水音〜ちゃぷん〜02
ちゃぷんっ
お湯に浸かれば冷えきり強張った身体が解れていく。
「まさか……こんな所で会うなんてだよね」
自宅マンションからほど近い加茂川のほとりで、つくしは総二郎と七年ぶりに再会した。
大学二年の終わり、かつての恋人だった道明寺司と別れた。道明寺と何処ぞのご令嬢との政略結婚が決まったからだ。正式に話が決まる半年前に道明寺は、つくしに全てを話し、別れたくないと懇願し足掻いてくれた。結果、どうにもならなかった。
あれは道明寺の婚約発表の前日だった。 朝から何度も携帯が鳴っていた。出たところでどうにもならない。だからつくしは、出なかった。それでも未練なのだろうか……つくしは携帯を握り締め、あてもなく歩き続けた。歩いて歩いて気がつけば、目黒川の橋の上にいた。RRRと携帯が音を立てた。つくしは未練を断ち切るように橋の上から握りしめていた携帯を手放した。その直後だっただろうか?それともしばらく経っていたのだろうか、ジョギング姿の総二郎に声をかけられた。
「西門さんがジョギング? なんか凄い似合わないもの見た気がする」
そう声に出したあと笑った。
「昨日まで、山で修行なんてものをしてたからな。身体を動かしてないとなんか落ち着かねぇんだよ」
「あぁ だから髪短いんだ。なんかスポーツ少年みたいだね」
ベンチに腰掛け修行先であった話を聞いた。一時間ほど喋っていただろうか
「おっ やべぇ 今日懇親会ってやつなんだわ またみんなでゆっくり会おうや 司によろしくな」
そう言って総二郎は、軽やかに走って消えた。
そうだ京都に行こう
CMの様につくしが思い立ったのは、この半年間のことを何も知らない総二郎が屈託なく語った雲水さんとしての日常の話が切っ掛けだった。
つくしは、アパートに戻り旅行鞄に荷物を詰め込んだ。
宿坊に泊まり禅修行を体験した。たった四日間の経験だったがそこで現在のルームメイトでもあり親友でもあるインディゴちゃんこと藍田ワタルと出会った。
生まれも育ちも違う二人だったが、何しろ気が合った。
「京都観光もしとかんと」
そう言ってつくしを自分の住むマンションに連行した。毎日色んな所に連れて行かれ、気がつけば、お互いに全てを語り合っていた。
憐憫も同情もせずに二人はお互いを理解しあった。
「あんた、こっちに住まん?」
インディゴちゃんにそう聞かれた時、つくしは直ぐに頷いた。笑顔という鎧の下に悲しみを隠して生活を続けていたつくしの精神は限界を超えていた。東京に帰る事なく京都での生活を始めた。
老舗の和紙屋雪月堂でバイトを始め気持ちがだいぶ落ち着いた頃、京都の大学への編入をインディゴちゃんに勧められた。無事に編入した大学では沢山の友人が出来た。卒業後、京都が本社のLucy HDに入社し、京都が仮初めではない、足を地につけ暮らしていく場所になった。それでもやっぱり道明寺関連の話を聞くと心が疼いた。
加茂川のほとりで、総二郎と二度目に会ったのもたまたまだった。
その日、仕事帰り居合わせた筒井会長の孫息子でジュエルHD社長でもある宝珠薫に食事でも一緒にどうと誘われた。「約束があるので」と嘘を吐き断った。
別に薫のことが嫌いなわけではない。ただ、会長秘書のつくしをやっかむ人間が多い。そこに、会長の孫息子であり尚且つLucyHDの孫息子で次期後継者と言う肩書きを携えた薫の誘いは……
「やめてーよね
に、しても……どこで時間潰そう」
以前、薫の誘いを断わった時、学生時代からの友人であるカオちゃんとインディゴちゃんは抑えられていて自宅で鍋パーティーが開かれていたのだ。
「ふぅー」
ため息を一つ吐いたあとラーメン屋で夕食をとり、路地裏に隠れるようにある珈琲屋に向かった。自由気ままな店主が経営する珈琲屋は、看板もないし、しょっちゅう休んでいる。しかも珈琲屋と銘打っているのにその時々でメニューが変わっていて、珈琲屋なのにコーヒーがない事がある。でもとっても落ち着く。そんなお店だ。ここの存在はインディゴちゃんにも教えていない。つくしは時折一人になりたくてここに来る。ゆったりと時間を潰してから、最後のトドメとばかりに、川辺を歩きながら帰ることにした。
月の綺麗な夜だった。ボワッと何かが光った。目を擦りながら発光体に近寄れば
「西門さんっ」
「おっ 牧野」
「何やってんの?」
「っん? 水切り」
「水切り?」
「コレだよ」
言葉と共に総二郎の手から離れた石が水面の上をかけていった。
「すごっ でもコレって石切りじゃない?」
水切りだ石切りだの言い合いになったあと、水切りの講習が行われた。
「ったぁー お前 ホント下手だな いいか見てろよ」
シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ
「うわっ 西門さん凄い!
