明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

un secret ~秘密~ 第7話 written by 星香

【注意書き】
ここの回は暴力的表現が出てきます。
苦手な方は、ご注意、ご判断のうえ、お読み下さい。


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「もしもし……」
てっきり電話の主は総二郎、若しくは司だと思っていたつくし。
だが耳に届いた声は、予想したものとは異なっていた。

「牧野!? 今何処!?」
「え…類……? 今何処…って…? 家だけど…?」
-普通に朝だし、それに今日はお休みだし…
暢気にそんなことを考えていると、電話の向こうで「直ぐ行く」と切羽詰まった類の声が聞こえ、切れる。

「…な…に…?」
よく判らないものの、類が来るというなら部屋着のスウェットはまずいだろうと、慌てて起き上がる。
着替え終わるか終わらないかくらいの処で、けたたましく家のチャイムが鳴った。

「牧野…? 居る!? 牧野!?」
「ちょ…っ。類、待って」
ドアを蹴破りそうな勢いで叩く類を制し、慌てて開けると、青い顔をした類の姿が飛び込んで来る。
つくしの姿を見て、ほっと安堵したのも束の間、呆然と立つつくしの腕を掴んだ。

「行くよ」
「行く…? って、類? 何処に!?」
「説明は後。時間が無いんだ」
「え…?」
普段、焦ることなどまず無い類の、慌てた様子。
只ならぬその様子に、頷こうとしたその時-

類の後ろに黒い影
-見知らぬ男が見える。

「類…! 後ろ…!!」
振り向く前に、類の身体が前に傾ぐ。

「類…!」
駆け寄ろうとする間も無くつくしの首筋にも電流が走り、そのまま気を失った。





「…………ッ…………」
目を覚ました類の目に飛び込んできたのは、天蓋付きベッドの天井。
ゆったりと起き上がり、部屋の中を確認する。

豪勢に飾り付けられた部屋。
それ相応に金は掛かっているのだろうが、派手なだけで統一感が無い。
ゴテゴテとした飾り付けに「趣味悪い…」と独り言ちると、未だぼうっとする頭で、身の上に起きた事を整理し始めた。

今日発売された雑誌。
つくし争奪戦のゴングが鳴ったそれは、全く別の警鐘も鳴らしてしまった。


北川原(きたかわはら)製鉄。
戦後に起こった朝鮮戦争軍事景気で、一気に頭角を現した一大企業。
一時期は道明寺をも凌ぐ勢いがあった。
が、初代天才、二代目凡人、三代目は…を典型で行く同族会社。
現在その勢いに陰りが見えており、製鉄以外にも医療分野など多岐に渡り手を出しているが、その勢いは以前の比ではない。
それを打破する手立てのひとつとして、現社長
-三代目の娘をF4の誰かと結婚させ、資本提携を結ぼうとしていた。
よくある、安直な手立てのひとつ。

そんな中現れた、F3…正確に言えば司も含めたF4が思いを寄せる女性。つくし。
憎悪と嫉妬がそこに向かう。
案の定、北川原が怪しげな動きをしているとの情報が入り、慌ててつくし保護に向かったのだが、一歩遅かったようだ。

押し込まれた部屋に、当然ながらつくしは居ない。
持っていたスマートフォンはおろか、時計やベルトなど、脱出や通信手段に使われそうなものは取り上げられている。
ここに居ないつくしの身の上を考えると、悠長にもしていられない。
行動に移すか…と思った時、ドアの鍵が開く音がした。


入ってきたのは化粧を塗りたくり、吐きそうになるほど香水を振りまいた女。
何処かのパーティで顔を合わせたのかもしれないが、類の記憶の欠片にもない。
独創性のない台詞で誘惑しようとするが、当の類は、無表情のまま。
しびれを切らし「言う事を聞かないとつくしがどうなるか判らない」と、最大の禁句を口にする。
一瞬見せた、類の凍るような視線に驚いたものの、「しばらくお考えなさいませ」と、やはり独創性のない言葉を残し去って行く。

再び部屋に1人になった類。
「…大人しくしてれば…良かったのに…。
俺は受けた仇をそのまま返すほど、優しい男じゃ無いよ」
ぽつりと洩れた呟きは、底冷えする程に冷たいものだった。





