える日が来るの……かな」
そう呟きながら、久しぶりに触れたつくしの温もりを思い出し
「くる______いいや、こさせる」
自分に言い聞かせるかのように右手を握った瞬間_________
ドアがノックされ、時政の来訪が告げられる。
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