シーソーゲーム 55 類つく
小ちゃなつくしが泣き叫んでいる。
「兄ぃ、みんながねくぅちゃんには、
弟だけでお兄ちゃんはいないって言うんだよ。
兄ぃはくぅちゃんのお兄ちゃんなのに、変だよね」
初等部に上がった頃かな?
「柊兄ぃー あのね、あのね、皆が柊兄ぃが一番カッコいいって。うふふっ凄いね」
これは、中等部の頃のつくしだね
夢を見る。小ちゃなつくしが段々と大きくなる夢を見る。
16の誕生日‥如月つくしは、牧野つくしになった。
牧野つくしは、つくしがもつ美点が花開くように、生き生きと輝きをもった。
つくしは、初めての恋をした。固い莟がほんのりと紅く色づく様な恋をした。
弾けるような笑顔が眩しくて‥嫉妬した。
自分がもつ醜い感情に蓋をするように、つくしの初めての思いを見守った。
焦らなくても‥いつか、つくしは気が付くだろう。そう思っていたから。
類のためだとはいえ、俺の元につくしは帰って来た。
自分で決め、帰ってきた。
神様は、我を救って下さったのだ。
3年共に過ごして来た。
変な虫がつかない様に、至る所に連れ回した。
俺の横につくしが、つくしの横には俺がいるのが、当たり前の状態にもっていったんだ。
義務感で構わない。立場が人を作るのだから。
いつか、必ずつくしは、俺を愛する筈だから。
それまでは、形だけ整っていればそれで構わない。あの日まで、そう信じていた。
とんだお笑い草だ。
たった1日。たった1日でつくしの心は、花開いた。
蛹が蝶に変わるように、一気に莟が開花する。
息を呑む程に美しく開花する。
淡い恋心ではなく、熱く強い心で、つくしは類を愛し始めた。
恋は、年月などではない‥
目の前に突き出された瞬間だった。
あの日から、俺はずっと惨めだった。
惨めさに雁字搦めに縛られた。
そして‥‥つくしは、再び俺を裏切った。
あどけない顔で、嘘を吐く。
好きな男のために、嘘を吐く。
憎い‥憎い‥憎い‥
出口が見えないほどに‥憎い
それなのに‥愛おしくて、愛おしくてたまらない。
つくしは、誰にも渡しはしない。
たとえ、つくしが俺を憎もうとも
いいや、愛せないのなら憎めばいい。
もっと、もっと憎めばいいと、空になったつくしを俺は、自分のものにした。
* **
憎んでいると言った男は、あたしを抱きしめながら
「つくし、一緒に幸せになろうね」
飛び切りの笑顔をつくりながら、囁いた。
全ての力が身体中から抜け、あたしは男に抱かれた。
翌朝、一之宮と如月の共同事業と共に、夜の婚約が発表された。
20歳の誕生日‥
一之宮柊の正式な婚約者としてのお披露目がされる。
久しぶりに、道明寺、西門さん、あきら君達懐かしい3人に会った。
「牧野?」
驚いた顔をしている3人に、あたしの婚約者が説明をする。
3人で目を見合わせて
「類も、ビックリすんだろうな」
「なぁ」
そんな言葉が交わされている。
類‥名前を聞くだけで胸がはち切れそうになる。
会いたい。会いたい。会いたいと。
優紀と滋が嬉しそうに手を振りながら近づいて来る。
「桜子ね、具合が悪いんだって‥つくしにゴメンねって言ってたよ」
「柊さん、おめでとうございます。次は結婚式ですね~楽しみにしています」
「優紀ちゃん、滋ちゃん、これからも宜しくね」
婚約者の男が、人々を魅了する笑顔を振りまきながら挨拶を返している。
きらびやかな世界が、あたしの目の前で繰り広げられている。
あたしは、テレビの画面を見るようにきらびやかに輝く世界を眺める。
本物のテレビの様に、パチンっと消せたらいいのにと思いながら。
きらびやかな世界で、あたしは笑う。
幼少の頃から躾けられた笑顔で。
あたしは、静かに暗い穴に落ちていく。
穴は、何処までも何処までも続いている。
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