12
2022
まだ気づかない Fin 類つく
牧野の肩が小さく小さく揺れている。抱きしめたい。でも……いまは……小さく揺れる肩を類は見守った。牧野がゆっくりと振り向く、フィレンツェの風に牧野の黒髪がサラサラと揺れた瞬間。あの日フィレンツェの朝靄の中で見た幻の彼女がそこにいた。類の中で全てが繋がっていく。類は手を伸ばして牧野を抱きしめた。幻の彼女が消えてしまわないように。「牧野、俺、今気がついたよ。初めてあんたと出逢った瞬間から心奪われてたんだって...
17
2021
まだ気づかない15 類つく
「あぁーーーーー」たわわになる葡萄を見つめながら、雪之丞は呟いた。早くくっついちゃえばいいと思ったのも、類に発破をかけたのも自分だ。それでも____類から貰った電話の後、何度も何度もため息をついた。覚悟してたとは言え「結構、キツイよね あぁーーーーあ」そんな雪之丞のボヤキを知らない牧野は、真っ赤な顔をしたまま車を降りて、勝手知ったる我が家の如く、雪之丞のもとに向かって歩き出す。類は、そのあとを__...
11
2021
まだ気づかない14 類つく
類の顔を見た瞬間……恋に免疫のない牧野は気まずくて気まずくてたまらなくなった。一方、類の方は……牧野が叫んだ『雪ちゃん……会いたい』という言葉に心を抉られていた。重たい空気が二人の間を流れている。あまりの重さに耐えきれなくなった牧野は類に「……専務、私、何か専務のお気に障るようなことしましたでしょうか?」思い切ってぶつけてみた。「別に」この雰囲気が嫌で思い切って聞いたとう言うのに、あまりにも素っ気ない言葉...
16
2020
まだ気づかない13 類つく
類は牧野を抱きしめる。牧野の匂いが類の欲をくすぐる。顎先を持ち上げ唇を合わせようとした瞬間……雪之丞の顔がよぎった。類は牧野をもう一度抱きしめてから「ねぇ牧野、ちょっと一緒に着いてきて欲しい所があるんだけどいいかな?」そう声をかけた。1時間後……「専務 これって、プライベートジェットとかいうんじゃないですか」「快適でしょ。司が貸してくれて、ラッキーだったよね」「ラッキーって、一体どこに行こ「あっ、牧野...
01
2020
まだ気づかない12 類つく
類は牧野を抱えたまま、車を降りた。手揉みをしながら挨拶をしてくる初老の男達に「無理言って悪かったね。寄付金はあれくらいで良かったかな?また何かあったら、田村に連絡しといて。じゃっ お借りするね」爽やかに告げると、スタスタと男達の前を通り過ぎる。「あっ 花沢さまっ」追い掛けて来ようとする男等に「もう用はないから着いてこないでね」とってもにこやかに、それでいてどこか冷たく言い切った。角の道を曲がると共...
17
2020
まだ気づかない11 類つく
いくつもの視線に晒されて「腰、腰、腰、腰」と言葉を繰り返す牧野を、類は抱き抱えながら「早退するって、田村に言っといて」ニッコリと笑って爽やかに去っていった。バタンっ秘書室のドアが閉まった5秒後________「いまのって、いまのって、そういう事よね?」そんな言葉を皮切りに「キャーーーーーーッ」「オォーーーーー」と歓声が上がった。「うぅうぅっ」美人秘書が涙を流し悲し……「ヤッターーーー」いいや、喜び「はい、は...
15
2019
まだ気づかない10 類つく
「せ、せ、専務ーーー」いつも強気の牧野が涙目になりながら類を見上げる。いつもと違う牧野の表情が、一瞬触れた唇が_______類の鼓動を早くさせ、無意識の中で育んできた恋心を意識させる。牧野を膝に抱えたまま類の思考は、過去を旅する。「せ、専務……花沢専務っ、あっもう花沢っ!」牧野が何度も何度も類を呼ぶ。それでも類の思考は過去に思いを巡らしたまま。牧野の声が嗄れた頃_________「あんた、ポスター泥棒したよね?」唐...
