三角波 5 総つく
美しい悪魔がそう言いながら、妖艶に微笑む。
北村社長が
「つくしちゃん‥若宗匠とお知り合いなんだってね?」
ワクワク顔で聞いて来る。
専務が尻馬に乗って
「牧野、やるよなぁー、今度OB会行ったら自慢しなきゃな」
なんて言って来る。
あははっ‥あたしは、笑いを浮かべるが、絶対に顔が引き攣っている。
「彼女、昔から奥ゆかしい所がありましたから‥北村社長からお話を伺った時に、もしかしたらと思っていたので、大変嬉しいですよ」
切れ長な瞳で、ゆったりと言葉にのせる。
ぐわぁわぁんと鈍器で殴られた感覚が襲って来る。
ただいま‥北村社長の奥様が加わって、5人で会食中だ。
奥様は、西門さんの大ファンだったらしく‥えらい勢いで興奮して、嫌やわ、嫌やわを連発している、
「もう、つくしちゃん嫌やわぁ。そうならそうと教えてくれはったらいいものを」
「北村社長のご家族と、牧野さんは仲が宜しいんですね?」「牧野とは、学生時代からの友人なんですよ」
キタが話しているのを頭の片隅で聞いていた。
「お2人は、恋人同士では?」
キタとあたしは、2人揃って‥盛大に手と首を振る。
「俺等、兄弟みたいなもんなんで」
あたしは、大きく頷く。
本当は、キタと付き合った事がある。どうしてもキタに抱かれる事が出来なくて、最高に傷つけた。
傷つけたお詫びに、うちの会社で働けと半強制的に入社させられてたのが、彼此れ5年前。
キタの歴代彼女を熟知しているように、キタもまたあたしの不毛な男関係を知っている。
だけど‥西門さんとの一夜は、言えずじまいで今に至っている。
男遍歴‥初の内緒って奴だ。
昔のあたしと違って、随分とお酒に慣れた筈だったのに、色々ぐるぐると考え事をしながら日本酒を頂いたら‥お銚子2本空ける頃には、すっかりほろ酔い気分が出来上がり、
なんだか色々な事が面白可笑しくなっていた。
それと共に、西門さんのあまりにも長くしなやかな指先を見つめ、劣情していた。
気が付けば、社長と奥様は帰った後で、キタとあたしと西門さんの3人でホテルのバーで杯を交わしている。
キタが、あたしの背中をバンバン叩きながら
「ホント、こいつバカで不器用なんですよ。オレ、こいつにきちんと幸せを掴んで欲しいんすけどね」
そんな言葉をリフレインしているのを薄れゆく意識の中で聞いていた。
目覚めたら‥何がどうなっているのか?西門さんと2人真っ裸でベッドの中にいた。
あたしは、頭を抱え昨晩の出来事を反芻する。一緒に飲んだ事は憶えている。恥ずかしながら指先に劣情した自分の事も。
「っん?」
寝ぼけ眼の西門さんが、あたしを抱き寄せ胸に抱く。
ズクンッ‥身体の奥が蠢き、欲望が首を擡げる。
一度も二度も同じ。悪魔があたしに囁いた。
いいや、欲望にあたしは負けた。
西門さんの全身に舌を這わせる。目と目が合い共犯者の笑みを浮かべ、互いの躯を貪った。
誂えたような躯にうっとりしながら、焔を消していく。
欲望という焔を。
コーヒーの薫りがして目が覚める。〝アレ?ここどこ?〟そんな事を考えた次の瞬間‥目の前にコーヒーが差し出される。
「ありがとう」
「お前、関東に戻って来い」
唐突に切り出されて‥驚いて何故と聞き返せば‥
「牧野の、つくしの身体が気に入ったから」
しれっと返して来る。
「いや、もう2度寝たし‥3回目は無いでしょう」
「なんで?」
「ホラッ、3回ルールだし……ねっ」
クククッと笑い
「なぁ、つくしちゃん、物事にはな、例外がっていうもんが付きもんだ」
そんな言葉と共に、ふわりと香の匂いに包まれた。


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