月夜の人魚姫 16 総つく
時折、無性にこの部屋に来たくなる。
茶人、西門総二郎
女たらしの、西門総二郎
他人がイメージする 西門総二郎を捨て、ただの男になりにこの部屋に来る。
伽羅を焚き、愛しい女を感じて青い人魚を眺める。
牧野が去って八年も経つと言うのに‥俺の心には今も鮮明にアイツが、アイツだけが居座り続けている。
何故、あの時もっと早く牧野に思いをぶつけなかったのだろう?
落ち着いてから話せばわかってくれる‥浅はかな考えだった自分を自嘲する。
伽羅の香りが立ち込める‥
~~~~~~
司との熱情、つぶさに見て来た。
永遠の愛など信じぬ俺が、いつか2人を祝福する未来を楽しみにしていた。
あっけない幕切れ。陳腐な程にあっけない幕切れ。
やりきれない思いに傷ついてて立っているのも辛いだろうに、なんでもないふりをして牧野は笑ってた。
哀しみの中、笑う女から目が離せなくなった。いや、ずっと見ていたと思った。この感情がどこから湧き出るのか、どこに向かおうとしているのか‥俺にはわからなかった。
真っ赤な夕陽を見つめ泣く牧野を見た日‥ふわりと抱きしめていた。
俺の胸で泣きじゃくり寝入った牧野の顔をみながら
「ガキみてぃだな‥ったく、どこでも寝んじゃねぇよ」
独り呟いた。
夕陽が沈み、夜の帳が落ちる頃
パチリと目を覚まし‥すっきりした顔で「おはよう」と、頓珍漢な挨拶をする牧野を見た瞬間‥‥心の中のなにかが、ざわめいた。
それが何かなんて考える前に、牧野だと都合がいいと理由をつけて、牧野を連れ回していた。
牧野は、どこでも牧野で。そう言えば‥
「はぁっ?何言ちゃってるの?牧野つくしが、牧野つくし以外になりようがないでしょうが」
なんて、ケラケラ笑ってる。
2人で行ったパーティーで知り合った爽先生が、牧野をモデルに絵を描いた。
モデル料を辞退した牧野宛に、原画を送ると言う話になって‥何故か俺宛に送られて来た。
絵を見た瞬間‥‥
ざわめきの正体が、理解できた。
そこに描かれていたのは、強いのに儚く脆くて、脆くて儚いのに強い女だった。
月を見上げ哀しく笑う‥‥月夜の人魚姫
「綺麗だ」そう呟いていた。
牧野の瞳に涙が光る。無意識に指で掬っていた。
刹那‥
激しい劣情が俺を襲う。牧野の頬を指先でなぞる。
柔らかな頬に触れた瞬間‥もう引き返せなかった。
思いが溢れ出し、牧野を抱いた。
牧野は、真っ赤な花を散らした。初めての男になれた嬉しさがひしひしと沸いてでる。
それと共に‥未来など約束出来ないのにも関わらず、誰にも奪われたくないと思う気持ちが沸いてくる。
牧野を抱き潰す。
俺一色に染まれ、俺に溺れろと願いながら。
決して名で呼ばぬ女は、逝く時だけ俺の名を呼ぶ。
もっと俺の名を呼べ。そう願い‥子宮の奥底を貫く。
愛おしい女の嬌声が上がる。
~~~~~
部屋を出て、花鳥に向かう。
「久しぶりに、ゴボウ天せいろでも食うかな‥」
誰に共なく呟きながら。
「いらっしゃいませ~ 一名様でございますか?」
元気いっぱいな声に先導されて、席に着こうとした瞬間‥
見知らぬ男と居る倉科未悠が、目に飛び込んで来た。
「あれっ?もしかして倉科さんじゃないですか?」
俺は、迷わず声をかけた。
火、水、金、土、日 0時更新


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事