un secret ~秘密~ 第11話 written by asuhana
車に揺られ、あたしは、ここ数日の出来事を反芻する。
ううん。ここ数年の自分と向き合う。
自分と向き合う‥ ずっとずっと避けてきた。
傷つけるのが怖いから‥
違う‥
自分が傷つくのが怖いから。
猾いな、あたし‥‥‥
無意識に、指を噛む。
強く強く指を噛む‥‥
みんなと仲良くいたい。それはダメなの?
答えを出さなきゃいけないことなの?
あたしの心は、決まっているんじゃないかと、桜子は言っていたけど‥
決まっているわけない。ううん。決められるワケがない。
あたしって、強かなのかもしれないな
あはっ
だって、この期に及んでも、まだみんなの牧野でいたいんだもん。
外の景色を見ながら、考える。
類‥
あたしの魂の一部‥
類がいなきゃ、あたしはあたしで居られなかった。
NY、道明寺が記憶を無くした時、哀しい時は、いつも側に類が居てくれた。
類が居てくれたから‥挫けないで立ち向かっていけたんだと思う。
男の類に、ドキドキして逃げ出してしまったけれど、
触れられるのが嫌じゃなかった。
もっと触れて欲しいとさえ願っていた。
ただ‥
触れられるのが嫌じゃない自分が、嫌だった。
コツンッ、窓に頭を凭れる
西門さん‥
高校生の頃のあたしは、一番に考えられなかった相手だよね。
しかも親友と関係のあった男だよ。
あり得ない‥
それなのに‥‥行儀見習いで、お茶に触れ西門さんと過ごすうちに‥
茶人 西門総一郎 を もっと見たい もっと触れたいと思ってしまった。
凛とする空間に漂う、西門さんは、心から尊敬出来る人で‥
この人の将来を見て見たい。そう思ってしまった。
ホテルで一夜をすごしたあの日‥
少しだけ、少しだけ、西門さんを欲しいと思った自分がいたの。
そんな自分に驚いて、これ以上深みに嵌ってはいけないと、逃げ出した。
美作さん‥
類が魂の一部なら‥‥
彼は、あたしを丸っと、そのまま受け止めてくれる男。
頑張らなくていい相手‥
突っ張らなくていい相手‥
寂しいときに、そっと寄り添ってくれる人。
大きなドキドキなんてないと思ってた。
自然体でいれる人だから‥
彼に、あたしがいると満月になれると言われた時‥
ドキッとしたの‥
この人の側なら、可愛い女でいられるかもしれないと。
肩肘張らずに生きていけるって
道明寺‥
ピザの斜塔で、婚約指輪を貰って、あんたとの未来を夢見てた。
「一年伸びちまうけど、お前が大学卒業したら結婚しような」
あんたは確かにそう言ったよね。
そのすぐ後だった‥時期が悪かった‥
そう言われれば、そうかもしれない。
でもね‥鳴らない電話を待つあたしの気持ちを、あんたは考えた事ある?
ねぇ、周りが彼との恋話してる時‥あたしがどんなに惨めな日々を過ごしてきたか解る?
最初はね、全然気にならなかった。ホントだよ。
だって、大学を卒業したら、迎えに来るって言ってたから。
道明寺、あんたといるよりも、うーんと、うーんと長い時間、あたしは、F3と関わってきたんだ。
それぞれのいい所を、沢山沢山見てきた。勿論悪い所も、弱い所も沢山沢山見てきたんだ。
ねぇ、道明寺‥あたしは、あんたの8年間を殆ど知らないんだよ?
ねぇ、道明寺‥あんたも、あたしの8年間を殆ど知らないんだよ?
それなのに‥なんで?なんで?なんで‥あんたは、あたしを真っ直ぐに愛するの? 真っ直ぐに、真っ直ぐに愛するの?
女の8年‥長いんだよ?
