ずっとずっと 144
もしかして、神戸の別邸にこの車は向っているの?
私の頭をお母様の顔が過(よぎ)る。
お母様も今日は、お父様にご用事を頼まれて神戸に来ている筈‥
「シ‥レ、レイ、ど、ど、どこに行くの?」
「もうじき着くよ。」
要塞のような塀の前に車が止まる。
「降りて」冷たい声で嶺が言う。
私は、激しく首を振る。ココにいてはダメ。早く京都に帰られなければいけない。私の中の何かがそう告げる。「宝珠の邸だよ。」片頬で嶺が笑う。
「宝珠の邸は、君等4人の生体認証だったら、どこの邸の門でも開くんだろう?だったら開けて入ってみなよ。」
足が震える、手が震える‥ 開けてはいけない、早くここを去れと、私の心が叫んでいる。
それなのに、私はこの場所に立ちすくむ。踵を返し走って逃げればそれでいい。
なのに‥私は、この場を‥ううん、嶺を置いて一人で帰れない。
嶺の目が「助けてくれ、ここから救い出してくれ」そう叫んでいるから。
私は、パンドーラの甕(かめ)を開けてしまったんだ。
いったん開けてしまったパンドーラの甕からは、邪悪な思いが溢れ出して行く。
だけど、パンドーラの甕には希望が残る。
嶺、あなたには私が 私には、嶺が 残る。
あの日、あの時に舞い戻ったとしても、私は開けるだろう。”パンドーラの甕”を
私の指静脈 瞳の光彩 この二つの生体認証で、門が開かれる。
門が開いた瞬間に見えたのは‥ 花々が咲き乱れる光景だった。
花が咲き乱れ、光が燦々と差している。「きれい」そう思わず呟いていた。嶺が、あたしの手を取り歩き出す。美しい花々の中を。
美しい花々の中を歩きながら、まるで世間話をするように嶺が語り出す。
**
「父さん、マミー、話しってなに?」
改まった佇まいで、父さんが口火を切る。
「嶺、アレンのために骨髄ドナーになって欲しい。」
「俺が?アレンの?骨髄ドナー?」意味が分からず何度も何度も聞き直していた。
遺伝子検査を行った時にHLA型を調べた事がある。俺のHLA型は珍しい筈だ。適合者は数万人に一人の割合だ。血縁者でもないアレンとなぜ型があうのだ? そんな思いが俺の頭の中を駆け巡る。
マミーが俺に哀願する。
「嶺、お願い。お願いだからアレンをアレンを救って頂戴。お願い。お願い‥アレンがいなければ私は生きていけないの‥お願い、お願い、お願い。」
俺の頭は真っ白になる。マミーの言葉の意味を理解するのに、心が追いついて行かない。父さんが崩れ落ちそうなマミーを支えている。
そんな2人を見ながら,「俺は誰?」そう言葉を投げかけていた。
俺はアレンの造血幹細胞移植のドナーになる為に、日本に来た。
ドナーになる前に、確かめたい事が一つだけあった。俺は、マミーと取引をした。ドナーになる変わりに、俺の出生に関しての事、父さんとマミー、アレンの関係を包み隠さず教えて欲しいと‥
マミーと父さんは、全てを話してくれた。
俺の中の何かが音を立てて崩れて行く気がした。
愛されて育っていると思っていた、自分が惨めに感じた。
牧野つくし‥宝珠夫人が見て見たかった。父さんが唯一愛した女性。
いや今も心の底から愛している女性を一目見てみたかった。
アレンのドナーになる前に、あてもなく京都にきて、雪月堂で‥琉那に出逢った。
息が止まるかと思った。
お前に出逢ったあとに、俺は知ったんだ。お前が牧野つくしの宝珠の子供だって。
運命は皮肉に出来ていると思った瞬間だったよ。
幾度となく、京都を訪れた。お前を盗み見た。俺はお前に恋をした。
真っ直ぐに光り輝くお前が、愛おしかった。
何も知らずに幸せに笑うお前が、憎かった。
ならば、手折ってしまえばいいと思った。
**
私と嶺の周りを、風が吹き荒れる。
石榴の紅い紅い花が、揺れている。
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