20
2022
baroque 98
薫がいる場所を目指して、つくしは扉を開け外に飛び出し庭を駆ける。ただただ薫に会いたいその気持ちだけで________つくしは走る。庭木の揺れる音に薫は振り向いた。目の前には息せき切ったつくしがいた。万感の思いが薫の中を駆け抜けていき、残るのは、愛おしくて愛おしくて、ただただつくしを愛おしく思う気持ちだけ。「薫……」愛おしい彼女が自分の名を呼ぶ。それだけで喜びが込み上げてくる。薫が手を伸ばせば、つくしは目に涙...
23
2022
16
2021
baroque 96
「海が見たいな」雛子がポツリと漏らしたそんな言葉を拾い上げ、潮騒の音を聞きながら二人手をつないで歩いている。雛子は、総二郎の話を楽しそうに聞き、総二郎の話を広げ、自然と総二郎が新たに興味を持ちそうな話へと続けていく。「雛ちゃん、雛ちゃんはいま何に興味があるの?」総二郎の問いに、雛子は嬉しそうに「総くんの、織りなす世界かな」「俺の____織りなす世界?」雛子は、コクンと頷くと「えぇ、総くんの手から作...
10
2021
baroque 95
時政夫人は、飲み物を口にしたあと「薫様、私ね、こうやって洋平さんを手に入れましたのよ。洋平さんは正義感が強くて優しい人でしたから。婚約者に捨てられた私が父に傷つけられるなんて____そんな間違った扱いを許せない人でしたのよ」「全てが翠子さんの計算だったということですか?」薫の問いに、時政夫人は美しく微笑み「_____私ね、洋平さんが居ないと息が上手く出来ませんのよ。自分を失わないで生きるためにしょ...
07
2021
baroque 94
「薫様、お久しゅうございます」嫋やかな空気を纏い、時政夫人がお辞儀する。時政夫人の人となりを知らなければ、夫人を表す時に使われる、女傑・豪胆・革新的と言う言葉がこれ程も似合わない人はいないだろうと薫は感じる。抜ける様な肌の白さに小さな体躯。緩やかに微笑みを浮かべるさまは、まるで京人形のようだ。いいや、夫人の人となりを熟知していたとしても、彼女の姿形は彼女の内面を表す言葉とは似合わない。薫と夫人の付...
04
2019
baroque93
沈みゆく太陽が空を黄金色から緋色に染め上げていく。「見て見て 総くん。このデザート、2匹のウサギの絵が描かれてる」はしゃぐように雛子に言われ、総二郎は寄り添うように、雛子の前の緋色に縁取られた皿をのぞき込む。美しい二人が仲睦まじく寄り添うその姿は、窓から見える緋色の空と相まって、どこか幻想的だ。そんな二人の姿を見て篠田は嬉しそうに微笑んだ「……そう言えば、西門の後援会に、克昭さんも入ったのよね?」「...
31
2019
baroque 92
つくしには、答えを待つほんの少しの沈黙が、永遠にも感じられるほどに長く感じた。「由那と一緒だから? ううん、亜矢ちゃんも生徒会長だったのよ。私も生徒会の役員をしていたから、白泉で一番信頼できるとみんなが認めた人物が生徒会長になるんだってよく知っていたの……貴女が白泉の生徒会長になるって聞いて、あぁやぱっりって気がして嬉しかったの。それに……白泉の交友関係は一生涯続くものですもの。つくしちゃんは、白泉で...
29
2019
baroque 91
薄茶の花びらを手のひらに乗せ見つめる。「……どんなにしても、戻らないもの……か……」ポツリと呟いてから窓を開け、手のひらの上の花びらを風に乗せた。風に乗った小さな花びらの行方は、直ぐに分からなくなった。それでも長い間、つくしは窓の外を見続けた。ドアがノックされ「亜矢様がお見えになられました」黒崎の声がして我に返った。「あっ はい いま」風に吹かれて乱れた髪を整えるために鏡を覗けば、酷く疲れた顔の自分に出...
15
2019
baroque 90
新幹線のアナウンスがもうじき京都に着くことを告げている。つくしは、その声を聞きながら総二郎に連絡をとるためにスマホに手を伸ばした。ふぅっ自分でも気付かぬ小さな吐息を一つ溢してから、総二郎の機嫌が悪くなりませんようにと願いを込めて文字を打ち込んでいく。送信を押した後、小さなバッグを脇に抱えて席を立った。八条口を出れば、いつもと変わらない京都の街がつくしを出迎えた。 車窓から町を眺めれば、観光客の舞妓...