五回も水切ってるー なんか色々テクニシャンだよね」
「プッ 色々って何だよ色々って」
「色々は色々よ
でも意外だなー こんなさぁ庶民の遊び知ってて。って知ってるってか得意よね?」
「ガキの頃、一時期この辺に住んでたから、近所の奴らとよくやったんだ」
「へぇ だからココに来てたんだ」
「なんかな」
「月初めの木曜日は京都で定例会なんだ」
帰りがけ総二郎がそう口にした。約束したわけじゃないのに……月に一度数時間の時を二人で過ごす。
傘にあたる雨音を聞いた日も、花冷えの中桜吹雪を見上げた日も、頸に汗をかき総二郎の手土産の花火を楽しんだ日も……約束したわけじゃないのに二人で同じ時を楽しんだ。
お次は
るいか様
★ちゃぷんじゃないけどしゃわーーーー★第2話
12月3日 18:00

お湯に浸かれば冷えきり強張った身体が解れていく。
「まさか……こんな所で会うなんてだよね」
自宅マンションからほど近い加茂川のほとりで、つくしは総二郎と七年ぶりに再会した。
大学二年の終わり、かつての恋人だった道明寺司と別れた。道明寺と何処ぞのご令嬢との政略結婚が決まったからだ。正式に話が決まる半年前に道明寺は、つくしに全てを話し、別れたくないと懇願し足掻いてくれた。結果、どうにもならなかった。
あれは道明寺の婚約発表の前日だった。 朝から何度も携帯が鳴っていた。出たところでどうにもならない。だからつくしは、出なかった。それでも未練なのだろうか……つくしは携帯を握り締め、あてもなく歩き続けた。歩いて歩いて気がつけば、目黒川の橋の上にいた。RRRと携帯が音を立てた。つくしは未練を断ち切るように橋の上から握りしめていた携帯を手放した。その直後だっただろうか?それともしばらく経っていたのだろうか、ジョギング姿の総二郎に声をかけられた。
「西門さんがジョギング? なんか凄い似合わないもの見た気がする」
そう声に出したあと笑った。
「昨日まで、山で修行なんてものをしてたからな。身体を動かしてないとなんか落ち着かねぇんだよ」
「あぁ だから髪短いんだ。なんかスポーツ少年みたいだね」
ベンチに腰掛け修行先であった話を聞いた。一時間ほど喋っていただろうか
「おっ やべぇ 今日懇親会ってやつなんだわ またみんなでゆっくり会おうや 司によろしくな」
そう言って総二郎は、軽やかに走って消えた。
そうだ京都に行こう
CMの様につくしが思い立ったのは、この半年間のことを何も知らない総二郎が屈託なく語った雲水さんとしての日常の話が切っ掛けだった。
つくしは、アパートに戻り旅行鞄に荷物を詰め込んだ。
宿坊に泊まり禅修行を体験した。たった四日間の経験だったがそこで現在のルームメイトでもあり親友でもあるインディゴちゃんこと藍田ワタルと出会った。
生まれも育ちも違う二人だったが、何しろ気が合った。
「京都観光もしとかんと」
そう言ってつくしを自分の住むマンションに連行した。毎日色んな所に連れて行かれ、気がつけば、お互いに全てを語り合っていた。
憐憫も同情もせずに二人はお互いを理解しあった。
「あんた、こっちに住まん?」
インディゴちゃんにそう聞かれた時、つくしは直ぐに頷いた。笑顔という鎧の下に悲しみを隠して生活を続けていたつくしの精神は限界を超えていた。東京に帰る事なく京都での生活を始めた。
