明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

un secret ~秘密~ 第5話 written by Gipskräuter

牧野を乗せて車は走り出した。

きっとさっきの電話であの人は勘違いしただろう。俺としちゃ好都合だけど、こいつはどう思ってる?
隣で俯いている牧野に視線を落とした。

表情すら見えず何を考えてるのかさっぱり分からない。こいつの事だから、突然の展開に尻込みしてるんだろう。


なぁ、牧野。

お前にはあんな風に言ったけど…。
ほんとはずっとお前を手に入れたかったんだ。

けど…。

俺がそんなことを言ったところでお前は信じないだろう?

俺たち結構長い付き合いだよな。
そろそろお前もはっきりさせる頃なんじゃないか?


俯いている牧野に心の中で問いかけていた時だった。


♪~♪♪~♪~


牧野の鞄からけたたましい音が鳴り響く。

俯いていた顔をあげれば困惑顔で俺を見つめてくる。

「出ろよ?」

「うん、ごめん。」

一旦車を停めさせると携帯を握りしめて外に出て行った。

牧野の様子が気になってミラー越しに様子を窺う。電話の相手は誰なんだろう。そんな些細なことが気になって仕方がない。

今までの俺なら余裕でスルーだろ?
一人苦笑して視線を戻した。

暫く待っていると牧野が戻って来たが様子がおかしい。車に乗ろうともしない。仕方なく窓を開けた。

「どうした?」

小さい声でボソボソと呟いてるけど、まるっきり聞こえない。

「牧野。はっきり言えよ?」

「えっと、その…。電話、優紀からで…。ね…。」

そうか。優紀ちゃんだったのか…。
柄にもなくホッとしていた。

「あの…。それで…。
実は今日、優紀と会う約束があって…私、それすっかり忘れてて。
優紀、待合せ場所で待っててくれてるの。だから…。」

「くくっ。いいって。行って来いよ?
前からの約束なんだろ?」

牧野の頭に手を伸ばし、クシャッと一撫でする。ただそれだけのことなのに、頬を染める牧野が可愛くて仕方ない。

「ほら、待ってるんだろ?早く行って来いよ。」

戸惑った様子の牧野に鞄を差し出した。

「西門さん、ありがとう。ごめんね?
あっ、あと、おば様にもお伝えしてくれる?
改めて伺いますって。
よろしくね、西門さん。」

そう言って鞄を受け取り、駆け出して行く牧野の後ろ姿を見送っていた。


車を走らせて屋敷に戻れば、お袋が駆け寄ってくる。どうやらうちの連中は牧野のことになると人が変わるらしい。

「あら?総二郎さん?
つくしちゃんとご一緒だったのでしょう?
つくしちゃんは?」

「牧野は先約があったようですよ。また改めて来るそうです。」

「そうなの?残念だわ。楽しみにお待ちしていたのに…。」

ガッカリと肩を落とすこの人が可笑しくて堪らない。ポーカーフェイスを貼りつけて自室に戻ろうとすると呼び止められた。

「総二郎さん。お話がありますの。よろしいかしら?」

「はい。分かりました。」

断る術もなく、ただ黙って家元夫人の後を着いて行った。


*****


西門さんに謝って、その場を駆け出した。ここまで来ればきっともう大丈夫…だよね?
門を曲がってようやくその足を止めた。


そう。

私は西門さんに嘘をついた。


心が痛まない訳じゃない。
笑顔で見送ってくれた西門さんを思うと、心がチクチクと痛みだす。

けど昨日のことを思えばもういっぱいいっぱいで、これ以上何かあったら心が破裂しちゃいそうだった。

電話の相手が優紀だったことも、約束をしていたことも本当。
けれど、優紀にはその場で謝ってまた次の機会にしてもらっていた。


ただ今は何も考えたくなかった。


*****


じっと私を見つめる道明寺から瞳をそらす事が出来ない。

「それは…。」

「それは?」

「…。」

「なんも答えらんねぇってことはそういうことかよ?!」

道明寺の冷たい視線が私を突き刺す。

「違っ。そんなんじゃ…。」

「もういい。直接総二郎と話す。」

「えっ、ちょっと待ってよ。ねぇ、道明寺っ!」

私の声を無視して道明寺は出て行った。

あぁ、どうしよう。
西門さんに迷惑がかかっちゃう…。


暫く動く事すら出来ずに茫然と立ち尽くしていた。

どのくらいそうしていたのか…。


ふと我にかえり携帯を取り出した。
コール音は鳴るものの、いくら鳴らしても出る気配はない。

嫌な予感がしながらも、私が出向けば余計に道明寺を刺激してしまう。

気になりながらもホテルの部屋を後にし家路についた。


アパートに着くなり荷物を放り投げ、ソファーへと向かい力なく身体を預けた。

今日あったことを振り返る。

この8年の間何の動きもなかったのに、急速に動き出した私たちの関係…。

そもそも、私たちの関係ってなんなんだろう?
っていうか、私たちって友だちじゃないの?


桜子は雑誌まで持ち出して、みんなが私のことを好きだと私を焚き付けた。

いやいやそれってただのこじつけでしょ?
だってあの写真から連想するようなことなんて、なんにもなかったんだから…。

それから何の前触れもなく道明寺が現れて…。

久しぶりに会ったっていうのに、またケンカしちゃったな…。話したいことはいくらでもあったはずなのに、どうしていつも言い合いになっちゃうんだろう?

何よりも…。

私はあの時どうして本当のことを道明寺に伝えることが出来なかったんだろう?

道明寺に対して疚しい気持ちがあったから?
私は西門さんの事が好きなの?

あの日…。
西門さん…私を好きだって言ったよね…?どこまで本気なのかは分からない。でも西門さんの瞳を見れば、ふざけて言ってるんじゃないことくらい分かる。

道明寺が疑うのも無理はないよね…。



考えれば考えるほどどつぼに嵌まっていく自分がいた。


何もする気になれず、ただぼんやりとしていた。

一体私はどうしたらいいんだろう?
考えても考えても答えは見つからない。


ピンポーン♪


えっ?

玄関のチャイムが鳴った。

時計の針は21時を指している。

こんな時間に一体誰なんだろう?
ぼんやりとしたままに玄関に向かった。




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