明日咲く花

ふぅっーーーーー　大きく一つ、深呼吸をする。
ヨシッ　布団を蹴飛ばして、あたしは飛び起きる。


「ギャップン　つくしぃーー痛いよぉー」
牧野のパパが言って、千恵子が笑って

「姉ちゃん、元気よ過ぎ」
進が、お手上げ状態だとばかりに、手を挙げるジェスチャーをする。
４人で笑顔になる。

牧野家の朝は、こんな風に始まるんだ。


幸せだった。楽しかった。あたしの疑似家族。




幸せな時を過ごしながら、ひと月前の会話を思い出す。

「ねぇ、ママ、ううん、千恵子‥」
「なんですか？お嬢様」
「あたしが、如月の権力を使ったら、この暮らしはどうなるの？」
「お嬢様が、如月の権力をでいらっしゃいますか？」
あたしは、頷く。

千恵子が、
権力を笠に着る行為が一番嫌いなお嬢様が、如月の権力をでございますか？
なんて言いながら、笑った後に
「そうですね‥うーん。取りあえず、この暮らしは続けていけないかと」

そっか、そうだよね。そりゃそうだよね。

「何か我慢出来ない事でもございましたか？」

あたしは、首を振った。
「聞いてみただけ‥‥」


千恵子は、ニッコリと笑ったんだっけ。





「お嬢様、もうじき道明寺様がいらっしゃいますよ」

いつもの朝が始まる。
車に乗り込めば、道明寺が嬉しそうに色々話しかけてくる。

「ねぇ、道明寺」
「あっ、なんだ？」
「道明寺は‥好きな子とかいるの？」

ブワッ　と笑った後に
「なぁ、お前鈍感って言われねぇ？」
「うんっ？　あたし？言われないよぉー」
ガハガハ笑って、頭を掻いてた。
道明寺‥‥悪い奴じゃないけど‥やっぱり不思議な男だ。

「おっ、今日は珍しく、お前寝ねぇなぁ」
「いつもいつも、寝てばかりいないって」
「いや、寝ねぇのは、初めてだ」
「えぇっーーー　そんな事ないよーー」

道明寺の大きな手が、クシャリとあたしの髪を撫でた。
その仕草が、優しくてちょっとだけ、そうちょっとだけドキンっとした。
「あっ、セットが崩れる！」
「セットしてねぇだろうよ」
ぷっ、ククッ　と笑い合う。

「なぁ、牧野は好きな奴居るのか？」
道明寺に、そう聞かれ‥
「うん」
素直に、あたしは答えてた。
「‥‥そっか‥‥それって類か？」

あははっ、そっか‥花沢類が好きって、道明寺にもバレてたか。
「‥うん‥」
「そっか‥まぁ、頑張れよ」
そう言って、もう一度、髪の毛をくしゃりと撫でた。

いつもの如く、ラウンジで、あきら君と総ちゃんがお話ししてる。
「おっ、つくしちゃん！おはよう」
「朝から、ラウンジ来るなんて珍しいな」
「えへへっ、おはよう」
挨拶を交わしながら、あたしは二人にさようならを言う。

お茶もダンスも、二人のお陰で、お稽古が楽しくなりそうだよ。
「あっ、３人に」
お弁当を３人に渡す。
「おぉっー」
「そのかわり、スペシャルモーニング奢って」

スペシャルモーニング。スペシャルだけあって頑張ってるじゃん。
「うん。旨い！」
３人が嬉しそうに笑ってる。

ありがとう。小ちゃく心の中で呟く。
あんた達のお陰で、英徳が好きになった気がするよ。

最後に向かったのは‥‥非常階段。

いつもの所に、いつものように、眠ってる。
あたしの大好きな、ビー玉の瞳の王子様。

花沢類‥あたしは、あんたの幸せを願います。
だから、どうかどうか幸せに笑ってください。


約束していたポペの写真を、そっと横に置く。
ポペと２人で冒険した時に、男の子に撮ってもらった写真だ。あたしの宝物。
うふふっ、そう言えば‥
あの男の子も、花沢類みたいにビー玉色の瞳だったなぁーなんて思いながら。


起こさないように、そっと横に置く。

「バイバイ‥幸せにね」





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