月夜の人魚姫 14 総つく
気が付いた時には、溺れてた‥‥
軽口を叩きながら、西門さんの一挙手一投足に、胸がドキドキとときめいていたんだ。
一緒に居たいから‥自分の気持ちに気が付かないふりをした。
悲恋で終わった恋があたしの気持ちを支えてた。
恋をしてはイケナイと支えてた。
それなのに、人は繰り返す。傷つくとわかっている恋を。
違う‥‥繰り返したんじゃない。
あたしは、刹那が欲しくなったんだ。
一刹那その時だけでも構わないから、西門さんが欲しい。
そう思ってしまったんだ。
~~~~~
「莢先生の絵が届いたぞ」
「本当?」
「あぁ‥これから見に来るか?」
「うん」
2人並んで、西門さんのマンションまで歩いた。
「ねぇねぇ、西門さんはもう見たの?」
「いや、まだ見ちゃいねぇ。モデルよりも先に見ちゃ悪いかと思ってな」
「あははっ‥モデルなんてね‥恥ずかしいよね‥」
「それにしちゃぁ、ポーズ研究してたじゃねぇかよ」
「そ、そ、それは‥流石にさぁ」
西門さんに連れて行かれたパーティーで出会った女流画家の莢さんに、絵のモデルを頼まれたのだ。
モデルのポーズの練習‥確かにした。
はい。しました
でも、そんなのは全然必要なくて、
莢さんとお茶や食事を取りながら、話すのがモデルの仕事だった。
楽しい会話と、美味しい食事を堪能させてもらった上に、モデル料まで出すと言われて‥
流石に、モデル料は貰えないと辞退したら‥
「あらっ、無欲ねぇー。それじゃぁ西門君に原画を送っとくわ。資産活用としてでいいから受け取って頂戴な」
そんな風に言われたのだ。
莢先生は、途中経過を一切見せて下さらなかったので‥本日、初お披露目だ。
あたしは、ウキウキして西門さんのマンションに向かった。
梱包は解かれ、残すは絵を覆い隠す様に包まれた紙を取り去るだけだった。
西門さんが、薄紙を取り去る。
現れたのは‥青で描かれた、月夜の人魚だった。
月夜を見上げ哀し気に微笑む人魚‥‥
「‥綺麗だ」
西門さんの唇から言葉が溢れた瞬間‥あたしの瞳から何故かポツンッと涙がこぼれた。
西門さんの指先が涙を掬い、頬を一撫でした。
刹那‥
あたしは、この美しい牡を欲しいと願った。
蠱惑的な微笑を投げかけ、西門さんを誘惑した。
西門さんの指先が、あたしの喉元を緩やかに撫で上げる。
指先が、耳元に触れる。唇が耳朶を舐り、首筋を這ってから、口づけをされた。
唇と唇が重なり、舌と舌が絡め合わさる。蕩ける程に濃厚な口づけを受け入れる
指先が、釦に触れる。一つずつ釦が外される度に、奥底の牝が首を擡げる。
自分の中の、劣情に戦き恐怖する。
あたしの中に、蠱が蠢く。
自らが放つ毒虫に自分が絡めとられいくのを知っているのに、これ以上、進んだらもう戻れないのに‥‥
劣情が一人歩きを始め、目の前の牡を拒まずに受け入れた。
いや、受け身に振る舞いながらあたしは、目の前の牡を誘ったのだ。
あたしは、初めての花を散らした。紅い紅い花を。
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