月夜の人魚姫 10 総つく
「ふぅっーー うん。あたし頑張ったぁ~ うーん頑張った」
「はい、はい。ミュウは頑張った。はい。頑張りました」
「だよね?じゃぁ、今日はもう上がるね」
「俺も、上がりたいなぁー」
「あははっ、遊は頑張って働いてよ」
じゃっと、右手を上げて部屋を出る。
「未悠さん、お帰りですか?」
「うん。今日は先帰らせてもらうね」
「もしかしてデートですか?」
「うんっ 飛っきりのハンサムボーイとね」
「ひゃっ、一ノ瀬社長が妬いちゃいますね。って、失礼しました」
「いえいえ。じゃぁお先に」
あたしは、笑いながら社を出る。
地下鉄に乗って、東京駅を目指す。
もうじき、蒼が乗る新幹線が着く筈だ。
久しぶりの蒼を堪能するんだと心に誓って、ワクワクしながら蒼を待つ。
「未悠ちゃん」
お母さんの声がする。振り向けば
「ママーー」
あたしの宝物が走って来る。
大きく手を広げ、蒼を抱きしめる。
「未悠ちゃん、元気?」
「はい。元気です。蒼良い子にしてました?」
「えぇ、蒼君はいい子よ。未悠ちゃんと一緒。2人ともいい子よ」
お母さんが優しく笑う。
「ママ、バァバ、オレ、お腹空いちゃったよ」
「ごめん、ごめん。蒼はなに食べたい?」
「お魚!」
「お肉じゃなくていいの?」
「うん。お肉は、遊とママと3人で行く」
蒼があたしの耳元で小さく囁く
「あんな、バァバは、お肉よりお魚が好きなんだよ。だからお魚にすんの」
「そっかー蒼は、優しいね。ママは蒼が大好ーき」
「オレも、ママが大好きだ」
目を見つめ合いおでこを合わせ、コッツンする。
小ちゃな頃から蒼と2人でする「大好きだよ」の儀式。
小ちゃな手がギュッと背に回る。
「オレね、100点いっぱいだよ」
「そう」
「オレね、ちゃんとお野菜も食べてるよ」
「蒼は、偉いね」
食事をしながら蒼のお友達の事、学校の事、習い事の事沢山沢山話を聞く。
「ママも、遊のお仕事ちゃんと手伝ってるか?」
「うんっ ママも頑張ってお手伝いしてるよ」
「ママも、えらい」
お母さんが微笑みながら聞いている。
「蒼君、お口の横にお弁当さんがついてるわよ」
蒼の顔についたご飯粒を、愛おしいそうにつまみ取る。
えへへっ と 蒼が笑う。
お母さんは、蒼を沢山沢山愛して下さっている。
東京に移動になった時、蒼を連れて行くかどうするか、悩みまくった。
お母さんもお父さんも、連れて行きなさいと何度も勧めて下さった。
悩みに悩んだ。
蒼と離れるのは身が裂かれそうに辛い。
あの時も、この光景をみたんだっけ
「蒼君、お弁当さんつけてどこ行くの?」
そう言って、蒼の口許についたご飯粒をとって、自分の口許に運ぶ。
忙しくて蒼との時間がとれなくなってしまうあたしよりも
優しい瞳で、蒼を見るお母さんにお任せしたんだ。
食後のデザートのアイスクリームを蒼が嬉しそうに頬張っている。
「蒼は、本当に美味しそうに食べるね」
「あらっ、未悠ちゃんも同じお顔で食べるわよ」
お母さんが楽し気に笑う。
この人は、あたしの事も沢山沢山愛してくださっている。
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