シーソーゲーム 33
「つくし」
愛しい女の名を呼ぶ。
隣には誰も居ず、小さなメモに
ありがとう さようなら
たった10文字の言葉が並んでた。
飛び起きて、部屋を出る。
じじ様にキーを借りて、軽トラを走らせた。
つくしは、どこにも居なかった。
俺が幸せを感じ眠っている間に、つくしは消えた。
車を止めて思案にくれる。
口の中に、鉄の味が広がっていく‥‥
知らない内に指を思い切り噛んでいたようで、左の人差し指から真っ赤な血が滲んでいた。
「つくし」
願いを込めて、愛しい女の名を呼ぶ。
彼女は幻だったのかな‥?
いや、確かにココにいた。俺の胸の中で眠ってた。
「あれっ」
可笑しいな‥霞んで前が見えないや‥
「ククッククッ‥」
可笑しいな‥瞳から何かが溢れてく
「‥つくし‥」
絶望を感じ、愛しい女の名を呼んだ。
どこをどうやって戻ったのだろう?
じじ様とばば様が心配顔で俺を見る。何も言わずに俺を見る。
温かさが切なくて、歯を食いしばり拳を握って、上を向く。
やっと掴んだ幸せは、掌からサラサラと零れていく。
夏みかんが、嵐で地面に落ちている。拾い上げて匂いを嗅いだ。
爽やかな香りが‘鼻腔を刺激する。
* **
時計の針が2時を指す。
待ち受けていたように、ベルが鳴り一之宮の侍女が待っている。
あたしがここで逃げ出せば、彼女は職を失うのだろう。
エッちゃんを寄越さない辺り、柊兄ぃは、狡猾だ。
何も言わないけれど、何かを疑っているのだろう。
真綿であたしは包まれて、首を締め上げられて行く。
車に乗せられて着いた場所は、
一之宮の屋敷でも、如月の屋敷でもなく、
警備の厳重なマンションだった。
「ここは?」
「こちらに、つくし様をお連れするように、言付かっております」
後は知らないとばかりに、口を噤む。
チーン
エレベーターが最上階につく。
入り口で待ち構えていた、柊兄ぃに、任務完了とばかりに、引き渡される。
護送されてる人みたい。そんな事がチラリと浮かぶ。
柊兄ぃが、あたしの肩を抱き寄せた。
刹那
あたしの身体は、柊兄ぃを拒否した。
意識を集中して、あたしは柊兄ぃに凭れ掛かる。
媚を売る、娼婦の様に。
柊兄ぃの口づけが、髪に、頬に、唇に降ってくる。
いつもなら、ここで終わり。
柊兄ぃの口づけは、止まらない。
「柊兄ぃ‥」
「僕らは、婚約してるんだよ」
あたしは、首を振る。
今日は、今日だけは‥お願いと願いを込めて首を振る。
なのに‥‥柊兄ぃの手は止まらない。
あたしを抱きしめながら、もう片方の手であたしの服を脱がして行く。
涙が一粒溢れた瞬間‥
あたしの身体は、ソファーに組み敷かれる。
柊兄ぃの唇が、あたしの身体を這いまわる‥
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