明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

un secret ~秘密~ 最終話 オダワラアキver.前編

宣戦布告をし、胸のつっかえが取れたような、やっと喉の奥に刺さった骨が取れたような…とにかくスッキリとした気分だった。
本当は歩いて帰るつもりであったのだが、つい先日拉致監禁されたばかりで、1人歩かせて帰らせるわけにいくかと、4人ともに怒られ、仕方なく司の家の車を使わせてもらうことにした。

「牧野様の自宅でよろしいですか?」

運転手に聞かれ、つくしは暫く逡巡すると少し待ってもらえますかと、新しく4人から渡された携帯で電話をかけた。
前の携帯は北川原の邸に拉致された際に、奪われてしまったようだ。
誰の連絡先も入っていないかと思っていたのだが、F4とつくしの親友たちの番号も登録されている。

よく知っている友人の1人。
彼女には、やはりきちんと報告しなければならないだろう。

「あたし…うん、うん…今から時間ある?…うん、分かった。じゃあ、これから行くね」

つくしは電話を切ると、運転手に告げる。

「桜子の家に…三条邸に行ってもらえますか?」



「やっと…皆さんの気持ちが理解出来たってところですか?」
「桜子…なんで分かるの?」
「道明寺さんに恋してた時の先輩に戻ってますから…」

連絡が来なくなって、それでも司を好きでいること、多分…それで自分を守ることに必死だった。
約束の4年が過ぎて、好きでいることにも疲れ、かと言ってすぐに周りにいる友人を恋愛対象にとは考えられなかった。

恋愛自体、もういいと思っていた気もする。
もしするなら、次元の違うお金持ちではなくて、価値観も合って、普通に働いている真面目なサラリーマンがいいと答えただろう。

つまりは、怖かったのだ。
また、司の時のように傷付くのが。

しかし、賽は投げられたーーー。

「で?何があったんです?」

つくしは大きく息を吐き切ると、実は…と雑誌が発売されてからの怒涛のような出来事を語り出した。
さすがの桜子も北川原による拉致監禁については驚愕の表情を見せていたが、その後の類の行動については理解を示した。

「先輩の鈍いところも、彼らは可愛いと思ってるんだと思いますけど。でも、私は時にイラつきますね、正直」
「ハッキリ言うね、あんた…」
「だってそうでしょう!?どれだけ恵まれてると思ってるんですか!あれだけの方々が先輩のことを好きだと言ってるのに、いつまでも仲良しこよしお友達ですって顔しちゃって」

桜子は興奮状態で言い切ると、自分を落ち着かせるように飲み物を口に含んだ。

「嫌いになりました?花沢さんのこと」
「え?」
「だから、ベッドに押し倒されて色々されたんでしょう?怖かったり、嫌だったり…もう会いたくないと思いました?」

つくしはあの時のことを思い出すと、類を傷付けたのだという事実と共に、実際に起こったその場の空気まで頭に浮かんでしまい、どうしようもなく恥ずかしくなってくる。
覚えているのは、自分ではないような濡れた声と類の荒い息、それに触れ合った場所から伝わる熱い身体と、嗅ぎ慣れた類の香りだった。

「最初はちょっと怖かったけど…嫌とかじゃなくて…なんか、恥ずかしい…かな。さっきはみんないたからいいけど…類と2人きりじゃどんな顔して会えばいいのか、分かんないよ」
「じゃあ、どうするんですか?」
「だから、それをこれから考えるんだってば…道明寺の時と同じ気持ちかって言われたら、ちょっと違うし…西門さんや、美作さんのこともあるし…」

まだまだ先は長そうだと桜子は重苦しいため息を吐いた。
桜子の中では、愛だの恋だのは身体の関係や相性も付き物だと思っている。
もちろん、生理的に受け付けない男性とは無理だが、類とそうなりかけて嫌でなかったのならそのまま付き合ってしまえばいいのに、とも思う。
今まで出せなかった答えを、これからも同じように4人とお友達よろしくの状態で付き合い続けて、答えが出せる訳がない。
そういう意味では、今回つくしに踏み込んできたのは類だけなのだ。
きっと、つくしに拒絶されることを覚悟の上で答えを出せと言ったのだろうから。

「仕方のない人ですね、全く。また私が一肌脱ぐことになりそう…やっぱり…あの人に頼むのが一番いいかしら」

悩み続けて頭を抱えるつくしをよそに、桜子は綺麗な動作で紅茶を口に含むと、赤く塗られた口元を綻ばせた。



類は北川原の令嬢が潜伏しているというホテルの一室を訪れた。
相手が相手なだけに1人で行くような馬鹿な真似はしないが、会いたいとだけ用件を伝えると本人から嬉々として居場所を教えてくるのだから、救いようのない馬鹿だと、類は扉の前でフッと笑いを溢す。

軽くノックをすると、間も無く内側から扉が開けられた。

「る、類様…っ!来てくださったのですね!」

目の前で何を勘違いしてか、喜びに満ちた顔をする女を冷たい視線で一瞥し、類はSPと共に室内に足を踏み入れた。
女は別の男が共に部屋に入ることを、納得していないようであったが、類を怒らせるのは得策ではないと知ってか、何も言わずに部屋に通す。

扉が閉められると、類が口を開く。
それは女に対して話しかけているというよりも、独り言の愚痴のようだった。

「わざわざ、俺がここに来る必要はなかったんだけどね…あいつらが、その方がよりダメージが大きいって言うからさ…」
「私を選んでくださる…お話ではないのですか?」

厚く塗られた化粧を醜く歪ませて女が言った。
あれだけのことをしておきながら、どうして自分が選ばれると思うのか、その神経が分からない。

「まさか…そんなわけないでしょ。俺は伝えに来ただけ」
「伝えに…?一体何を…」
「あんたんとこの親がやってる会社…表向きはマトモなことやってるように見せかけて、裏ではとんでもない事業に手出してたみたいだね。今頃、警察の捜査が入ってる頃だと思うよ。あぁ、ついでにこの写真の男についても調べてもらうように言っておいた」

