シーソーゲーム 29
ボツボツと降ってきた大きな水滴が、地面に大きなシミを作って行く。
地面の色が見る見る間に変わり、雨脚が強まっていく。
ザァッーーー ザァッーーー
バケツを引っくり返したような雨が降ってきた。
あたしは、慌てて、窓を閉めていく。
全て閉め終えて、ホッと一息ついた時‥
玄関の方から何やら、ガサコソ大きな音がする。
徳ちゃんと秀美さん? その割には2人の声がしない‥
《 誰?木内さん?いやいや木内さんは、一足早く帰った筈‥じゃぁ誰? 》
あたしは、 抜き足差し足で、恐る恐る玄関に近づく。
《 く、く、熊? 嫌々嫌‥熊が、玄関開けないよね? 》
ガサッ 大きな音が響き渡る。
そうだ‥身近にあった柄箒を掴む。
《ヨシッ》
何がヨシッか解らないけど、小さな声で、かけ声掛けて、そぉっと玄関に近づいていく。
「ばば様~ じじ様~」大きな声がして‥あたしは思い出す。
徳ちゃんのお孫さんが、来る事になっていた事を。
良かったぁーー安堵のため息を漏らしながら勢い良く廊下の角を曲がる。
角を曲がった瞬間‥出会い頭で大きな影にぶつかる。
ボフッ‥‥
大きな影に抱きしめられる形になる。
夏みかん? ううん柑橘系の爽やかで、でも甘い香り‥
懐かしい懐かしい香りに包まれた。
あたしの心臓は、ドクドクドクドク早鐘を打つ‥
この香りは‥‥
刹那
抱きとめられていた腕に力が入って‥
「牧野?」
愛おしい人の香りが、声がする‥
これは夢?
落雷が見せている幻?
「花沢類?」
顔を上げた瞬間‥
この3年会いたくて、会いたくてたまらなかった人が、居た。
花沢類が、あたしをギュッと抱きしめる。
「会いたかった‥」
愛おしい人から信じられない声を聞く‥
これは、やっぱり夢?
幻?
白昼夢?
「クククッ 相変わらずだね」
「へぇっ?」
「独り言、また出てるよ。夢じゃないよ」
あたしを抱きしめながら、花沢類があたしに話す。
「夢じゃない?」
「うん。夢じゃない。クゥちゃんもポペも、俺も夢じゃない」
「えっ?クゥちゃん?ポペ?えっえっえっ!‥なんで‥‥お兄ちゃんなの?」
「クゥちゃん、久しぶり」
お兄ちゃんが、花沢類だったなんて‥
花沢類が、お兄ちゃんだったなんて‥
「なんで?」
「っん?取りあえず着替えてから話そうか?」
見れば、花沢類はビショビショで、あたしもすっかり濡れていて‥
「うん」
なのに…花沢類の手があたしの手を掴んで放さない。
「手、放さないと‥着替えできないよ?」
「消えない?」
「消えないよ」
クスリと笑って
「じゃぁ、着替えてくる。牧野も着替えておいで」
客間の外から声がかかる
「牧野、着替え終わった?」
「あっ、うん」
シュンシュンシュン‥
お湯を沸かして、煎茶を淹れる。
「はい。どうぞ」
花沢類が、美味しそうにお茶を啜っている。
窓の外の雨脚が、さっきより強まっている。
ゴロゴロと雷が鳴る。
風が、雨が、強さを増していく。
あたしの心は、強く強く花沢類を求めてる。
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