あたし、生身の女なんだよ‥‥
道明寺が迎えにこないと悟った時から、
あんたの記事が週刊誌を賑やかす度に、
あたしが、どんな思いをしてきたか解る?
それなのに、それなのに、あんたは、ほんのちょっとも疑いもせずに、あたしを愛してると言い切る。
猾いよ‥
でも‥‥
あたしの心は、あんたを猾いと思うよりも‥‥
「‥きの‥ま‥の、牧野‥」
「あっ、ゴメン‥」
「いや、‥指‥血が出てる」
強く噛み過ぎてしまった指から、血が滲む。
真っ赤な真っ赤な血が滲む。
「牧野‥」
美作さんに、指をそっと包まれ、肩を引き寄せられる。
優しい香りに包まれて、あたしは目を瞑る。
美作さんが、あたしの髪を撫でる‥‥
この人の側は、心が凪る‥無理せず、自然体で居られる。
どんな嵐が起ろうとも、彼の側にいれば大丈夫。そんな安心感がある。
風が強く吹いている‥
雲の動きが速くなる。
先ほどまでの穏やかな天気が、噓のように、暗雲が立ちこめていく。
「一雨来そうだな‥」
空を見上げ、美作さんが呟く。
雨雲と追いかけっこしながら、目的地に向って車は走る。
扉が開かれる‥ 久しぶりの道明寺邸。ここのお屋敷の中も変わらないようで居て、変わっている。
変化しないものなど、何も無いのかもしれない。
永遠なんて、無いのかもしれない
知っていた。
だから、永遠を求めた。
知っていた。
だから、気付かないふりをした。
永遠なんて無いのだから、今が幸せならそれでいいと‥
気付かぬように、蓋をしたんだ。
今回の件だって、元を正せば自分のせいなのだろう‥
誰のせいでもない、自分のせいだ‥
道明寺の事も、然りなのだろう‥
迎えにきてくれないと待っているんじゃなくて‥‥
自分で迎えに行けば良かったんだ。
高校生の時のあの日のように。
いまわかった…
分別は、人を大人にするけれど、人をつまらなくするんだと。
「ねぇ、美作さん‥道明寺は、本当に軽い怪我だけなんだよね?」
「あぁ、」
「じゃぁ一度、皆に顔を見せたら、道明寺と二人にしてもらっても良いかな?」
「あぁ」
部屋の扉を開ける‥
よく見知った顔が、あたしを待ち受ける。
一度目を閉じる‥誰かが口を開く前に、あたしは皆に向って
「ごめんなさい」 「ありがとう」
謝罪と感謝を述べよう。
もう決して、答えを間違えない為に‥
あたしは言葉を発しよう。
大きく息を吸う。
「気付かない振りをしていてご免なさい‥今まで沢山の力をくれてありがとう‥」
4人の瞳が、あたしに注がれる。
逃げ出したい‥
だけど、ここで逃げてはいけない。
「ごめん‥ちょっとだけ道明寺と二人にしてもらえるかな?」
類と西門さんに、あたしは聞く
美作さんに促されて、二人は、無言で部屋を出て行く。
バタンッ 扉が閉まる。
「よっ」
あたしは片手をあげる。
「随分と軽い挨拶だな‥こっちは生死を彷徨ったのに」
「あははっ、普通の人なら確かにそうだね‥ホント、あんた頑丈に出来てるね」
「ったく‥」
「道明寺‥」
「あっん?‥もういい‥充分にわかってる‥」
あたしは、首を振る。
きちんと、伝えなければ前には進めない。
「あたしと、別れて下さい‥」
「嫌だね‥‥‥」
「って、いってもお前のことだ。もう決めちまったんだろう?」
涙が後から後から溢れ出すけど、あたしは笑う。
「ったくなぁー、胡座かきすぎたな‥」
「うん‥」
道明寺があたしを抱き締める。
懐かしい香りがする。
舞戻りそうになる気持ちにブレーキをかける。
この感傷にひたって、選んではいけないと。
吐息まじりの優しいキスが、一つ降って来る。
「だよな‥お前も俺も高校生のガキじゃねぇもんな」
「うん‥」
真摯な眼差しが注がれる‥
今度は、あたしからキスをした。
