明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

un secret ~秘密~ 第3話 written by やこ

「先輩」

電話の主を彷彿させる賑やかな着信音。


「さ…桜子…どうしよう…」

「どうしようじゃありません。先ずは電話に出なきゃ何も始まらないでしょう?」

電話の主はきっと明日発売のこの雑誌を見て電話をかけてきたに違いない。

通話ボタンを押すか押さないか―

迷うつくしをギロリと睨む。


「切れちゃいますよ、私は席をはずしますから電話に出てください」

「う…うん…」

腹をくくってボタンを押す。


「もしもし…」

「牧野か?」

最後にこの声を聞いたのはいつだったか。久しぶりすぎて顔すらすぐに浮かんでこない。


「あ、うん。あの…久しぶり…」

「オマエ、なにしてんの?」

久々だというのに嬉しそうな声には聞こえない。


「何って…桜子とお茶して…」

言い終る前に言葉は遮られた。


「あの雑誌の記事はなんなんだ?」

「あの記事って…」

「明日発売されるオマエと類たちがかわるがわるイチャついてる写真だよっ!」

「っ!!!」

数年ぶりに電話してきたと思えば、近況を聞くどころかいきなりの怒鳴り声。

つくしもだんだん腹が立ってきて怒鳴り返す。


「ちょっ、っていうかアンタこそなんなの?何年も音信不通で、数年ぶりに電話よこしたと思ったらいきなりわけもわかんなく怒鳴りつけて!」

「なんだと!?オレがどんな思いでこの8年…」

「うるさいっ!もうアンタとアタシは関係ないんだから!!二度と電話かけてくんなバカっ!!」

電話を切るや否や電源を落としド派手な携帯を力任せに閉じる。


道明寺の声などもう聞きたくない。アイツとはもうとっくに終わってる。それに…。

しばらくすると誰かと電話をしていた桜子があきれ顔でこちらに戻ってくる。


「先輩…やってくれますね」

「うるさいなっ!アタシもう帰るよ!せっかくいい気分で散歩してたっていうのに、最悪だよっ」

「落ち着いてください。とにかくここじゃ他の方の迷惑になりますから、静かにお話できる場所に移動しませんか?先輩をひとりで帰らせるのは心配ですから」

もういい、ひとりで帰れる、と騒ぐつくしをなんとかなだめて店を出た。



***



桜子がつくしを連れてきたのはザ・メイプルホテル。

つくしの拒絶反応は言うまでもないが、スイートルームに通されるよりも落ち着くだろうと機転をきかせ、少し広めのツインルームにチェックイン。

「先輩、少し落ち着いてください」

桜子はルームサービスでハーブティを頼むと、部屋の中をウロウロと落ち着かないつくしをベッドに座らせカップを渡す。

「なんでこのホテルなの?」

興奮状態のつくしをなだめるように言う。


「いいですか。先輩」

「なによ」

ハーブティを口に運ぶつくしに向かい、ゆっくりと話し始めた。


「さっき私は先輩にこう言いましたよね?『皆さんとキチンと向き合い、誰の事が好きなのか、それとも4人共好きでないのか、きちんと判断する時期に来た』と」

「そうだっけ?」

シラを切るのか天然なのか。不機嫌そうに横を向く。


「ですから、決着をつけてください、今日この場で」

「は?」

どういうこと?と言うより前に、部屋のチャイムが鳴る。


「では先輩、私はこれで失礼しますね」

「ちょっ桜子、何言ってんのよ。なんでアタシだけここに残されなきゃ……」

桜子と入れ替わりに部屋に入ってきた人物を見てつくしは愕然とする。


「ど…道明寺!?」

ピサの斜塔のプロポーズからもうどれだけの月日が経っただろうか。

『4年後』の約束も果たさないまま今になって自分の前に現われたオトコ。


「突っ立ってないで座れよ」

とても数年もの間離れ離れに過ごしたとは思えないような言いぶりに、言葉を発することができない。

「あ…、アンタ…なんでこんなところに…」

さっきの電話はいったいどこから…という言葉は出ない。


「さっき日本に着いたとこだ。着陸してすぐにオマエに電話した」

「そ…そうなん…だ…」

本来ならあれだけの大恋愛をして数年ぶりの再会。胸に飛び込んで行くところなのだろうか?

