明日咲く花

真っ白な花が咲き誇り、黄色い夏みかんが熟している。

初夏の日差しに、白い花と黄色い夏みかんが、芳香を放ち輝いている。


軽トラを降りた瞬間、夏みかんの香りが鼻孔を刺激する。

「うーーん　良い匂い」

徳ちゃんが、夏みかんをその場でもぎって、手渡してくれる。
黄色くて、丸い夏みかん。
爽やかな香りが、身体中に充満していく。



頬に一筋ツゥッーーと涙が流れてくる。


迎えに出て来た秀美さんが温か包み込むように抱きしめてくれる。

「つくしちゃん」
優しく、優しく名前を呼びながら、背中を撫でてくれる。


「秀美さん‥夏みかんの匂い‥良い匂いだね」

「そうとね‥」

頬の涙を掬いとってくれながら
「つくしちゃんの好きなお握りとお漬け物、たんとこしらえておいたらぁ。さぁ中に入って食べようねぇ」

黒檀の机の上には、炊きたてご飯のお握り、
裏庭で取れた野菜の煮物、サラダ、
徳ちゃんが釣って来たお刺身が、所狭しと並んでる。



「美味しいぃ」
言葉を漏らせば、徳ちゃんと秀美さんが目を細めながら、
うんうんと頷いてくれる。





「うーん　お腹いっぱい」

縁側に腰掛けながら、３人でお茶を啜る。


「今日は、泊まっていけるとぉ？」

「お泊まりしてもいいの？」

「もちぃろんとね」


徳ちゃんが思い出したように
「もしかしたら、孫が遊びに来るかもしれんがねぇ。よかとよねぇ？」

「徳ちゃんのお孫さん？」

「つくしちゃん、初めてだっけぇ？」

「うん。楽しみ」

「いい子なんだけど、変わっとるとよ。昔も夏みかんの妖精を見たと騒いどったんよ」

「夏みかんの妖精？」

「そうらぁ」
徳ちゃんと、秀美さんがニコニコしながら、お孫さんの話を教えてくれる。
「ほんに、変わってる子でねー、三度のご飯よりもお昼寝が大好きでねぇー」

「なぁん、この頃は昼寝もせんと仕事に、学業に精出しとるそうやで」

「そうなんよぉー」
お孫さんの話を聞きながら、久しぶりに心地よい眠りが訪れる。
爽やかな風が吹く。　


いつの間にか、眠っていたようで‥ケットが掛けられている。
お日様の匂いがするケット。
ふわふわして温かい秀美さんと徳ちゃんのようなケット。

お日様の匂いのするケットに包まれて、あたしは、夢を見る。　
幸せな幸せな夢をみる。

鳥が鳴き、太陽が燦々と輝く中、楡の木の下でお昼寝をしている。
ポペとトトと花沢類とあたしの４人で‥‥
幸せに包まれる。丸い丸い幸せに包まれる。

眠りから覚めたあたしに、徳ちゃんと秀美さんが声をかけてくる。

「つくしちゃーん、ちょっと沢まで行ってくるからお留守番しとってねぇ」

「もうじき、孫も来るよって。ちぃっと待っててなぁ」

「はーい」

２人を見送ったあと、あたしは縁側に腰掛けて、夏みかんを食べる。
苦くて、酸っぱくて、甘い夏みかん。指の先が夏みかんの匂いに包まれる。


刹那‥

ゴロゴロゴロッ　ピカッ
落雷の音がして、風が強く吹いて来た。


風は、雨雲を連れてきて、激しく雨を降らし始めた。



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