19
2019
baroque 89
つくしが目覚めた時には、薫は席を立っていた。懐かしい香りを感じた気がしてつくしは鼻を蠢かす。「……そんなわけないか……」一人呟いてから、薫と二人で過ごした日々を思い出す。恋というには、あまりにも幼い恋心だった。だからこそ、つくしは、一直線に恋をした。時折訪れる薫と過ごす時間は、つくしにとって幸せで幸せでたまらないものだった。初めは憧れにしか過ぎなかった。憧れが恋心に変化していったのは、薫の持つ弱さを垣...
24
2018
baroque 88
つくしを送り出した後、総二郎は雛子との待ち合わせの美術館に向かった。雛子と二人で会うようになって何度目になるのだろうか? コロコロと楽しそうによく笑う雛子との時間は、出会った頃のつくしと居るようで総二郎にとってかけがえのないものになりつつある。「総二郎さん、見て見て」雛子の瞳が総二郎を見つめる。一心に見つめる雛子が可愛くて「雛ちゃん、総って言ってみてよ」そう口にしていた。「そ、総…さ…ん」「さんじゃ...
07
2018
baroque 87
それは誰かが意図したわけではなく、偶然だった。薫は一緒に乗り込んでいた護衛の者に声を掛けてから、眠るつくしを起こさないように静かに隣に腰掛けた。何か夢でも見ているのか?つくしがどこか苦しげに寝返りを打つ。こけた頬に色濃く出た隈が化粧の上からでもわかる。随分とやつれたつくしの寝顔を眺めながら、久しく見ていないつくしの笑顔を思い出す。つくしには、いつでも笑顔でいて貰いたかった。なのに……自分は今、つくし...
03
2018
baroque 86
「私の顔に何かついてます?それとも見惚れちゃいましたか?」雛子に真っ直ぐに見つめられた。「あっ、ごめん……あっ、いや、すみません」「あらっ、そのごめんと、すみませんは何に対してかしら?」「あっ、いや…」「ぷっ そんなに言い訳しないっ」総二郎を真っ直ぐに見つめたあと、雛子は鈴を転がすように美しい音色で笑った。雛子の屈託のない笑い声に釣られて総二郎も笑い出す。「もぉ、笑い過ぎっこれでも若宗匠に憧れる乙女...
05
2018
baroque 85
「ふぅっーー」浴びるほどに酒を飲みグデングデンに酔っ払った薫を部屋まで担ぐ様に連れて来た。ベッドに寝かせて靴を脱がせたあと、悠斗は薫の眠るベッドの脇に腰を掛けた。「ハァッー 」ため息を吐き、眠る薫の顔をジッと見つめた。長い付き合いの中、どれだけ飲んでも酔うことなどなかった。いや、馬鹿みたいに酒を飲むなどなかった。薫がこんなにも酔うなど、目の当たりにしている今でさえ信じられぬ思いでいっぱいだ。「コイ...
02
2018
baroque 84
甘い匂いを感じて視線を這わせば、切り花にしては珍しいほどに月下香が見事に花開いている。清らかな花姿なのにも関わらず、甘く人を惑わす香りをもつ月下香。鼻を蠢かし愛する女を思った。「ふっ……大概だよな」五感で感じる全てのものを、つくしに関連付けてしまう己に思わず総二郎は苦笑いを零した。会えない時間さえもが恋心を募らせるのだと初めて知った。つくしを思えば、激しい昂りと共に優しく清らかな思いが心を占める。つ...
04
2018
baroque 83
「あいつ、倒れったって……やっぱり早めに帰るべきだったよな」つくしを一時も離したくなくて、茶会終わりには、なるべく何も入れずに帰っていたのだか、家元に今夜の会食には必ず出ろと言われ、渋々残ったのだ。「今夜は仕方ないか……」そう口にしても、離れていると心配で心配で堪らないのだ。機械にうといつくしのスマホに居場所確認用のアプリを入れているだけでは信用できずに、電話をするときは、所在を確認するように、必ずつ...