さよならのキスをした。
見つめ合って、笑い合う。
「ごめんね。あんたを愛し抜けなくて‥」
「‥‥‥‥ありがとうね、愛してくれていて」
あたしは、皆を呼ぶ為に、部屋の扉を開けに行く。
「なぁ、牧野」
「っん?」
「でも、これで諦めるわけじゃないぜ。やっぱ、俺にはお前しかいねぇし、お前にも俺しかいねぇって思ってるからよ」
振り向かないで、隣の部屋の扉を開け、手招きをする。
3人が、ゾロゾロと部屋に入って来る。
あたしは、詫びる。真摯に詫びる。
三人の気持ちは受け入れられないと。
何故?の問いに、あたしは答える‥
3人を‥‥いいえ、4人を‥
愛しているからだと、あたしは答える。
「あんた、お得意の友達として愛してるとかっていう奴?」
あたしは、首を振る。ゆっくりと横に振り答える
「4人の事を、男として愛してる‥」
だったら‥4人の中から1人を選べよと言われる。
「それとも、 何? 一人を選んだら他の奴らが可哀想だとでも言うつもりなの?」
違う、あたしは叫ぶ。そんな理由じゃないと‥
「じゃぁ、選べよ」‥
「俺達なりに、話はついてんだ。お前が誰を選んだとしても恨みっこなしって‥だから‥」
だから選べと、迫られる‥
“ oh-no! ブルータスお前もか “
そんな言葉が、頭を駆け巡り、不謹慎ながらもクスリと笑ってしまった。
ヤバっ と思った瞬間‥ 4人から睨まれる‥
でもと、あたしは開き直る。
こんな状況、シリアスに考えていたら、余計に出口が見えなくなる。
袋小路にはまるのは、もうイヤだ。
右手で頭を掻きながら、今度はあたしのターンだ。
「あんた達の宣誓布告は、受けとった。だから、受けて立つ‥でも、今は選べない‥今選べって言うのなら,その人は、戦線離脱して! コレがあたしの宣言」
それぞれ特有な笑い方をしたと後に、
猾いよな、一言吐かれた後に、
ビシバシ、アタックかけるから覚悟しろと言われ、頷いた。
覚悟? 上等だ!
あんた達、あたしを誰だと思ってる?
あたしは、牧野つくし!
雑草女のつくしだよ。
踏まれようが傷つけられようが、あたしは立ち上がる。
もう、あたしは、迷わない。
もう、あたしは、恐れない。
あたしの幸せを見つける事を。
あたしの一番を見つける事を。
この話は、手打ちとばかりに、美作さんがカクテルを作る。
あたしには、XYZ を振る舞ってくれる。
ウィンクしながら
「XYZが意味するのは、永遠にあなたのもの ってことだから」
甘い言葉を囁いてくれる。
美作さんは、いつでも温かい空間を作ってくれる。
それぞれの良さを、友人としてではなく、受け入れていこうと考える。
もう、逃げはしない。
もう、逃がしはしない。
あたしは、幸せに貪欲になる決心をしたから。
* **
若き日の思い出を思い出す。
いつ思い出しても、スリルとサスペンス‥
そして甘酸っぱい気持ちにさせてくれる思い出を。
「つくしー」
あたしの愛する男が、あたしの名前を呼んでいる。
いつまでたっても、つくし、つくしと、甘えてくる。
あたしの愛おしい男。
あたしは、笑顔で振り向く
あの日から20年‥
公約通り、彼等はいまでもあたしと夫にとって、佳き友人でいてくれる。
今日は、皆が遊びに来る。
それぞれが、それぞれに似合った幸せを纏って‥
あたしは、幸せだ。
「っん?」
「‥‥‥愛してる」
優しいキスが降って来る。
沢山、沢山、降って来る。

11人11通りの最終話へ
ううん。ここ数年の自分と向き合う。
自分と向き合う‥ ずっとずっと避けてきた。
傷つけるのが怖いから‥
違う‥
自分が傷つくのが怖いから。
猾いな、あたし‥‥‥
無意識に、指を噛む。
強く強く指を噛む‥‥
みんなと仲良くいたい。それはダメなの?