司はゆっくりとつくしに近づき

「会いたかった」

そう言ってすっぽりと腕の中につくしを閉じ込める。


――アイタカッタ――


4年前、どれだけこの言葉が聞きたかったか。必死で寂しさに耐え自分自身を支えながら生きてきた。

でももう、この場所に戻ってくることなんてできない、決して。


「離してよ」

「イヤだね」

ギュウっとさらに強い力で抱きしめられ、逃れることができない。


ドンッ


「いてっ」

体中の力を総動員し、力いっぱい司を突き飛ばした。


「てめっ、なにすん…」

涙をボロボロとこぼす目の前のオンナを見て言葉を失う。


「オマエ、何…泣いてんだよ」

「うっ、ううっ」

再会の嬉しさからくる涙ではないことはあきらかだ。


「ちょ、ちょっと待て。いきなりで悪かったよ…」

「ひっく、ううっ」

今度は優しく、気持ちを落ち着かせるために抱きしめようとした。


「ダ、ダメっ」

つくしの口から出た拒絶の言葉。そして何かを決意した瞳。


「アタシは、もうあの時のアタシじゃない」

大きな目からボロボロと涙を流しながら、それでもはっきりと言い切った。


「どういうことだ?」

「アンタとアタシは…アンタが約束を守らなかったあの時で終わってるの」

涙は流れ続ける。


「それはっ」

「ううん、アンタが悪いわけじゃない。必死でやってたこと知ってるよ」

「それならっ…」

司の言葉を遮るようにしてつくしは言葉を続ける。


「アンタがいない間、アタシ本当に寂しかった。電話やメールもだんだん減ってきたし、それでもアンタが頑張ってるならって…耐えた」

「悪かったよ…連絡もしねぇで」

謝ることができるようになったんだ、大人になったねと少し笑う。


「急に責め立てて悪かったな。でもこの…この記事のことはどうしても納得いかねぇし、お前の口から真相が聞きたい」

「記事って…」

数時間前に桜子に見せられた類、総二郎、あきらとの記事が目の前にあった。


「秘書に調べさせたが、この記事は類たちが意図的に流した記事だっていうじゃねぇか。オレはアイツ等とはガキのころからのダチだぜ?どうしてアイツ等がこんなことをするのかがわからねぇんだよ」

「それはアタシが聞きたいくらいだよ…」

すると司はスーツの内ポケットから数枚の写真を取り出した。


「これはオマエがシロだという証拠写真だ」

週刊誌に載っている写真と別アングルで撮影されたそれは、つくしが桜子に説明した通り誤解だとすぐにわかるものだった。

「けどな」

「…」

つくしには司が次に何を言うかわかっていた。その言葉を覚悟するようにごくりと喉を上下させる。



「なぜ…総二郎だけウラがとれねぇんだ?」



***



―数か月前―

「司からは相変わらず連絡ないんだろ?」

たまには奢るから来いよ、と誘われたつくしは総二郎とともにフレンチレストラン『Gypsophila』にいた。


「ないよ。そもそもアイツと付き合ってたことすら夢だったんじゃないかって思うときがあるよ」

西門さんさすがいい店知ってるね、と笑うつくしからは明らかにカラ元気の様子が伝わってくる。


「なぁ牧野」

「ん?」

あきらの指導が行き届いてるのかフレンチのマナーもそれなりだ。


「オレと、付き合わねぇか?」

「そうだね、今度はどこに連れてってくれるの?アタシ実は西門さんにいろんなトコ連れてってもらうの結構楽しいんだよね」

コイツのコレは天然なのか?演技だとしたら女優顔負けだな。


「そうじゃねぇよ」

「どういうこと?」

顔中に『?』マークを浮かべて総二郎を見つめる。


「オレは誰かを本気で好きになったり愛したりすることは…たぶんねぇ…と思う」

「うん、アタシもそう思うよ」

緊張感のカケラもないつくしに苦笑する。


「だから、俺と付き合わねぇか?」

牛フィレを器用に切り分けていたつくしの手が止まる。

「西門さん、今、なんて?」

「オレのオンナにならねぇかって言ってんの」

ナイフとフォークをテーブルに置くと、俯いてはいるが口角が上がるのが見える。


「冗談もほどほどにしてよ」

「冗談でこんなこと言えるかよ」

今まで散々言ってきたでしょ、と呟くつくしを無視して話を進める。


「正直に言うぞ」

「別に言わなくてもいいよ」

コノヤロウちゃんと聞けよとおでこを小突くとその先を語り出す。


「オレはオマエのことが好きだ。けどそれが愛なのかって言えばオレには良くわからねぇ。ただ、司にこうしてほったらかしにされて沈んでるお前を見ると胸が苦しくなるし、その気持ちから解放してやりてぇとは、思う」

「だからって…」

「いいから聞け。まぁ、オレは知っての通りこんな男だ。今までのことをなかったことにするつもりはねぇ。」

「…」

「だから、オマエに司を忘れろと言うつもりはない」

俯いて話を聞いていたつくしは顔を上げた。


「ふたりでお互いの傷を舐め合って生きていかねぇか?」


それから最後の料理が運ばれ、店を出るまでつくしはひと言も言葉を発しない。

「ごめん西門さん、今日も御馳走様でした」

「ああ。家まで送ってく」

「えっ、いいよ。ひとりで帰れる」

明らかに避けている。少し考える時間が必要か?無理強いするのは流儀じゃない。


「わかった。気を付けて帰れよ」

「うん、ありがとう」

目を合わせることはないが、こちらに向けて手を上げる。

すると猛烈な勢いで走る大型車がつくしの真横を通り抜けた。

前日雨が降っていたせいで路肩には水たまりができていて、泥水がつくしの腰から下に盛大に飛び散った。


「きゃっ」

「オイッ」

少し離れたところからつくしを見ていた総二郎が駆け寄ると、見るも無残な姿のつくしがいる。


「ぷっ」

「ちょ…何よ、シツレイしちゃうっ!」

何やらブツブツと文句を言っているが、このまま帰すわけにはいかねぇな。


「オイ、ちょっと来い」

「えっ」

総二郎はつくしの肩を抱き寄せ、泥で汚れた下半身を隠すように歩き始めた。


「ナニすんのっ西門さんっ!」

「何って、オマエそのまま帰るつもり?」

「…」

顔を真っ赤にさせているのは、泥だらけの姿が恥ずかしいのか、肩を抱かれているのが照れくさいのか。


「どうせ安物の服だろうけど、オマエにとっちゃ大事なモンだろ?来い、クリーニングしようぜ」

「えっ、どこで?」

「どこって…ホテル?」

「!!!」


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