09
2019
28
2019
まだ気づかない08 類つく
現在、牧野は非常に困っている。原因はいくつかあるのだが、一番の困りポイントが、雪之丞がオランダに行ってこの方、ゆっくり話しが出来ていないことだ。牧野にとって雪之丞は、ある意味〝特別〟だ。困ったときは、雪之丞。何かあったら雪之丞。いや、何がなくとも雪之丞。出会ってから十年の間に培わされた関係だ。学生の頃は、ほぼ毎日。社会人になってからだって、少なくとも週に二回は会っていたのだ。そこまで考えて、はたと...
22
2019
まだ気づかない07 類つく
「ハァッー」 突然の牧野の溜息に、類が顔をあげた。牧野が何か言いたげに類を見る。類は牧野から視線を逸らした。「ふぅっーーーー」牧野は類に一歩近付いて、ため息を吐く。類は、その溜息を振り払うかのように、「コホンッ」咳払いを一つしてから「決まったこと。牧野も了承したろ?」「だって……」「だっては、ない」「でも……」「でももない」「専務……意地悪ですよね」「あんた随分とハッキリ口にすんね」「それは そうですよ...
20
2019
まだ気づかない06 類つく
「早く、くっついちゃえばいいのに」雪之丞は、パソコンのデスクトップ画面に映る牧野に呟いた。本音を言えば、今だって雪之丞は、牧野が欲しくて欲しくてたまらない。十年の恋心に終止符を打つなんて、そんなに生易しいものじゃないのだから。十年間……一番そばにいた……だからこそわかる。「なーんで、気がついちゃったのかな。なーんで、類さんいい男だったのかな」本当は、最後の最後までもがきたかった。憐憫でも、同情でも、な...
17
2019
まだ気づかない05 類つく
「ズビッ……ズビビっ 雪ちゃん気をつけて行ってきてね 元気でね」「うんっ つくしちゃんも元気でね」「雪ちゃん、Bedankt tot nu toe(これまでありがとう)」「Graag gedan(どういたしまして) ……って、つくしちゃん、オランダ語、練習してくれたの?」「……まだ挨拶くらいしか出来ないから……帰ってきたら雪ちゃん教えてね」牧野は、大きな瞳に涙を溜めながら雪之丞を見上げる。「そうだね……でも……類さんにオランダ語習って、遊びに...
16
2019
まだ気づかない04 類つく
「専務って本当に笑い上戸ですよね」「牧野が変なことばっかりするからだろう」「えぇーーー人のせいですか?専務だって随分と変なことしてますけど……」牧野の言葉に類は、手身近にあった書類を丸めるとポカンっと叩きながら「牧野のフォローしてるとだろう」「あぁーーーーーー 暴力上司ですわぁー コンプライアンス委員会の登場ですよね」「何が、ですわだよ。それより朝頼んどいた書類は?」「いまお手許に丸められているかと...
13
2019
まだ気づかない03 類つく
「ふぅーーっ」一拍置いて、周りを見回せば……タラリと冷や汗が出る。どうやら牧野……乗ってはいけないエレベーターに乗ってしまったようだ。なるべく目立たないように小さくなってみたけれど、閉まる直前に乗ってきた人間が目立たないわけもなく……トホホ状態だ。それでも、目立たないように精一杯小さくなってうつむいた。そんな中《たしか君、牧野……つくしさんだったよね?》とても綺麗なスワヒリ語で話しかけられた。だ、だ、誰、...
12
2019
まだ気づかない02 類つく
六度目の出会いは、気に入らない見合い相手を撒くために紛れ込んだ仮装パーティー。余興で出て来たキャラクターマスコットがダンスするのを見て、後ろの女が嬉しそうに声をあげた《 おぉーーー懐かしい! 私も着ぐるみ着てバイトしてた事あるんだよね! でねでね、頑張ったって言って金一封貰ったのが花沢。それまで色々バイトしてたけど、外部の業者にも親切で頑張りを認めてくれるなんてウチの会社くらいだったんだよ。もう一発...
11
2019
まだ気づかない01 類つく
「うわっ 虹 虹ですよ専務!しかもダブルレインボーですよ。ダブルレインボーって幸運の象徴なんですよ。専務、今日は間違いなくついてますよ!ラッキーデイです。一緒に宝くじ買いましょう。宝くじえっ? いらないんですかぁ。 えぇー残念! 買う時半分。当たれば一儲け出来るかと思ったんですけどねチッ 残念あっ、冗談ですって、冗談。それより、虹って言えばですね、小さな頃、繰り返し繰り返し同じ虹の夢を見てたんですよ。...