答えを出さなきゃいけないことなの?
あたしの心は、決まっているんじゃないかと、桜子は言っていたけど‥
決まっているわけない。ううん。決められるワケがない。
あたしって、強かなのかもしれないな
あはっ
だって、この期に及んでも、まだみんなの牧野でいたいんだもん。
外の景色を見ながら、考える。
類‥
あたしの魂の一部‥
類がいなきゃ、あたしはあたしで居られなかった。
NY、道明寺が記憶を無くした時、哀しい時は、いつも側に類が居てくれた。
類が居てくれたから‥挫けないで立ち向かっていけたんだと思う。
男の類に、ドキドキして逃げ出してしまったけれど、
触れられるのが嫌じゃなかった。
もっと触れて欲しいとさえ願っていた。
ただ‥
触れられるのが嫌じゃない自分が、嫌だった。
コツンッ、窓に頭を凭れる
西門さん‥
高校生の頃のあたしは、一番に考えられなかった相手だよね。
しかも親友と関係のあった男だよ。
あり得ない‥
それなのに‥‥行儀見習いで、お茶に触れ西門さんと過ごすうちに‥
茶人 西門総一郎 を もっと見たい もっと触れたいと思ってしまった。
凛とする空間に漂う、西門さんは、心から尊敬出来る人で‥
この人の将来を見て見たい。そう思ってしまった。
ホテルで一夜をすごしたあの日‥
少しだけ、少しだけ、西門さんを欲しいと思った自分がいたの。
そんな自分に驚いて、これ以上深みに嵌ってはいけないと、逃げ出した。
美作さん‥
類が魂の一部なら‥‥
彼は、あたしを丸っと、そのまま受け止めてくれる男。
頑張らなくていい相手‥
突っ張らなくていい相手‥
寂しいときに、そっと寄り添ってくれる人。
大きなドキドキなんてないと思ってた。
自然体でいれる人だから‥
彼に、あたしがいると満月になれると言われた時‥
ドキッとしたの‥
この人の側なら、可愛い女でいられるかもしれないと。
肩肘張らずに生きていけるって
道明寺‥
ピザの斜塔で、婚約指輪を貰って、あんたとの未来を夢見てた。
「一年伸びちまうけど、お前が大学卒業したら結婚しような」
あんたは確かにそう言ったよね。
そのすぐ後だった‥時期が悪かった‥
そう言われれば、そうかもしれない。
でもね‥鳴らない電話を待つあたしの気持ちを、あんたは考えた事ある?
ねぇ、周りが彼との恋話してる時‥あたしがどんなに惨めな日々を過ごしてきたか解る?
最初はね、全然気にならなかった。ホントだよ。
だって、大学を卒業したら、迎えに来るって言ってたから。
道明寺、あんたといるよりも、うーんと、うーんと長い時間、あたしは、F3と関わってきたんだ。
それぞれのいい所を、沢山沢山見てきた。勿論悪い所も、弱い所も沢山沢山見てきたんだ。
ねぇ、道明寺‥あたしは、あんたの8年間を殆ど知らないんだよ?
ねぇ、道明寺‥あんたも、あたしの8年間を殆ど知らないんだよ?
それなのに‥なんで?なんで?なんで‥あんたは、あたしを真っ直ぐに愛するの? 真っ直ぐに、真っ直ぐに愛するの?
女の8年‥長いんだよ?
あたし、生身の女なんだよ‥‥
道明寺が迎えにこないと悟った時から、
あんたの記事が週刊誌を賑やかす度に、
あたしが、どんな思いをしてきたか解る?
