19
2019
baroque 89
つくしが目覚めた時には、薫は席を立っていた。懐かしい香りを感じた気がしてつくしは鼻を蠢かす。「……そんなわけないか……」一人呟いてから、薫と二人で過ごした日々を思い出す。恋というには、あまりにも幼い恋心だった。だからこそ、つくしは、一直線に恋をした。時折訪れる薫と過ごす時間は、つくしにとって幸せで幸せでたまらないものだった。初めは憧れにしか過ぎなかった。憧れが恋心に変化していったのは、薫の持つ弱さを垣...
17
2019
無花果の花は蜜を滴らす 11
護衛と言う名の見張りがついていても、束の間の自由な時間は、あたしの呼吸を楽にしてくれる。同時に湧き上がってくるのは、彼と会いたいという思い。会って彼に触れ、彼の吐息を、彼の温もりを感じたい。ううん……と、あたしは下を向きながら首を振り、自分の思いを追い払う。ポンッと肩を叩かれて、顔を上げれば「牧野……つくしちゃんよね?」そう言って艶やかに笑う女性が立っていた。コクンと頷けば「私、滋。 大河原 滋。 桜子...
15
2019
ネクタール 08 つかつく
「……多分、そう……だな」俺の返事に、牧野の瞳は更見開かれ、大袈裟でも何でもなくて、今にもおこっちそうだった。人間の目ってこんなにデカくなんだなって変なトコに感心した。いやっ 待てよ。こいつ若しや 妖怪 蔵ボッコ改め、一つ目タヌキか?いやいや、目が二つあるから、一つ目って事はねぇよな。「……司さん、司さん、なんか全く違うこと考えてません?」大きく見開かれていた筈の瞳が、スゥーっと細められ俺をジロリと見てい...