ずっとずっと 105
「片倉さん何の御用ですの?‥薫の命令ですか?」
「いえ‥」
「でしたら、私一人で帰れますが‥」
「ですが、つくし様‥」
あたしは、グレンダに挨拶をして宝珠の車に乗る。
東京駅に着き、新幹線に乗り込む。片倉さんもSPも乗り込む。
「化粧室に行ってきます。」
トイレを出て‥
ドアが閉まる直前に、あたしは新幹線を飛び降りていた。
「はっ、あははっ」
降りるつもりなど、毛頭も考えもなかったのに‥降りちゃった。
あぁーあ。降りちゃった。
帰りの車で、一人泣くつもりだった。なのに、片倉さんが迎えにきた。
一人になりたくて降りてししまった。
まずいよね? そりゃーまずいに決まってる。
心配するよね? そりゃー心配するに決まってる。
薫に電話をかける。
R‥
「つくし?どうしたの?」
1コールで出る薫。優しい声がする。
「新幹線、一人で降りちゃった‥」
「えっ?どう言う事」
「ごめん。」
「ううん‥すぐに迎えを出すから待てる?」
「一人で帰れるよ。」
「危ないからダメ。」
「少しだけ一人になりたいって言ったら?」
「なりたいの?」
「そうじゃなくて‥」
「だったら、東京のマンションで一泊しておいで。」
「いいの?」
「SPは待機させるけど‥それはいいよね?」
「うん。」
薫と話している間に、迎えの人達が現れる。
やっぱり、すでに連絡が回ってたんだ。
「薫‥迎えの人が来たみたい。」
「うん。」
タップして通話を終える。
「ふぅっ」
気付かれない様に息を吐き、安堵する。連絡を入れて良かった。
怒らせないで良かった。
怒らせないで‥良‥かった?
慌てて首をふる。
専用のエレベーターを降りる、樹木が生い茂り、花々が咲き乱れている。
人工的に造られた籠の中の森。
籠の中で、司を思い一人泣く。
今日だけは、あいつを司を感じさせていて...
**
グレンダの懐妊のお祝いをしたいから、道明寺邸を訪れて良いかとつくしが問う。
僕は、つくしを快く送り出す。
つくしが、近くにいない事が落ち着かない。
仕事の合間に考える事は、つくしの事ばかり。
我ながら情けない男だなと思う。
もしも、つくしがこのまま居なくなったら? 背筋が寒くなる‥…
そんなワケはないと首を振る。
彼女は,僕だけを見て僕だけを愛してくれているじゃないかと。
疑ってはいけない。疑いだしたらきりがなくなるから。
空を見る。真っ青な空には雲一つ無い。
空を見て仕事に戻る。
夕刻‥
片倉が慌てた様子で連絡をして来る。
「薫様、大変申し訳ございません‥つくし様がつくし様が‥」
「落ち着いて。つくしがどうした」
「新幹線からお一人で降りてしまわれました。」
「SPは?」
「すぐ捜すように、連絡は入れてあります。」
「場所の確認は出来てるんだよね。」
「それは勿論でございます。」
スマホが鳴る。つくしの声が聞こえる。
彼女が連絡をくれた事に僕は安堵する。
何も聞いてないふりをして、君の話しを聞く。
少しだけ一人になりたいと君が言う。
宝珠のマンションに泊まってくるように勧めた。
あそこなら、監視の目も行き渡るから。
彼女が消える心配をせずに済むから。
決して、彼女を籠の中に押し込めておきたい訳ではないんだと、暮れ行く空を見ながら思う。
誰かに、何かに、言い訳をするように。
**
月を見ながら、今日あった事を思い出す。
月夜と踊る。NYの月夜を思い出す。
10代最後の夏‥
司に苦しい程溺れた、泣きたい程に愛してた
それと同時に思い出していた。
司と会えない、淋しさと向き合わずに薫と過ごした日々を。
類に頼るように、あたしは薫に頼った。
薫の優しさを利用し続けた。
柵(しがらみ)を作ったのは、あたし。
来月には、薫との結婚式だ。
あたしは、来月になれば ”宝珠つくし”として生きていくのだ。
どうか、どうか
いまだけ‥ いまだけ‥
司の思い出と共にいさせて。
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