02
2022
18
2021
12
2021
01
2019
16
2019
紅蓮 110 つかつく
司が頷いた瞬間……了承を得たとばかりに女は「一途な思いは、善なのでございましょうか? 悪なのでございましょうか? ……道明寺さんは、どう思われますか?」そう問うた。「……一途な思い?」「えぇ。一途な思いでございます」「それは、俺の彼女への思いに対してですか?」「それも含めて、全てのことに対してでございます」しばしの沈黙の後「……indifferentia貴女は、いや、永瀬さんはどう思われますか?」司が自分の名を呼んだこ...
03
2019
紅蓮 109 つかつく
司は、目に見えぬ者に対しての精一杯の誠意だとばかりに、護衛の者も付けずにただ一人、地図に指し示されていた場所に向かった。目的の場所は、廃墟と化した一軒の洋館だった。波が満ち溢れて来たのだろうか、窓の外から潮騒の音が聞こえる。潮騒の音は司に、つくしを迎えに来た日のことを皮切りに、二人で過ごした日々を思い起こさせる。司の表情(かお)にに柔らかい微笑みが浮かんだ。つくしと出会うまでの司は、空虚の中を彷徨...
04
2018
15
2018
13
2018
09
2018
22
2018
紅蓮 104 つかつく
「かぁしゃま、ねんね?」宗谷は首を傾げそう聞く永久の頭をひと撫でしてから眠り続けるつくしを見下ろした。永久が宗谷を見上げ「とぉしゃまナイナイよ」紅葉のような小さな手で宗谷の頬を持ち上げて「ニッコリよぉ」そう口にした。「永久……」「かぁしゃま ニッコリすきよぉ」「……こうか?」宗谷が微笑めば、小さな手の平を合わせてパチパチと手を叩く。 「そう……だな。母様はニッコリが好きだな」永久の温かい手がもう一度頬に触...
12
2018
紅蓮 103 つかつく
「とぉしゃま、いってらぁしゃい」「あぁ、母様と二人良い子で待っているんだよ 」「あぁーい」宗谷は娘の永久を抱き上げ頬にキスを一つ落としてから、佐久間に引き渡した。佐久間は手を振る永久と共に奥の部屋に下がっていった。回り廊下を歩きながら「つくし、永久のこと、くれぐれも頼むよ。それと……「外に出るなですよ……ね」「まだこの前のこと怒っているのか?仕事が一段落したら三人で旅行にでも行こう永久が見たがっていた...
12
2018
紅蓮 102 つかつく
「永久をかい?」剣のこもった宗谷の声に抗うように、つくしはギュッと手を握りしめながら「ダメ……かしら? 永久にもそろそろ同世代の子達と触れ合うことが必要かと思うんですが。それに、日本なら治安も良いし」つくしの言葉が全て終わらぬ内に宗谷は言葉を覆い被せる「永久はまだ小さい。そんなに急ぐ事はないよ。それに日本での滞在は、一時的なものだ」言い切る宗谷に、つくしは負けじと言葉を返す「でも、同年代の子と触れ合...
05
2017
紅蓮 101 つかつく
お帰りなさいませ沢山の使用人が一斉に頭を垂れる。宗谷に抱きかかえられながら「とぉしゃま、ココは?」 「うんっ?ここはね、父様の育った屋敷だよ」「そだぁった?」「あぁ、父様は、ここで生まれて、ここで大きくなったんだよ。そうそう父様と母様が出会ったのもここの屋敷だったんだよ」「であった?」「そうだよ。いまの永久くらいの時に、父様と母様は出会ったんだよ」「とぁしゃまとかぁしゃまが?」「あぁ、だからここに...
18
2017
紅蓮 100 つかつく
「ちょ__う、き…れ…ぇ」 美繭の口から久しぶりに出た言葉に、後ろに居た男が嬉しそうに答える。 「あぁ、綺麗だね。美繭は小さな時から蝶が好きだったもんな」 男は青いアゲハを見つめる。アゲハは、美繭の周りをヒラヒラと美しく舞う様に飛んでいる。 精神が壊れた美繭の顔は、闇の世界の美容整形医の手によって、眼球に施された人工虹彩は抜き取られ、玲久と似せるために施されていた鼻と顎の人工プロテーゼが取...
