三角波 4 総つく
襲われそうになった恐怖で、あたしの意識は、昂揚していたのだろうか?
何故かは、わからないけれど‥美しい男に、堪らなく疼いてしまったのだ。
あの日、西門さんに抱かれたのは‥ある意味間違いで、ある意味正しかった。
世の中に、これ程までに丁度具合のいい男の躯があるなんて‥と知れたから。
今までに味わった事のない快楽が何度も何度も躯の中を貫いた。そして迎える絶頂。
だけど‥朝起きて、冷静になったあたしは、人生最大に後悔した。頭を抱えて思わず唸ってしまうくらいに後悔した。
「うぅー‥友達と寝るなんて‥あたしも大概イカレテル‥」
散らばる服を掻き集め身につけ、部屋を出た。
幸い、勤め先も住まいもバレては居ない。
西門さんのメールと電話を着信拒否に設定した。
今考えてみれば、これがいけなかったのだろうか?
適当に何回か付き合って、フェードアウトすれば良かったんだ。
そんな事は、あとの祭り‥
人生なんて大概の事柄が、あの時こうすれば良かった。この時こうすれば‥なんて事で出来ている。
もしかしたら、普通の人は違うのかもしれなけど、あたしはそんな事の連続だ。
仕方ない。あの時は、あぁするのがベストな事だと思ってしまったんだから。
ひと月程何事も無く過ぎた。あんな事があったばかりだから、あたしも大人しく過ごした。
「もういいかな?」
男日照りも続いた事だし‥そんな考えがムクムクと沸き上がってきた日だった。
終業時間まで後5分。仕事も片付いた、社長のお供での会食も無い筈だ。
ヨシッ‥そろそろ帰り支度をするか。PCを消し、デスク周りのものを片付けた。
グシャリッ 紙コップを潰してゴミ箱に投げた瞬間
専務室のドアが開き
「牧野さん、悪いけどこれからお客様がお見えになるんだ。お茶を4つ淹れてもらえるかな?」
〝チッ〟と心の中で舌打ち一つしたのは、ひた隠しにして
「畏まりました」
笑顔で振り返る。
玉露の指示があったから、余程大切な方なのかな?そんな風に思いながら、給湯室でお湯を沸かして茶器を温める。
何やら、秘書課がざわめいている。ヒョコッと顔を出せば、「つくし、つくし、大変大変」
「牧野先輩、す、す、凄いです」
女子一同が大興奮だ。
いやいや女子だけじゃない
「やっぱり気品が違いますね」
「うーん。流石ですね」
なんて話し込んでいるので、ミヨコに一体全体何の騒ぎかと聞こうとした瞬間
「牧野さん、お茶、お茶」
室長から催促がかかる。
ったく、ちょっとくらい教えてくれればいいのに‥なんて思いながらも、心を落ち着けてお茶を淹れる。
最後の一滴まで心をこめて。
給湯室に、玉露の芳醇の薫りが立ちこめる。
「うーん いい薫り」
自分へのご褒美に一つ余分に淹れる。
さて、誰に持っていって貰うかな? なんだか色めき立ってることだし、皆喜んで持っていってくれるだろう。
お客様だって、若くて綺麗な子がいいだろう。
あっ、野沢さんに持っていって貰おうっと算段を立て、
「野沢さん、ごめんお茶持っていってくれるかな?」
「あっ、はいと言いたいのですが‥すみません。専務が牧野さんに、絶対持って来てもらう様にって」
チッ キタめ‥
お茶淹れたらばっくれようと思っていたのに‥バレてた?
まぁ、お茶を出し終えたら、即効帰ればいいか。
お盆にお茶を4つ載せ‥応接室に向かう。
コンコンッ
部屋をノックすると、随分とご機嫌な声がする。〝おっ、珍しく社長も来てるんだ〟
「失礼致します」
一礼をして、部屋に入る。
ソファーに座っていた男が、ゆっくりと振り向く。


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