カーテンの引かれた窓際に行き、それを開く。
窓は開かないものの、外は見え、ここがかなり高い位置にあることが判る。

-普通、従者の男は地下牢。囚われの姫が塔の上だろうに…。

埒もない考えが浮かぶものの、ここが地下ではないことに安堵し、耳に付けられたピアスを両方外す。
殆どのものが奪われていたが、これがそのままだったことは幸い。
右側に付けられていたピアスの先を伸ばすと、窓際に置く。

-…試作品だし…誰に…何処まで使えるかが問題か……?
若干の不安を抱えつつ、左側に付けられたピアスを口元に持ってくる。

「こちらR。エマージェンシーなんだけど」



「副社長…!」
昨日、メイプルホテルにつくしを1人残し総二郎を探していた司だが、当の総二郎が何処に居るかが掴めない。
苛つくまま一端社内で仮眠を取っていた司の元に、慌てた様子で西田が飛び込んで来る。
眉間に皺を寄せたまま、「何事か?」と尋ねると、「それが…」と、やや口籠もりながら、緊急通信があった事を告げる。

「は…? …例の奴か?」
司の問いに西田が硬い表情で頷く。

司達は常に誰かに狙われている。
SPを付け、自身、ある程度の護身術を学んでいるものの、完璧では無い。
そういったときのための通信手段方法のひとつが、共同開発で行われていた。
類のピアス同様、司も試作品だがカフスに同じ仕掛けを持っている。
無論、総二郎やあきらも。
今回初めてそれが使われ、発信元が類だという。
慌てて部屋に回線を回すよう告げる。

「おい! 類! どうした!」
『……やっぱり司の処に届いたか……』
緊急通信は一斉に送り出されるが、一番先にキャッチしたのは道明寺だったようだ。

「お前…今何処にいるんだ!?」
『…バビルの塔…』
「あ゛!?」
『…ってのは冗談だけど…』
簡潔に、今までの事を説明する。

『ここの位置関係が掴めないけど、そっちで発信場所、特定出来るでしょ?』
「ああ…北川原の工場内部らしいな…」
類と話しつつ、西田が差し出した場所が記されたメモに目を通す。

『こっちは自力で何とかするから、迎えに来てくれる?』
「迎え…って、オイ! 待て! 直ぐに…」
『牧野も掴まっている。どうなるか判らない。…時間がないんだ』
それまでの類の、落ち着いた口調とは異なる色が見える。
「牧野」の単語に司も息を呑んだ。

『逃げだしやすいように、SAM(※1)でもATM(※2)でも、好きなのぶっ放してよ』
「……ああ……」
2人の間の会話は普段通り。
平穏を装っているものの、どちらにも押さえようのない怒りの炎が見える。

「…気を付けろよ。直ぐ行く」
『…そっちも』
それだけ告げると通信は切れた。




「さて…」
通信を終えた類が、再び部屋を見回す。
武器になりそうなものは、何一つ無い。
先程確認した感じでは、ドアの外に見張りは男が1人。
懐に拳銃を呑んでいるのが判る。その膨らみ具合から、種類はリボルバー。
となれば…古典的だが、方法はひとつしかない。

類は蹲るような姿勢でドアを叩く。
「…た…助けてくれっ…く…苦しい…」

類の声に見張りが覗き窓から中を伺うと、身もだえ苦しむ類の姿。
慌てて見張りがドアを開ける。

「おい…っ! どうし…」
掛けより類を起こそうとした処で、類の蹴りが男の向こう脛に決まる。
男が呻きつつ懐から拳銃を取り出し、類に向けた。

が、男が撃鉄を引く前に、類がガシッとシリンダーを掴む。
慌てた男が引き金を引こうとするのだが、どんなにやっても引き金が引けない。

「…無駄だよ。銃は撃てない」

慌てる男の銃を持つ手を掴み、真逆に捻る。
鈍く骨が砕ける音が聞こえ、男が呻く隙に後頭部を殴打し気絶させる。
ざっと見た処、男はこの部屋の鍵しか持っていないようだ。
手に持っていた拳銃を拾い、シリンダーを開ける。
弾丸は6発。
少し考え弾丸だけ抜き取ると、拳銃を捨てる。
隠密行動を取るのに、派手な音を立てる拳銃は無用の長物だ。
探るように外に出ると、目的の人物を探すべく動き出した。