17
2017
紅蓮 99 つかつく
動きを止めていた歯車が一斉に動き出す。 車椅子に座った女の周りをヒラヒラと青いアゲハが舞っている。 女は、青いアゲハに指を伸ばしニッコリと微笑む。 その顔には、苦悩も悲しみも___なにもない。 そこに居るのは美しく綺麗な人形…… 辛い事も 苦しい事も全て忘れ、 ただ微笑んでいる人形だ。 __玲を出産した美繭は、出産の影響からなのか? 作り上げ植え付けられた玲...
16
2017
紅蓮 98 つかつく
「パパ〜」美しい髪をサラサラと靡かせながら、玲が近づいて来る。満面の笑みで両手を広げて「玲」愛しい息子の名を呼び抱き上げる。「パパ、おひげがくしゅぐったいよ」クスクス笑う玲の頬に顎を態と擦り付ければ、「もう、おかえし」そう言いながら小さな手で首もとをくすぐろうとする。誰が教えた訳じゃないのに___玲久が俺にした事と同じ事をする。恨んだ神に感謝をしたのは、玲が産まれた瞬間だった。玲は不思議な事に生物...
16
2017
紅蓮 97 つかつく
クルクルな髪? 遺伝子? 何を言っているのかが理解出来ずに、スマホを持ったまま阿呆のように類を見つめれば 「……司、俺、そっちの趣味はないからあんまり見つめないでよ」 類が大袈裟に眉を顰めながら口にする。 「あっ、ワリィ」 冷静に考えれば俺全くもって悪くなんてないのに、そう口に出して謝っていた。 「司が素直に謝るなんて___虹色の太陽が出ちゃうかもね。クククッ」 何が可笑しいの...
11
2017
紅蓮 96 つかつく
「……つくしが……娘を…連れて……帰って…くる……」 類の言葉を反芻するように繰り返えせば 「牧野の産んだ子、娘らしいんだけど。牧野以上に外に出さない。もうじき3つになるらしいんだけど……一度も正式にお披露目は無し。お披露目が無しどころか、写真一枚出回らないし、娘の世話をするのも限られた者のみらしいよ。宗谷家の極秘事項...
08
2017
紅蓮 95 つかつく
「奥様はお幸せでございますね」 この言葉を言われる度にあたしは、どこか宙ぶらりんな気持ちになりながら俯き微笑む。 言葉を放ったものは、それを恥じらいとでもとるのだろうか?至極満足げに微笑みながら頷くのだ。 そう、あたしは〝幸せ〟なのだ。 夢物語のように小ちゃな頃の初恋が実った。若くして莫大な富と名声を持つ夫がこよなく愛する妻という立場。美しく利発に育っている娘。 誰もが羨む 〝幸せ〟 ...
02
2017
紅蓮 94 つかつく
八の字を書きながら真っ青な空にツバメが飛んでいる。 後ろから付いて歩く母親に見守られながら、幼子がおぼつかない足取りで一歩一歩足を前に進めている。 「永久(とわ)」 幼子を呼ぶ優しい声がする。 永久と呼ばれた幼子は目をキラキラと輝かせながら上を見上げ、満面の笑みを浮かべながら手を伸ばし抱っこをせがむ 「とぉしゃま」 とぉしゃまと呼ばれた男は、手を伸ばし永久の身体を宝物を抱くように抱...
15
2017
紅蓮 93 つかつく
頷かなければ良かった。 でも、黒真珠のような大きな瞳で真っ直ぐに見つめられれば、頷くしかなかった。 玲久の瞳が好きだった。真っ直ぐに俺を見る瞳。 違う。玲久の全てが好きだった。髪の毛一本だって玲久のものなら愛おしかった。 玲久、玲久、玲久___会いたい 会って抱き締めたい。 玲久、玲久、玲久 *-*-*-*-*-* 美繭が己の命を断とうと手首を切ったあの日あの時、設楽夫妻は宗谷の...
