はじめてみよう 5
「あっ、はい。ただいま」
慌てて、類の後に付いていく。
女性秘書やら、受け付けの美しい方々の冷たい視線を浴びながら、類の後を付いていく。
ったく、だから嫌なんだよね。あたしは何にも悪くないのに‥‥ハァッー
車に乗込む。類と2人切りの空間は、居たたまれなさマックスだ。フゥッーー
「あのさ、牧野」
「あっ、はい」
「盛大な溜め息はやめてくれない。それと、はいの前に、【あっ】は、つけないで、仮にも秘書だよね?」
「あっ、はい」
「また付けてるよ。どうでもいいけど、仕事の時は仕事に集中してくんないかな?」
「はい」
ごもっともな意見に、項垂れるだけしか出来ないあたしに、追い打ちをかけて来る。
「仕事に集中って言うのは、俺に集中してっていう意味だからね?」
ビー玉色の瞳が、光を受けて妖しく輝く。
「はぁー」
「はぁーじゃなくて、はい。仕事なんだから、ちゃんとして」
仕事と言われれば、聞かないわけにもいかなくて
「はい」
勝ち誇った眼差しで、薄く笑う。
類って、こんな意地悪だったけ?
会食は、滞り無く終え、皆さんを送り終えた後に、時計を見ると、9時55分。
もう直き、匠がやってくる。
「牧野、この後の予定は?」
「すみませんが、約束がありますので、お暇させて頂きたいのですが‥」
「‥ダメ」
「本日の業務は、会食終了までと伺っておりますが」
「‥ダメ」
ダメって、あんたは子供かい。と突っ込みを入れたいけど‥ とても入れられる雰囲気でもなく‥
取りあえず、黙ってみる。
「つくし」
あたしを呼ぶ、匠の声がする。
匠からは、類が見えないのだろう暢気に声をかけてくる。
匠、あんたの暢気さに、あたしは救われるよ。
さすがエロ匠。あんたに感謝だ。
あたしは、匠に小さく手をふりながら
「花沢専務、大変申しわけございませんが‥これで失礼させて頂きます」
そう言った瞬間‥腕を掴まれて。
「業務命令なんだけど?」
「はっ?」
「あんた、秘書でしょ?だったらちゃんとしてくんない」
言ってる事がメチャクチャで、仕方が無いから笑顔を作り
「では、お車までご案内で宜しいですか?」
そう聞いてみる。
「ふっ、いいや。俺、匠と牧野と3人で飲む事にするよ」
飲む事にする?って‥ 意味不明な事を言って来る。
「それは、あのどう言ったことでしょうか?」
「っん?2人と一緒に飲むって事だよ」
屈託の無い、美しい笑顔で笑っている。
次の瞬間、
「つくし、お待たせ」
そう言いながら、匠があたしの肩に手をかけた。
「匠、元気そうだね?」
「‥っは、ほっ、へっ る、る、類さん‥って、なんで類さん?」
「久しぶりだし、3人で飲んで行こうよ。ねっ」
悪魔が微笑んでいる。天使の皮を被った悪魔が。
ゴメン匠‥でも‥しっかりしろ

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