月夜の人魚姫 09 総つく
RRRR
着信の音が鳴り響き、現実に引き戻される。
「あっ、蒼からだ。出るね」
慌てて、スマホをタップする。
「いまどこ?」
蒼の甘い声がする。
「うんと、遊とお肉食べるとこ」
「‥いいな‥オレも食べたい」
「じゃぁ、来週食べに行こう」
「っん。約束だよ!絶対だからね。遊にも伝えといてね」
「はいはい。絶対の約束ね」
他愛も無い事を少し話した後に、電話を切る。
小首を傾げながら遊が
「蒼、なんだって?」
「お肉食べたいって‥遊も一緒にだよって」
「なんで、肉?」
「あははっ、いまドコって聞くから‥流石に‥ねっ」
「そりゃそう‥だよな‥ 来週だっけ?こっちに来るの」
「うん。そのためにも、今週はバリバリ仕事片付けるんだから、余計な事は頭から追い出してね」
「はいはい。分かりました」
「もう本当にだよ?」
「ミュウを裏切れても、蒼は裏切れないから信用しろ」
「酷い!はぁっー シャワー浴びて来る」
シャワーから出ると、いつの間にか洋服が用意されている
「これ?誰?」
「っん?外商に届けてもらった」
「流石、遊‥用意いいね」
「そりゃね、伊達にたらしじゃないよ」
たしかに‥うんうんと頷いて
「遊、お腹空いた」
「はいはい」
「何食べる?」
「うーーん、やっぱりお肉でしょ。お肉」
「だな」
笑い合い、部屋を出る。
すこぶる上機嫌で、食事の席でも、
その後に行ったクラブでも遊はウィスキーを煽る。
「遊、そろそろ家に帰らない?」
「んっ?今日はメープルで泊まってこうぜ」
「いやなこった」
「あんなによがったんだからいいだろうよ?」
「嫌だ」
こうなった時の遊はしつこい。
馴染みの女の子に遊を託して、あたしは一人帰路につく。
「ふぅっ〜 流石にメープルで泊まりはね‥心の準備が出来ないちゅぅーの。
明日の朝起きたら、遊ビックリするかな?まぁ、たまにはビックリしてもらいましょうかね。あははっ」
一人呟いてから‥電気を消して、香木を聞く。
真っ暗な静寂の中、伽羅の香木を聞く。
聞香に漂いながら、彼に抱かれた日を思い出し、甘美な思い出に身を焦がす。
相変わらず、美しい牡だった。
ぽたりっと涙が溢れる。
涙など、全て捨て去った筈なのに‥‥8年も経つのに‥
あたしはまだこんなにも、あなたを欲しているんだ。
涙を零して、あたしは笑う。
牧野つくしを捨てた筈なのに、あたしは、あたしは‥あなたへの思いを捨てられない。
今夜だけは特別と言い聞かせて、あたしは涙する。
つくしに戻って涙する。
「西門さん‥‥」
愛する人の名を呼びながら‥涙する。
月夜に照らされ、伽羅の香りを聞きながら‥
彼の指先を、唇を舌先を思い出して涙する。
〜〜〜〜〜
伽羅の香木が漂っている
「これはつくしの匂いだな」
「こんなに素敵な香りが?」
「あぁ、ほんのちょっとだけでも伽羅は伽羅だとわかる香りだ。優美で甘い。甘いのに清涼感に満ちている。なぁ、つくしお前そのもんだろう?」
西門さんの唇が、あたしの背を這う。
「それにな、伽羅を一度聞いたら、もう一度もう一度と深みに嵌るんだ」
一度手にしたら手放せない香りは
西門さん あなただよ‥あなたそのものだよ
快楽に漂いながら、あたしは思う。
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