紅蓮 63 つかつく
とりとめのない事を話し終えると、一緒にママの所を見舞う。
ママは一進一退を繰り返しながらも、前に比べれば随分と顔色も良くなって来ている。
設楽先生に感謝の念を口にすれば、
「丁度、そんな時期だったんでしょうね。何事も時期があるもんですからね」
包み込むような笑顔で、淡々と答える。
「あの‥設楽先生は、どうやって主人を説得して下さったんですか?」
「説得?説得なんてしていませんよ。ただお話させて頂いただけですよ」
「ただ、話した?」
「えぇ、今現在の牧野さんの状況と、つくしさんの状況とをお話して、ご納得頂いただけですよ」
ニッコリと口にする。
「ははっ、設楽先生、凄いですね」
「そうですか?」
「えぇ、宗谷に意見を述べるものなんて今までいませんでしたから」
「だったら、それが良かったんですかね?」
「そうなんでしょうか。ただ、宗谷は、普段あたしの周りには、男性は置かないんですよ‥」
「ほぉ、それはそれは。余程、人畜無害だと思ったんですかね?」
人畜無害? いいや違う。設楽先生は、だれしもが振り返るハンサムではないかもしれないけれど‥十二分に魅力を称えた男性だ。
いいや、熊さんのような無精髭がなければ‥いわゆるイケメンと呼ばれる人種に分類される筈だ。
「先生が人畜無害ですか? 先生、充分に魅力的ですよね?」
「あははっ、有り難うございます。まさか天下の宗谷のご夫人にそんな風にいわれるとは思いませんでしたよ。僕も中々捨てたもんじゃないですね」
「あっ、いえ‥すみません。とても不思議だったものですから」
「じゃぁ‥僕の中にあるものと宗谷さんの心が共鳴したのかな?」
共鳴? 設楽先生と宗谷が?
だったら‥設楽先生も狂っていると言うの?
ふふっ、まさかね‥
先生が狂っているのだとしたら、世の中にまともな人間など誰もいなくなってしまう。
「そうそう、つくしさん‥」
「あっ、はい」
「つくしさんのご実家の献茶式の後の祝賀パーティーに僕も呼ばれたのですが‥何を着ていけばいいんですかね?」
「先生がいらっしゃるのですか?」
「えぇ、宗谷さんが是非にと」
略礼装であれば構いはしないと話しながら、
宗谷はいったい何を考えているのだろうかと不思議に思った。
設楽先生の部屋には、香木が薫り立っている。
初めて聞く香り‥それなのにどこか懐かしく、あたしを落ち着かせる。
香木を聞きながら交わす会話は、縋るものを必死に欲していたあたしの心を変えて行く。
「つくしさん‥怖がらなくて受け入れればいいのですよ。遮る心は憎む心は、何も生み出しませんからね」
あたしが〝はい〟と返事をすれば、設楽先生は、ニッコリと笑いながら
「快楽をきちんと受け入れ、心を解き放ってあげてくださいね。あなたにとって一番大切なことですからね」
快楽を受け止め、心を解き放つ‥心の中で繰り返す。
「快楽の先に、あなたの求める自由がありますからね」
あたしの心の中に、凪が生まれて行く。
子を宿す心配がないからだろうか‥宗谷との夜の営みすら厭いはしない。
それさえか時折、受ける鞭打ちさえ、素直に快楽に変えてしまっている。
そして‥気が付く‥‥自分が飼い馴らされていることに。
愕然として、笑いが漏れる。
人は‥こうして飼い馴らされ、奈落に堕ちて行くのかもしれない。
だけど‥受け入れなければいけない。
そうすれば‥あたしは、もう苦しまなくてすむ。
そうすれば‥あたしは、自由に羽ばたける
香木の薫りを聞きながら、今夜も宗谷を受け入れ享楽に耽る。
素直に快楽に漂えば、宗谷はあたしに自由を与えてくれる。
ママを見舞う事も、献茶式の伝いに西門に行く事も、嫌な顔一つせずに許してくれるのだ。
受け入れれば‥楽になる。
受け入れさえすれば‥自由になる。
あたしの心に凪が生まれ、設楽先生への信頼感は増して行く。
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