ずっとずっと 102
「つくし、あなたは、もう後戻りは出来ないのよ。司を愛するように愛せなくても、薫と幸せになる努力はして」
グレンダが、ニッコリ微笑んであたしに囁いた。
あたしは扉を開け、玄関ホールに向う。 真っ直ぐ前を向き、薫を出迎えるために。
*
「薫様‥‥」
慌てた声で片倉から連絡が入る。
お婆様が、アレンの演奏会を筒井の邸で催す事に決定し、既にグレンダ始めゲストのものが見えてると言う。
フッ、お婆様も酔狂な真似をなさる。
直前になって、場所の変更、その上それが無しになんかなってみろ?瞬く間にある事無い事噂になってしまう。流石、お婆様でいらっしゃる。感服の気持ちさえ湧いて来る。
相手が認めるしかないように、一気に攻め込む‥‥ 大変勉強になりました。
「如何なさいましょう。」
「如何も何も,いらしゃって頂いている方達に粗相のないようにするしかないだろう。」
「はっ、大変申し訳ございません。」
電話を切る。いつの間にか親指を噛んでいた様で、血が滲んでいる。
血‥つくしの唇の傷はどうしただろう? 感情に任せて、酷い事をしてしまった。
僕の人生で、つくしに出逢えた、ただそれだけで幸せだった筈なのに‥
一条の温かな光に包まれる、それだけで幸せだった筈なのに‥
君に愛されたいと願ってしまった。僕の心がそれを望んでしまった。
愛する事は、幸せなのに、愛される事を望むと何故こんなにも気が狂いそうな程、切なくなるのだろう?
つくしを愛してる。愛する気持ちと同じくらい、僕の意に添わない彼女が憎い。
つくしを自由に羽ばたかせてあげたい。いや、鳥籠に囲いしまい込んでしまいたい。
表裏一体の僕の気持ち。
一瞬目を閉じ、仕事に意識を戻す。
夜も更けた頃、筒井の邸に戻る。
アレンとグレンダが泊まっていると、連絡が入っている。
つくしは、アレンの演奏を楽しむ事が出来たのだろうか?
今日一日が、彼女にとって幸せな日だったろうか?
僕自身が自由を奪ったというのに、自分自身の矛盾した気持ちに可笑しくなる。
車が邸に着く。つくしがホールで僕の帰りを待っていてくれている。
後方から、グレンダとアレンがやってくるのが見える。
「お帰りなさい」
僕のつくしが出迎えてくれる。
「お言葉に甘えさせて頂いております。」
グレンダとアレンの2人が、美しく微笑み、挨拶をしてくる。その美しい笑顔の下で君達2人は何を企んでいるのだ?それともただ純粋な笑顔なのか?僕は探るように彼女達をマジマジと眺める。
アレンが、薄く笑い言葉を発する。
「先ほど、2人の馴れ初めをお伺いしてましたのよ。劇的な出逢いに感動しましたわ。薫さんは随分とつくしにご執心なのですね。」
グレンダが言葉を続ける。
「道明寺共々、末永くお付き合いの程、宜しくお願い致しますわ。」
つくしが、僕の隣で微笑む。
お婆様がやって来て
「もう遅いですから、明日の朝にでもなさったら?」
僕等を寝室に戻るように促す。
グレンダとアレンに挨拶をする。
つくしは、一瞬名残り惜しそうに2人を眺めたが、僕の後ろを着いて来る。
バタンッ
「昼間は、ごめん‥唇は跡になっていない?」
「大丈夫‥‥あたしこそ、ごめんなさい」
「謝らないで‥僕が悪いんだから。本当にごめん。」
薫が項垂れる。
あなたは何故ここまで、あたしを愛してくれるの?
薫が、あたしの目を見つめ
「愛してる」
シンプルに愛の言葉を囁き、口づけをする。
「薫‥」
「っん?また僕の顔に見惚れた?デコピン欲しい?」
笑いながら、浴室に向う。
いつもと変わらない優しい薫に安堵する。
シャワーを浴びながら、知らない内に涙を流していた。
愛している。愛している。愛している。
何万回口にしたら、君に届くのだろう?
司君じゃなく、僕を見て。僕だけを見て‥
喉元まで、何度もこみ上げ、呑み込んだ言葉。
部屋を出る時に、グレンダに言われた言葉を思い出していた。
幸せになる努力?
あたしは、思い出していた。あたしは ” 幸せになりたい ” と薫の手を掴んだ日の事を。
あたしの人生は、あたししか作れない。
あたしだけが、あたしを作っていける。
もう後戻り出来ないのなら、前を向いて生きていこう。
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