un secret ~秘密~ 最終話 Gipskräuter ver.
私の宣戦布告の後…。
今まで以上にみんなが私を構いだすようになった。
いつも紳士的な態度を崩さない美作さん。
食事に連れ出してくれて、穏やかな時間を過ごす。
怪我が完治していないのをいいことに、私をお屋敷に呼び出す道明寺。
何をするでもなくただくだらない話をし、時には昔のような言い合いを繰り返す。けれどそんな時間が懐かしくて嬉しく思う。
類もいつもと変わらずで、あの日のことは抜け落ちてしまってるのかと思うほどだった。あの日から類との距離が変わった気がするのはきっと勘違いじゃないと思う。
問題なのは西門さん。それまで定期的に入っていた連絡はプッツリと途絶えてしまった。これは一体どういうことなんだろう?
連絡が来ないなら私からすればいい。けれど彼が掴まることはなかった。
1ヶ月が経ち、2ヶ月が過ぎ…。
「…きの。牧野?」
「えっ?あっ、ごめん。ぼーっとしてた…。えっと…なんだっけ?」
「お前最近よくぼーっとしてるよな?何かあったのか?」
美作さんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「えっと、なんにもないよ…?」
「お前何かあったのバレバレだな?ほんと嘘つくの下手だよな、牧野は。」
そうだよね…。私の嘘なんてこの人たちにかかればすぐに見抜かれちゃうよね…。
「お兄さんがなんでも聞いてやるぞ?言ってみろよ?」
どうせすぐバレちゃうんだから言っといた方がいいのかな…?
「うん…。あのね…。」
こうして美作さんに西門さんと連絡が取れていないことを話すことになった。
「お前総二郎からなんにも聞いてないのか?」
「えっ?どういうこと?」
西門さんに何かあったってこと?
私は急に不安になった。
するとしばらくの間をおいて、私をじっと見つめて美作さんが口を開く。
「これはさ、公にしてないんだけどな…。」
美作さんの話を聞いて愕然とした。
私、そんな話聞いてない!
なんで?
どうして西門さん、そんな大事な話黙ってたの?
どうしてなんにも言ってくれないの?
「牧野…。お前…。」
気付けば美作さんの両手が私の頬を包み、溢れる涙を拭ってくれていた。
私を見る美作さんの目はどこまでも切ない色をしている。
「お前…。総二郎が好きなんだな…。」
何の言葉も返せず、ただその瞳を見つめていた。
「今からでも行って来いよ。あいつもきっとお前が来るの待ってるんじゃないか?
今の総二郎を支えてやれるのは…多分…。お前だけだ。」
私は…。
ずっと西門さんからの連絡を待っていた。
自分からも何度かしていた。
自分から連絡をとろうとしたのは西門さんだけだった…。
「行って来る!!」
レストランの個室を飛び出し、タクシーを捕まえて西門さんのお屋敷へと向かった。
「ほんとに世話が焼けるよな、牧野は…。結局最後の最後まで俺はお兄ちゃん…か…。」
俺は大きなため息をつきながらも、惚れた女の幸せを願っていた。
*****
牧野と類が拉致されたあの日…。
呼び出しを受けたものの、俺は動くことが出来ずにいた。
親父が倒れた。
牧野の無事を祈りつつも、後処理に追われていた。
何の兆候もなかったせいか、俺の周りは一気に騒がしくなっていった。
牧野と会う日だけはどうにか時間を作ったものの、意識を取り戻すことなく眠り続ける親父の代理やらなんやで西門に足止めを食う日が続いている。
牧野はどうしてる?
あいつらと会ってんのか?
もう誰かに決めちまったのか?
そんな想いを抱きながら、家元襲名の段取りをしていた。
疲れきって自室に戻り、扉を開けようとして手を止める。
隙間から漏れる灯り…。
電気は消して部屋を出たはず…?
扉に手をかけゆっくりと開き中を覗くと、そこには牧野の姿があった。
随分と長い時間ここで待っていたのか、ソファーに凭れて眠っている。
久々に見る牧野を前に力が抜けていく。
歩みより隣に腰掛け牧野を抱き寄せた。
「牧野…。」
今までピンと張詰めていた心が次第に解き放たれていく。
そしていつしかに眠りに落ちていた。
腕の中でモゾモゾ動く感覚に目を覚ました。
「牧野?」
「あっ、ごめん。起こさないようにって思ったのに…。勝手に部屋に入ってごめん…。」
「お前…目が真っ赤だぞ?」
「えっ?えっと…これは…。」
「あきらから聞いたのか?」
コクンと頷きその瞳が俺を捉える。
「ねぇ、どうして…?どうして何も言ってくれなかったの?
