刹那 26 総つく
首筋に舌を這わせ、耳を舐る‥胸元から手を差し入れた瞬間‥つくしの身体が強張る。
コイツを抱くのは、まだだ…そっから先は、我慢してつくしをギュっと抱きしめる。
名残惜しくて、もう一度口づけ落とした。
俺の胸の中に、すっぽりと収まる愛おしい女。
まるで‥俺のために誂えられた様な‥
いいや‥俺がつくしの為に誂えられたのか?のように、俺にちょうど良い。
足音が聞こえて、つくしがスルリと俺の胸から出て行く。
襖の外から大野の声がする。
「若宗匠、つくし様、家元が朝茶事のお打ち合わせをと‥」
「あっ、はい‥ただいま」
そんなに慌てなくても、構わねぇよ‥ってぐれぇ、慌てふためいている。
つくしの手を、そっと握って、
「ここを片付けてから行くって、家元に言っておいてよ」
大野に声をかける。
つくしに振り返る。
「大丈夫だ。少し落ち着け‥」
つくしが、俺の手を握り返して、コクンと頷いた。
ヤベッ、愛おしさがこみ上げてきて、思わずこのまま押し倒しそうになっちまう。
「つくし、あんまり色っぽい顔すんな‥」
耳許で囁いたら、耳迄真っ赤にして
「もう、総のエロ門‥」
もう一度だけ、軽く口づけをして涙を拭う。
*
しのぶれど 色に出にけり 我が恋は ‥‥
歌どおり‥隠しても隠しても隠しきれずに、顔に出てしまうのか‥
俺ら二人を見た奴らは
家元も家元夫人筆頭に、ニコニコ笑って嬉しそうだ。
なのに、なのにだ‥つくしは、皆の思いに、気付きもせずに‥
「総‥」
「あっ?」
「あのね‥総とあたしの事‥」
要約すると、身分違いの恋だから、家元はじめ西門の人間が良い顔をしないのではないか?
そう心配してるのだ。
何度、そんな考えは杞憂に過ぎねぇと話しても‥
納得がいかないからか、同じ話を繰り返す
「じゃぁ、俺らが付き合ってる事、公表するか?」
そう問えば‥、ダメダメと慌てやがる。
親父もお袋も、俺らの報告を今か今かと待ち構えてるいんだがな。
なのに、何を思ったのか
「あのね、それでね‥あたし、一度自宅に戻った方が良いと思うんだけど‥どうかな?」
「悪りぃ‥つくしの部屋‥もう解約しちまった」
「へっ」
鳩が豆鉄砲喰らった顔をして驚いている。
許せつくし‥ 抱きしめたあの日、もうどこにも逃げ出せねぇように、お前の退路を断ったんだ。
「それって、そんなに簡単に出来るものなの?」
いやいや、簡単じゃなかった。
幾らなんでも他人だからな‥つくしの親父さんとお袋さんに挨拶に言って頼んだんだよ。
曖昧に笑いながら
「まぁ、色々と勿体ないしな‥つくしの親父さん達に頼んだんだよ」
「へっ?いつ?パパ達から聞いてないよ」
まぁ、そりゃ‥口止めしたしな‥
「まっ、そう言うワケだから‥」
どういうワケだと言われれば、それまでなのだが‥
なんとかこうとか、その件に関しては、納得したようだ。
だが‥
「ねぇねぇ、西門の事務局って寮とかあるの?」
なんて事を聞いてくる。
「なぁ、なんでここから出て行こうとすんだよ」
「えっ、だって‥」
「なぁ、お前がここを出る事は、親父もお袋も反対すんぞ」
でもでも、だっての極みとなってやがる。
ギュッと抱きしめて
「なぁ‥そんな心配なら、温泉の時にでも皆に言おう‥なっ」
「でも‥」
「でもは、禁止な‥」
チリリーン 爽やかな鈴の音が流れる
↓ランキングのご協力よろしくお願い致します♥

にほんブログ村

♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