それなのに、それなのに、あんたは、ほんのちょっとも疑いもせずに、あたしを愛してると言い切る。
猾いよ‥
でも‥‥
あたしの心は、あんたを猾いと思うよりも‥‥
「‥きの‥ま‥の、牧野‥」
「あっ、ゴメン‥」
「いや、‥指‥血が出てる」
強く噛み過ぎてしまった指から、血が滲む。
真っ赤な真っ赤な血が滲む。
「牧野‥」
美作さんに、指をそっと包まれ、肩を引き寄せられる。
優しい香りに包まれて、あたしは目を瞑る。
美作さんが、あたしの髪を撫でる‥‥
この人の側は、心が凪る‥無理せず、自然体で居られる。
どんな嵐が起ろうとも、彼の側にいれば大丈夫。そんな安心感がある。
風が強く吹いている‥
雲の動きが速くなる。
先ほどまでの穏やかな天気が、噓のように、暗雲が立ちこめていく。
「一雨来そうだな‥」
空を見上げ、美作さんが呟く。
雨雲と追いかけっこしながら、目的地に向って車は走る。
扉が開かれる‥ 久しぶりの道明寺邸。ここのお屋敷の中も変わらないようで居て、変わっている。
変化しないものなど、何も無いのかもしれない。
永遠なんて、無いのかもしれない
知っていた。
だから、永遠を求めた。
知っていた。
だから、気付かないふりをした。
永遠なんて無いのだから、今が幸せならそれでいいと‥
気付かぬように、蓋をしたんだ。
今回の件だって、元を正せば自分のせいなのだろう‥
誰のせいでもない、自分のせいだ‥
道明寺の事も、然りなのだろう‥
迎えにきてくれないと待っているんじゃなくて‥‥
自分で迎えに行けば良かったんだ。
高校生の時のあの日のように。
いまわかった…
分別は、人を大人にするけれど、人をつまらなくするんだと。
「ねぇ、美作さん‥道明寺は、本当に軽い怪我だけなんだよね?」
「あぁ、」
「じゃぁ一度、皆に顔を見せたら、道明寺と二人にしてもらっても良いかな?」
「あぁ」
部屋の扉を開ける‥
よく見知った顔が、あたしを待ち受ける。
一度目を閉じる‥誰かが口を開く前に、あたしは皆に向って
「ごめんなさい」 「ありがとう」
謝罪と感謝を述べよう。
もう決して、答えを間違えない為に‥
あたしは言葉を発しよう。
大きく息を吸う。
「気付かない振りをしていてご免なさい‥今まで沢山の力をくれてありがとう‥」
4人の瞳が、あたしに注がれる。
逃げ出したい‥
だけど、ここで逃げてはいけない。
「ごめん‥ちょっとだけ道明寺と二人にしてもらえるかな?」
類と西門さんに、あたしは聞く
美作さんに促されて、二人は、無言で部屋を出て行く。
バタンッ 扉が閉まる。
「よっ」
あたしは片手をあげる。
「随分と軽い挨拶だな‥こっちは生死を彷徨ったのに」
「あははっ、普通の人なら確かにそうだね‥ホント、あんた頑丈に出来てるね」
「ったく‥」
「道明寺‥」
「あっん?‥もういい‥充分にわかってる‥」
あたしは、首を振る。
きちんと、伝えなければ前には進めない。
「あたしと、別れて下さい‥」
「嫌だね‥‥‥」
「って、いってもお前のことだ。もう決めちまったんだろう?」
涙が後から後から溢れ出すけど、あたしは笑う。
「ったくなぁー、胡座かきすぎたな‥」
「うん‥」
道明寺があたしを抱き締める。
懐かしい香りがする。
舞戻りそうになる気持ちにブレーキをかける。
この感傷にひたって、選んではいけないと。
吐息まじりの優しいキスが、一つ降って来る。
「だよな‥お前も俺も高校生のガキじゃねぇもんな」
「うん‥」
真摯な眼差しが注がれる‥
今度は、あたしからキスをした。