類はポケットから写真を一枚取り出すと、女の足元に向かって投げた。
見事に表を向いて落ちた写真を、女は拾うこともせずにただ目を見開いて、恐怖の表情を浮かべた。

「あんたの犬…だっけ?今頃どこにいるんだろうね」
「はぁっ、はぁっ…こっ、これは仕方なかった!!しょっ、しょうがないじゃないっ!勝手に死んだのよ!」
「あんたは俺の…俺たちの大事な女を傷付けようとしたんだ。その報いは受けてもらう」

北川原製鉄は社長が逮捕され、ドミノ式に役員や関わった社員も捕まるだろう。
そして家を継ぐはずであったこの女も、警察が証拠を見つければおしまいだ。
これからは、優雅なホテル暮らしとはいかない…つくしが閉じ込められていたような場所で、何十年も過ごすことになるのだ。

「じょ、冗談じゃないわっ!!」
「そう、冗談じゃない」

女が動く度に香水のキツイ香りが部屋に充満し、類は顔を顰める。
話は終わりだと女に背を向けるが、女は尚のこと類に対して詰め寄った。

「あんなっ!あんな女のどこがいいのよ!?あ、あんたたちみんな可笑しいんじゃないのっ…あんなブスっ……ヒッ!」

類はその瞬間、女の顔スレスレに円を描くように長い足で宙を蹴り上げる。

「その厚化粧…一回取って鑑見てみたら?あんたじゃ…あいつの足元にも及ばない」

今度こそ振り返ることなく、類はホテルの部屋を後にした。



一月後、桜子は再びつくしを邸に呼び出した。
つくしからの近況報告を聞きながらも、何度か時計を見て時刻の確認をする。
つくしの話を気もそぞろに聞いていたわけではない、桜子は自身の勘が正しいかの裏付けを取る為に、ここ一月ほどの彼らとつくしの話を事細かに聞いた。
それぞれとデートをし、自分の気持ちと向き合ってみたが、やはりよく分からず誰が一番好きかなんて、すぐには決められない、とつくしは言った。

やっぱりね…だと思った…である。

何かコトが運ぶ大きな転機がなければ、誰か1人を選ぶことは出来ないだろう。
というよりも、つくしは他を切り捨てることが出来ないのだ。
誰か1人を選べば、他の3人との関係が…その考えを捨てなければ何も進まない。
そもそも全員と恋人になることなど出来ないのだから、傷付く人がいて当たり前じゃないか。

桜子は懇々と説教をしたい自身の感情をグッと抑え、再び時計に視線を移した。

早過ぎてもダメ、遅過ぎるのはもっとダメ…タイミング間違えないでくださいよ。

RRRRRR…

桜子がテーブルに置いた携帯に視線を移すと同時に、ブーと震えながら桜子の携帯が着信を告げた。

「あら…珍しい。西門さんからです…はい、三条です…ええ」

桜子はつくしに断って電話に出ると、暫く押し黙り総二郎からの話を聞く。
そして、徐々に桜子の顔が曇っていった。



「分かりました…先輩に伝えます」

桜子は通話を終えると携帯を手に持ったまま、不安そうなつくしに顔を向ける。

「何…?どうかしたの…?」
「先輩、知ってました?花沢さん午後の飛行機でご両親のいるフランスに行くらしいですよ。先輩が見送りに来ると思ってたのに来ないから、どうしたんだって…西門さんから言われました」

類がフランス…?
休みに何日間か行くことはあったが、総二郎がわざわざ見送り…ということは、長く行く?帰って来るの?
まさか…もう帰って来ない?

司と遠距離恋愛を続けている間、誰よりも一番側にいてくれた。
寂しい想いを紛らわせることが出来るように、色々な場所に連れ出してくれた。
それは、総二郎やあきらも変わらなかったけれど、類は決してつくしを慰めるようなことは言わなかった。

テレビの話やケーキの話、映画の話…話すことはたくさんあったけれど、会話がないまま散歩をすることも嫌いじゃなかった。

他の皆が、司から連絡のないことで慰めるような態度を取り、信じて待っていれば大丈夫だと言う中で、類といる時だけは司のことを忘れられる一時だったのだ。
忘れてもいいのだと言われているような気がした。

もしもこのまま類に会えなくなるとしたら…。

鞄を掴み慌てて椅子から立ち上がろうとするつくしの腕を、パッと桜子が掴んだ。

「車出しますから。成田空港まで1時間…間に合うかギリギリですね」
「桜子…どうしよう、類がいなくなっちゃったら…どうしよう…」
「ふふっ、そんなに慌てるくらい花沢さんのことが好きだって…気付いたじゃないですか。間に合わなかったら、追い掛ければいいだけですよ。私はいつでも先輩の味方ですから」

桜子の家の車に2人で乗り込むと、車は追い越し車線を走り、道が空いていたこともあり1時間かからずに空港に着いた。

途中桜子が総二郎に搭乗口の場所を確認すべく連絡を入れた。
空港に着くや否や、つくしは走り出す。

伝えたいことがあるのーーー。

ずっと、待たせてごめん。
いなくなるって知って、初めて自分の気持ちに気付くような鈍感でごめん。

あたしもあなたのことが好きだってーーー。

「類………っ!」




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