月夜の人魚姫 08 総つく
いや、あたしにとってはと付け加えた方が良いのだろうか?
「遊、下手の考え休むに如かずだからね」
「っん?大丈夫。俺、上手だから。それに、休むなんて性にあわないから」
指を口に含め、妖しく微笑する。
「ちょっ、ちょっと、もうお終いだって」
「お終いじゃないって‥今日、絶対ミュウ燃えるって」
含み笑いを浮かべ、耳元に囁き、吐息を吹きかける。
ビックン‥あたしの身体の力が抜けていく。
水を得た魚のように、遊の舌があたしの耳を舐る。
凹凸に合わせ生き物のように‥
「西門さんは、こんな風にしてくれた?」
「遊、だ、だ、ダメ‥」
堕ちていく。堕ちていく。快楽に堕ちていく。
「小林、メープルに寄って」
「遊、メープルは嫌だって言ったよね?」
「だぁめ。あんたミュウだろ?それとも牧野つくしなの?」
あたしは首を振る。
「ふふっ、だったらメープルでしよう。牧野つくしだったら絶対に立ち寄らないメープルで」
口車に乗せられて‥着いた先はメープルホテル。
獣の様にあたしは燃えて、遊を貪り尽くす。
「ミュ、ミュウ‥もう‥ダメだ‥クッ」
「ダメだよ。遊が最初にあたしの身体に火を点けたんだよ」
深い快楽を求めて、あたしの女に焔が灯る。
髪を振り乱し、嬌声を上げて、隙間を埋める。
「はぁっ はぁっ はぁっ」
「ミュウ、激し過ぎる‥」
ひょいと立ち上がり、冷蔵庫からペットボトルを取り出して、あたしに渡す。
ゴクリッ 喉元を冷たい水が流れてく。
冷たい水が、命の水が、あたしの身体の中を流れる。
「美味しいっ」
クスクスと遊が笑い出す。
「最初の頃さ、ホテルで飲み物飲もうとすると、ミュウ怒ったよね?勿体ないって」
「いつの話しよ」
「西門さんにも怒ったの?」
「遊!」
あたしは、ペットボトルを遊に投げつける。
優雅に交わして、一頻り笑う。
遊の後ろの窓から、夕陽が真っ赤に伸びている。
あの日の事を思い出す。
~~~~~
真っ赤に染まる夕陽があまりにも綺麗で、あたしの瞳から涙が零れた。
「‥牧野‥」
後ろからふわりと抱きしめられた。
まるで、幼子を抱きしめるように優しくふわりと。
「‥すんっすん‥西門さん‥あっ、なんか‥目にゴミ入ちゃって、あはっ‥」
「無理すんな‥泣きたいなら泣け‥」
「‥ほ、ホントだよ‥ホントに目にゴミ入っただけだよ‥」
「だったら、目見せてみろ」
グイッと肩を抱かれ、向きを変えられた。あたしは、下唇を噛み締める。
「あぁ、ホントだなっ‥」
そう言って、頭をポンポンっと2つ優しく触れられた。その仕草があまりにも優しくて‥
「に‥‥どさん、西門さん、あたし、あたし‥ヒック‥ヒック‥ぅっっぅ」
西門さんの指が、あたしの頬を優しく撫でた。
「ヒック‥うわぁ‥ん‥っすん‥ひっく‥」
泣いて泣いて泣いて、涙が枯れるくらいに泣いて‥また泣いて‥いつしかあたしは眠りについていた。
久しぶりに訪れる、深い深い眠りについていた。
パチリッ 目が覚める
「おはよう」
ぶっきらぼうに、西門さんが笑って、それに答えるようにあたしの心にも、自然と笑みが広がった。
色々な都合って奴で、道明寺との恋には終止符が打たれた。辛くて辛くて仕方なかったのに、あたしは泣けなかった‥ずっとずっと泣けなかった。泣いたら立っていられなくなってしまうから。ずっとずっと泣けなかった。
夕陽があんなに真っ赤に染まっていなければ‥あたしは泣けないままだったかもしれない。
西門さんが涙の封印を、解いてくれた。
「ごめんね。ありがとう」
「気にすんなっ、牧野にはすげぇいっぱい借りあるしな」
「‥うんっ‥」
「じゃぁ、また来週な」
優しい瞳を向けて、西門さんが手をあげる。
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