さよならのキスをした。
見つめ合って、笑い合う。
「ごめんね。あんたを愛し抜けなくて‥」
「‥‥‥‥ありがとうね、愛してくれていて」
あたしは、皆を呼ぶ為に、部屋の扉を開けに行く。
「なぁ、牧野」
「っん?」
「でも、これで諦めるわけじゃないぜ。やっぱ、俺にはお前しかいねぇし、お前にも俺しかいねぇって思ってるからよ」
振り向かないで、隣の部屋の扉を開け、手招きをする。
3人が、ゾロゾロと部屋に入って来る。
あたしは、詫びる。真摯に詫びる。
三人の気持ちは受け入れられないと。
何故?の問いに、あたしは答える‥
3人を‥‥いいえ、4人を‥
愛しているからだと、あたしは答える。
「あんた、お得意の友達として愛してるとかっていう奴?」
あたしは、首を振る。ゆっくりと横に振り答える
「4人の事を、男として愛してる‥」
だったら‥4人の中から1人を選べよと言われる。
「それとも、 何? 一人を選んだら他の奴らが可哀想だとでも言うつもりなの?」
違う、あたしは叫ぶ。そんな理由じゃないと‥
「じゃぁ、選べよ」‥
「俺達なりに、話はついてんだ。お前が誰を選んだとしても恨みっこなしって‥だから‥」
だから選べと、迫られる‥
“ oh-no! ブルータスお前もか “
そんな言葉が、頭を駆け巡り、不謹慎ながらもクスリと笑ってしまった。
ヤバっ と思った瞬間‥ 4人から睨まれる‥
でもと、あたしは開き直る。
こんな状況、シリアスに考えていたら、余計に出口が見えなくなる。
袋小路にはまるのは、もうイヤだ。
右手で頭を掻きながら、今度はあたしのターンだ。
「あんた達の宣誓布告は、受けとった。だから、受けて立つ‥でも、今は選べない‥今選べって言うのなら,その人は、戦線離脱して! コレがあたしの宣言」
それぞれ特有な笑い方をしたと後に、
猾いよな、一言吐かれた後に、
ビシバシ、アタックかけるから覚悟しろと言われ、頷いた。
覚悟? 上等だ!
あんた達、あたしを誰だと思ってる?
あたしは、牧野つくし!
雑草女のつくしだよ。
踏まれようが傷つけられようが、あたしは立ち上がる。
もう、あたしは、迷わない。
もう、あたしは、恐れない。
あたしの幸せを見つける事を。
あたしの一番を見つける事を。
この話は、手打ちとばかりに、美作さんがカクテルを作る。
あたしには、XYZ を振る舞ってくれる。
ウィンクしながら
「XYZが意味するのは、永遠にあなたのもの ってことだから」
甘い言葉を囁いてくれる。
美作さんは、いつでも温かい空間を作ってくれる。
それぞれの良さを、友人としてではなく、受け入れていこうと考える。
もう、逃げはしない。
もう、逃がしはしない。
あたしは、幸せに貪欲になる決心をしたから。
* **
若き日の思い出を思い出す。
いつ思い出しても、スリルとサスペンス‥
そして甘酸っぱい気持ちにさせてくれる思い出を。
「つくしー」
あたしの愛する男が、あたしの名前を呼んでいる。
いつまでたっても、つくし、つくしと、甘えてくる。
あたしの愛おしい男。
あたしは、笑顔で振り向く
あの日から20年‥
公約通り、彼等はいまでもあたしと夫にとって、佳き友人でいてくれる。
今日は、皆が遊びに来る。
それぞれが、それぞれに似合った幸せを纏って‥
あたしは、幸せだ。
「っん?」
「‥‥‥愛してる」
優しいキスが降って来る。
沢山、沢山、降って来る。

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