「うう…っ」
つくしが目覚めると、そこは薄暗い部屋。
小さな裸電球がぽつりと一つ付いているだけ。
物語の中に出て来そうな、留置所や地下牢のような一室。
冷たいコンクリートの床に横たわっていたことから、体中のあちこちに変な痛みが残る。
痺れた手足をさすっていると、重たそうな扉が開く。
現れたのは、見覚えのない女性。後ろには従者のような男も控えている。
そこそこ綺麗な顔立ちはしており、着て居る服は恐らく高級品。
なのに何処か品が無い、と直感的に感じる。
椿や静、それに滋や桜子といった面々を見慣れているせいなのだろう。

「ふーん。こんな女なの…」
うち捨てられたゴミを見るような目でつくしを見下ろす。

「こんなのの何処がいいのかしら? 類様は…?」
「類…?」
つくしが類の名を口にした途端、女がつくしの頬を叩く。

「…ッ…」
「気安く類様の名を口にしないで」
そのまま突き飛ばすように、つくしを放り出す。

「あんたなんか…類様が頷いてくれれば…ここに置いておく必要もないんですもの。
フカの餌…ううん、アラブのハレムにでも売りつけてやろうかしら…?」

ふふっと笑う女の顔が醜く歪む。
つくしは気丈に振る舞おうとするのだが、手足が僅かに震えるのを止める事が出来ない。
その様子を満足気に眺める女に、側近らしき男が何かを耳打ちをする。
それを聞き、女は僅かに眉を顰める。

「…別に…どうでもいいけど…。…いいわ。好きになさい」
それだけ告げると、女はくるりと背を向ける。
女の許可を得た男が、欲望に満ちた目でつくしを見る。

ぞわり。
瞬時に感じる身の危険。命ではなく、全く別の…。
震える手足を押さえつつ立ち上がり、後ずさる。
広くない部屋の壁は、直ぐ後ろにあった。





様子を探りながら、慎重に下の階へ降りる。
中に居る人はそう多くはないようだ。
慌ただしい様子はないことから、司はまだ到着していないらしいが、時の経過からすれば間も無く。
そこそこの広さの建物内部を探っていると、暢気に話す男達の姿が見える。
隠れやり過ごそうとした類に、男達の会話が耳に入ってきた。

「あーあ、俺等貧乏くじかよ…」
「下手なこと言うなよ。お嬢様の『相手』は大変だろ?」
「それは嫌だけどよ…でも、さっきの女、中々悪くないじゃんか。
お嬢様はどこぞに売りつけるとか言ってるけど…」

-なに…?

気付いた時にはもう、類の身体が動いていた。
近い処に居た男の身体を引き込む。

「…仕方ねぇよな…って…あれ…何処行った…?」
もう1人の男がキョロキョロするが、誰の姿も見えない。
と、その時、ドォーンと響く音がし、建物がミシミシと揺れる。

「な…っ、何だぁ…!?」
男は慌てて外へ向かい走り出していた。


一方の類。
建物が揺れ、周りが騒がしくなったことから、司が来た事が判る。
ならば急がねばなるまい。
引き込んだ男を後ろから片手で羽交い締めにし、右手の拳を男の目の前に突きつける。
人差し指と中指の間には、先程奪い取った.357マグナム弾が挟まれており、狙いは男の右目を捉えている。

「ヒッ……」
「さっき言ってた、女の部屋は何処?」
「そ…それは…」
「言え。…目を潰されたくなければ…」

類が腕に力を込め、弾薬を更に眼球に近付ける。
羽交い締めにされた男から類の姿は見えないが、その声色から本気であることが伺える。
観念したように、男がつくしの部屋の場所を吐いた。





「チッ…ちょこまかしやがって…。
いい思いさせてくれるんなら、お嬢様に言って、売るのは止めてやるからよ…」

欲望の目でつくしを見る男が、舌なめずりをしながら、つくしとの間合いを詰めてくる。
冗談ではない。
フカの餌もハレムに売られるのも御免だが、こんな男に手込めにされるのも真っ平だ。
何とか逃げていたつくしだったが、一瞬の隙を突かれ、足を掴まれる。
しまった、と思うものの、気付いた時には完全に背中が床に付いている。
覆い被さる男。

-もう…駄目…!

ぎゅっと目を瞑った瞬間、男の身体がドサリと倒れる。
と、同時に聞こえる、聞き慣れた声。

「え……?」
「…牧野っ…!」




※1 SAM:Surface to Air Missile(地対空ミサイル)
※2 ATM:Anti Tank Missile(対戦車ミサイル)銀行にある機械ではありません…


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