03
2018
baroque 82
「で、いったい全体なにがあったのよ?」ケーキをたらふく食べたあと、ソファーに移動して再びワインを飲み始めたカオちゃんがつくしに聞いた。「……なにがって、なにがあったのかな。……ただ……自由に、自由になりたかったの」どこか遠い所を見ながら、つくしが答える。「じゃあ、今は、自由?」自由かと聞かれたつくしは、押し黙る。「つくし、ゆっくりでいいから、私に話して聞かせて。私は何を聞いても、つくしを好きだよ」「本当...
02
2018
baroque 81
「つくし、つくし、聞いてる?」「あっ、うん。悠斗君が口煩いでしょ」「そう。もうね大変よ。あれしろこれしろ。その癖して、あれするなこれするな。本当に薫さんの爪の垢でも煎じて欲しいもんよ。なのに、あの二人、親友なんだって言うんだから、訳わからかないよね」つくしは曖昧に笑いながら「カオちゃん、ワイン飲むんでしょ」コポコポと音を立ててグラスにワインが注がれる。「うーん、美味しい」出来上がった料理が並べられ...
01
2018
baroque 80
「はい。お土産」玄関を開けたつくしに手渡されたのは、ケーキの入った箱だった。「ベルグの……わざわざ買ってきてくれたの?」「別にわざわざじゃなくってよ。新しいマンションから通り道だから」「カオちゃん、変な言葉遣いになっとるよ」インディゴちゃんに笑いながら指摘されたカオちゃんは、唇を尖らせながら「意地悪言うならインディゴちゃには、あげないからね。二人で食べようね。ねっ、つくし!」カオちゃんはつくしに腕を...
24
2018
baroque 79
廊下に出たつくしは、慌ててスマホをタップした。スマホの向こうからは、不機嫌さを隠さない総二郎の声がする。『なぁ、今どこにいんの?』「どこって、インディゴちゃんの所だよ。…………なんでって、総、今日は遅いって言ってたでしょ…………だから」『はんっ、鬼の居ぬ間のなんとやらか……』「鬼の居ぬ間なんて……」つくしの呟きに言葉をかぶせるように『俺さ、コレダメあれだめ極力言わないようにしてるよな?』「……うん」「だったらさ...
19
2017
baroque 78
「よっ」 店に入れば、悠斗がいつもの笑みを浮かべながら薫を迎える。 思わず薫の口端にも笑みが浮かんだ。 「こっちには仕事で?」 ソファーに腰掛けながら薫が口にする。 「うーーん、まぁ、仕事というかなんと言うかちょっと野暮用があって、折角だからたまには薫と二人で酒でも飲もうかと思ってな」 「へぇ、そう。プライベートでカオちゃん連れて来ないなんて珍しいよね?」 「あっ、いや、あいつはまぁ、...
27
2017
baroque 77
夜空に輝く月明かりのように、暗闇に輝く一条の光…… 薫にとってつくしは、そんな存在だ。 膝を抱えてソファーに座る。 辛いとき、悲しいとき、寂しいとき、苛立ったとき、決して人前では見せないけれど……薫がする癖だ。 膝を抱えて座る小さな薫を膝の上に抱き抱え、子守唄を歌ってくれたのは母だった。そんな母との馴れ初めをまだ幼い薫に話ながら膝の上に乗せてくれたのは父だった。 両親が亡くなり膝を抱えて座る癖は無くなっ...
25
2017
baroque 76
涙を流すつくしをインディゴちゃんは抱き締めた。 「インディゴちゃん、インディゴちゃん、あたし、あたし」 「いいんよ。いいんよ。」 インディゴちゃんの指先が優しくつくしの涙を掬い頬を撫でる。 堰を切ったように、つくしの瞳から涙が溢れ出していく。 どれくらい泣いただろう? 泣き疲れたつくしは、疲れと風邪薬が加わって、今度は夢も見ずにぐっすりと眠った。 つくしが起きた時には、外はすっかり夕焼け空だった。 ...
24
2017
baroque 75
狂気はすべてのものの中にこっそりと隠れて、近づくものを捕まえる。 捕まったが最後_____ 狂気は愛する人を壊し 自分を壊していく ただ手放したくなかっただけなのに___...
14
2017
02
2017
30
2017
baroque 72
L'amour est tortueux. キラキラと光っていた筈なのに L'amour est tortueux. 好きになればなるほどに L'amour est tortueux. 歪んで 歪んで 歪んでいく...
27
2017
30
2017
24
2017