刹那 21 総つく
総は、女性の視線を集める‥
美しい容姿に、美しい所作、溢れ出る色気ときた日には、
周りが放っておかないのは解るけれど‥
見るな、触るな、息するな だ‥
って、息するはな、行き過ぎか‥
うーーん あたしって、こんな嫉妬深かったんだ。
大層立派な決意を、胸にしていた気がするんだけど‥
己の妬心に、驚愕する。
総は、新しいあたしを引き出して行く‥‥
優しい気持ちも、醜い気持ちも‥引き出して行く。
なんだか‥頭も心もいっぱいになちゃって‥‥
無意識に、総のホッペを摘んでた。
* *
目の前の鈍感女は、さっきから何やらブツブツ呟いてる。
うーんやら、はぁーっやら 言った後‥
突然、俺の頬を抓り上げた
「痛っ」
「あっ ゴメン‥」
「あっ‥じゃないだろよ?」
お返しに、つくしの頬をムギュっと摘む。
吸い付く肌が、俺の劣情を煽る。
刹那‥
「総二郎じゃーん」
知らねぇ女が、俺の名を呼びながら、しなだれかかってくる。
な、なんなんだ‥この女‥ そう思う間もなく‥
「あ、あたし‥ 用事を思い出したから‥ここで帰るね」
つくしが去って行こうとする。俺は慌てて、つくしの手を掴み外に出る。
「‥総、痛い‥放して‥」
「ゴメン‥」
「‥‥って、手、放してないよ?」
「‥‥」
「総?‥手‥」
「勝手に一人で帰ろうとすんな」
「‥‥だって‥」
「だってじゃねぇよ‥」
総があたしの手を掴んで前を歩く。
あたしは、小走りに追いかける。
少し歩いた所で、ゆっくりとした歩みに変わる。
「ゴメン‥あの女のせいだよな?嫌な思いさせたか?いやさせたんだよな。ゴメン」
あたしが、勝手に妬心を抱いただけ‥なのに‥
総が、必死に謝ってくれるのが嬉しくなって‥
すぅーーーーっと、涙の雫が一粒溢れた
「ど、どうした?」
総が慌ててる‥
そんなに、慌てたら‥色男が台無しだよ。それくらい慌ててる。
慌てる様が可笑しくて、くすりと笑みが溢れてた。
デコピン一つ降って来た。
ちっとも痛くなんてないけれど
「もう、痛いーーー 総にもデコピンするよ」
総が、笑って逃げ惑う。
って‥ここが大通りなんて忘れて‥
お弟子さんの軍団に、しっかり見られていたなんて‥
この時のあたしは、まだ知らない。
* *
つくしの頬に、涙が伝う。
漆黒色の瞳から流れる涙は、ティアドロップの宝石のようだ。
慌てる俺に、笑顔で返してくれる。
ホッとして、おでこにデコピン一つ。
つくしが、戯けて返そうとしてくる。
門下生の一団が、視線の端に入ってくる。
態と、戯ける‥仲良しの恋人の振りをする。
帰った頃には、ひそひそ話が始まって、二人で奥に引っ込めば、
ひそひそ話が確信となり、明日には西門の中を駆け巡るだろう。
つくしが、否定すればする程に、確信に変わる‥
さて、もう一息だ。
お前の涙のわけは、俺が好き‥そう理解していいんだよな?
チリーン
鈴の音が響き渡る。
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