14
2017
紅蓮 92 つかつく
美繭の腹に手を当てながら__♪おろろん おろろん おろろんおろろん おろろんよおろろん おろろん おろろんおろろん おろろん おろろんよ♪玲久がよく口ずさんでいた子守唄を歌う。これから生まれる玲久の血をひく子供に思いを馳せながら。玲久と最も近い遺伝子をもつ宗谷の精子がどうしても欲しかった。生まれなかった我が子の代わりに? 玲久の代わりに?自分でも解らない。解っているのは、死を許されないのならば、こ...
15
2017
紅蓮 91 つかつく
「玲久__」 何万回、君の名を呼んだだろう。 何万回、アイシテルと伝えただろう。 それでも足りずに何度も、何度も名を呼び、何度も、何度もアイシテルと伝えた。 会いたい 会いたい____ もう一度、玲久、君にアイタイ そして、君の名を呼び、もう一度アイシテルと伝えたい。 君を失ったあの日 ___俺は君だけでなくもう一つの大事なものを失った。 生きていけないと思った俺をこの世の中に引き止めた...
12
2017
紅蓮 90 つかつく
夢の中で、誰かがあたしに手を差し伸べている。この手を掴めたら、あたしは幸せになれる。そう解っているのに夢の中のあたしは、その人の手を取らない。その手を取りたいと願うのに、掴めない。夢の中のあたしは、この手の持ち主を心の底から愛してる筈なのに「あぁっーーー」「つくし、つくし、どうした?」優しく身体を揺さぶられ、あたしは目を覚ます。「凌さん__あたし、あたし、手を掴めなかったの」「何を言ってるんだい?...
10
2017
紅蓮 89 つかつく
日々大きくなるお腹を摩りながら幸せに酔い痴れる。不確かな自分の中に芽生えた確かなものの存在。それだけでなんて幸せなのだろう。このお腹の中の子は、何も考えなくてもいいと私を楽にしてくれるのだ。日本に来て体外授精を設楽から持ち掛けられた時___記憶の失った私が親になるなんて出来ないと断った。「だからこそ、確かなものを二人で築き上げていこう」そう言われて、どうせ籠の鳥ならばでも__決めて良かった。今なら...
09
2017
紅蓮 88 つかつく
宗谷が呼称を〝私〟から〝俺〟に変えたのは、何を思ってだったのだろうか?結婚してからずっと住んでいた本邸を出て、宗谷家にとっては小さな洋館に住まいを変えた。とは言え、広大な敷地の中に立てられた洋館は、一見、自由そのものに見えるのだが中から外に出る事も、外から中に入る事も宗谷の赦しを得なくては、難しい作りになっている。いつから計画されていたのか? 母屋から渡り廊下で繋がった建物の中には、最新機器の揃っ...
01
2017
紅蓮 87 つかつく
つくしが記憶を失い一月以上が経つ。 虚ろなつくしの心に、毎日のように嘘の記憶を植え付けていく。 「ご両親の都合で俺とつくしとは、一時期離れ離れになったんだよ」 「そうなの?」 キョトンとしながらつくしが聞き返せば 「あぁそれまでは、ずっと一緒だったんだよ__ ただ、そのあと直ぐに、俺も祖父母と共に居を移したから、大人になるまで再会できなかったんだよ」 「なんで__あたし覚えてないのかな__...
28
2017
紅蓮 86 つかつく
人は、愛する者を失った時、どこかに憎しみの対象をおかなければ心が壊れてしまう。宗谷にとって、己の心を守る為に憎む対象が、つくしと司の二人の愛だったのだ。切っ掛けは、美繭が羨ましそうに洩らした言葉「あんなキレイな恋……私もしてみたかったなぁ」耳について離れなかった言葉。 美繭を失った後、その言葉が何度も蘇った。その言葉を思い出す度に、自分の恋心がどれほどに邪で狂っていたかを、己の思いを遂げる事がどれだ...
25
2017
紅蓮 85 つかつく
二卵性双生児で産まれた二人の容姿は、ウェヌスのえくぼを除いて似ていなかった。性別も容姿も違う二人が双子だと知るものは、極々限られた人物だけだった。影は、玲久と名付けられ、双子を取り上げた医師と双子の母と乳兄弟であった絢子の実子として渡米した。宗谷家を継ぐものは、一人で構わないのだから。いざと言う時のスペアは、普段は必要のない影なのだ。宗谷凌は、宗谷家の跡取りとして育てられた。親の愛を殆ど知らずに成...