シーソーゲーム 35
そんなあり得ない事を何度も思った。
それほど完璧に彼女は姿を消した。
Nシステムの追跡、防犯カメラの捜査をしたけれど、何も解らなかった。
不思議な事に、じじ様と一緒に来た時の画像さえないのだ。
映っているのはじじ様だけ。
ポペとつくしの写真もいつの間にか無くなっていた。
残ったのは、
ありがとう さようなら と書かれたメモだけ。
別れの言葉なのに‥‥そのメモさえも愛おしくて堪らない。
「毎年、つくしちゃんとは、会ってたとぉ」
そう言って、俺の知らないつくしの事を、ばば様が教えてくれた。
だけど当然のように、メアドにも電話にも繋がるワケも無く。
つくしは、姿を消した。
ただ、ばば様が見せてくれた、つくしからのメールをプリントアウトしてもらった。
この3年‥彼女がNYで暮らしていた事は解った。
まるで、当たり前のように 《 牧野つくし 》の情報は見つからない。
渡航記録さえも存在しなかった。
つくしのメールには、じじ様とばば様を気遣う言葉と共に、
四季折々のセントラルパークの画像が添付されていた。
時折、ポペに似たワンコ、トトに似たワンコの画像が添付されている。
どんな事を思って暮らしているかは、書かれていても、
どんな風に暮らしているかは、書かれていなくて‥
つくしの消息を探す手掛かりにはならなかったけどね。
手書きのメモと、彼女の綴った文字だけが、つくしの居た〝証〟になった。
落ち込む俺に、じじ様が
「縁があれば、三度会う筈じゃ」
そう言って、ニカッと笑ってくれた。
ばば様が、横で頷きながら
「小さな2人で約束したのでしょ?だったらまた会えるわよ」
そう言って、俺の肩を抱いてくれた。
じじ様が
「類、儂の仕事を手伝いなさい」
そう言って、翌日から‥表舞台に復活したじじ様の後について仕事をする事になった。
身を粉にする。その言葉が合うように働いている。
いや、働かせて貰っている。
時折じじ様が、ばば様に出会った時の話し、母と父の馴れ初め‥
思い出したように話してくれる。
決まって…
「類は、まさしく儂等の孫で、橙子等の子供じゃな」
そう言って、ニカッと笑う。
そのあとに
「つくしちゃんを、これだけ探しても見つからないのは、
大きな力が働いていると言う事じゃ」
つくしを手に入れる為に、本物の力を手に入れろと言う。
「類は、橘も継ぐんじゃ。そうすれば、多少の融通は利くよってな」
橘を継ぐ‥
後継者は、血には拘らないと常々じじ様は言っていた。
その後を継ぐと言う事は‥並大抵の事ではない。
目下‥名を隠して修行中だ。
髪を染め、黒いカラコンをして…
名前は、じじ様の偽名の吉田の吉と、牧野の野を合わせて
吉野夏橙と名乗っている。
花沢類は、あの嵐の日…
フランスに旅立ったことになっている。
チャンスは与えてもらった。
俺は、吉野夏橙として奮闘している。
ウジウジと引きこもっている暇はない。
だってこれは、つくしと俺のシーソーゲーム
「待ってろ、くぅちゃん。待ってろ、つくし」
手を広げ、闇夜を抱き締める。
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