老舗の和紙屋雪月堂でバイトを始め気持ちがだいぶ落ち着いた頃、京都の大学への編入をインディゴちゃんに勧められた。無事に編入した大学では沢山の友人が出来た。卒業後、京都が本社のLucy HDに入社し、京都が仮初めではない、足を地につけ暮らしていく場所になった。それでもやっぱり道明寺関連の話を聞くと心が疼いた。
加茂川のほとりで、総二郎と二度目に会ったのもたまたまだった。
その日、仕事帰り居合わせた筒井会長の孫息子でジュエルHD社長でもある宝珠薫に食事でも一緒にどうと誘われた。「約束があるので」と嘘を吐き断った。
別に薫のことが嫌いなわけではない。ただ、会長秘書のつくしをやっかむ人間が多い。そこに、会長の孫息子であり尚且つLucyHDの孫息子で次期後継者と言う肩書きを携えた薫の誘いは……
「やめてーよね
に、しても……どこで時間潰そう」
以前、薫の誘いを断わった時、学生時代からの友人であるカオちゃんとインディゴちゃんは抑えられていて自宅で鍋パーティーが開かれていたのだ。
「ふぅー」
ため息を一つ吐いたあとラーメン屋で夕食をとり、路地裏に隠れるようにある珈琲屋に向かった。自由気ままな店主が経営する珈琲屋は、看板もないし、しょっちゅう休んでいる。しかも珈琲屋と銘打っているのにその時々でメニューが変わっていて、珈琲屋なのにコーヒーがない事がある。でもとっても落ち着く。そんなお店だ。ここの存在はインディゴちゃんにも教えていない。つくしは時折一人になりたくてここに来る。ゆったりと時間を潰してから、最後のトドメとばかりに、川辺を歩きながら帰ることにした。
月の綺麗な夜だった。ボワッと何かが光った。目を擦りながら発光体に近寄れば
「西門さんっ」
「おっ 牧野」
「何やってんの?」
「っん? 水切り」
「水切り?」
「コレだよ」
言葉と共に総二郎の手から離れた石が水面の上をかけていった。
「すごっ でもコレって石切りじゃない?」
水切りだ石切りだの言い合いになったあと、水切りの講習が行われた。
「ったぁー お前 ホント下手だな いいか見てろよ」
シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ
「うわっ 西門さん凄い!
五回も水切ってるー なんか色々テクニシャンだよね」
「プッ 色々って何だよ色々って」
「色々は色々よ
でも意外だなー こんなさぁ庶民の遊び知ってて。って知ってるってか得意よね?」
「ガキの頃、一時期この辺に住んでたから、近所の奴らとよくやったんだ」
「へぇ だからココに来てたんだ」
「なんかな」
「月初めの木曜日は京都で定例会なんだ」
帰りがけ総二郎がそう口にした。約束したわけじゃないのに……月に一度数時間の時を二人で過ごす。
傘にあたる雨音を聞いた日も、花冷えの中桜吹雪を見上げた日も、頸に汗をかき総二郎の手土産の花火を楽しんだ日も……約束したわけじゃないのに二人で同じ時を楽しんだ。
お次は
るいか様
★ちゃぷんじゃないけどしゃわーーーー★第2話
12月3日 18:00

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