聞いても役に立てることなんて何もないかもしれないけど…。それでも教えてほしかった…。西門さんが辛い想いをしてるなら、私だって支えになりたいよ…。」
ポロポロと涙を溢しながら、それでも俺の目をじっと見つめている牧野の瞳。
「ごめんな。あんまり急なことでさ…俺も全然余裕がなくて…。」
そこで言葉を切って牧野をきつく抱きしめた。
「牧野…。来てくれてありがとな。
昨日…。部屋に戻って来てお前の顔見たら、すっげぇホッとしたんだ。で、思った。やっぱり俺にはお前が必要なんだって。」
腕を解いて牧野を見つめた。
「牧野。お前が好きだ。絶対に泣かせるようなことはしない。だからこれから先、ずっと俺の傍にいてほしい。」
俺の言葉を受けて牧野は黙ったまま俯いた。
暫くすると俯いたまま、ポツリポツリと話し出す。
「あの日から…。ずっと連絡がとれなくて…不安だったの。あんな宣言したから、ほんとは呆れられちゃったのかなって…。
でも美作さんにおじ様の話聞いたら…。いてもたってもいられなくて…。」
俯いていた顔をあげ大きな瞳が俺を見つめている。
「私ね。西門さんが好き…なんだと思う。
今までも何度か連絡が途切れた時があったでしょ?それはみんなも同じなんだけど、そんな時自分から連絡をとろうとしたのは西門さんだけだった。
今回のことでよく分かった。
私、西門さんを支えたい。傍にいたい。好きだから…。」
頬をうっすらと染めて恥ずかしそうに笑う牧野の耳元に唇を寄せた。
「今日からよろしくな。つくし。」
そのままつくしをギュッと抱きしめると、つくしの小さな手が背中に回る。
ただそれだけのことが実はすごく幸せなことなんだと初めて気づいた瞬間だった。
程なくして、親父は意識を取り戻した。
きっと俺にとってつくしは幸運の女神なんだろう。
柄にもなくそんな事を思っていた。
fin

今まで以上にみんなが私を構いだすようになった。
いつも紳士的な態度を崩さない美作さん。
食事に連れ出してくれて、穏やかな時間を過ごす。
怪我が完治していないのをいいことに、私をお屋敷に呼び出す道明寺。
何をするでもなくただくだらない話をし、時には昔のような言い合いを繰り返す。けれどそんな時間が懐かしくて嬉しく思う。
類もいつもと変わらずで、あの日のことは抜け落ちてしまってるのかと思うほどだった。あの日から類との距離が変わった気がするのはきっと勘違いじゃないと思う。
問題なのは西門さん。それまで定期的に入っていた連絡はプッツリと途絶えてしまった。これは一体どういうことなんだろう?
連絡が来ないなら私からすればいい。けれど彼が掴まることはなかった。
1ヶ月が経ち、2ヶ月が過ぎ…。
「…きの。牧野?」
「えっ?あっ、ごめん。ぼーっとしてた…。えっと…なんだっけ?」
「お前最近よくぼーっとしてるよな?何かあったのか?」
美作さんが心配そうに私の顔を覗き込む。
「えっと、なんにもないよ…?」
「お前何かあったのバレバレだな?ほんと嘘つくの下手だよな、牧野は。」
そうだよね…。私の嘘なんてこの人たちにかかればすぐに見抜かれちゃうよね…。
「お兄さんがなんでも聞いてやるぞ?言ってみろよ?」
どうせすぐバレちゃうんだから言っといた方がいいのかな…?
「うん…。あのね…。」
こうして美作さんに西門さんと連絡が取れていないことを話すことになった。
「お前総二郎からなんにも聞いてないのか?」
「えっ?どういうこと?」
西門さんに何かあったってこと?
私は急に不安になった。
するとしばらくの間をおいて、私をじっと見つめて美作さんが口を開く。
「これはさ、公にしてないんだけどな…。」
美作さんの話を聞いて愕然とした。
私、そんな話聞いてない!
なんで?
どうして西門さん、そんな大事な話黙ってたの?
どうしてなんにも言ってくれないの?
「牧野…。お前…。」
気付けば美作さんの両手が私の頬を包み、溢れる涙を拭ってくれていた。
私を見る美作さんの目はどこまでも切ない色をしている。
「お前…。総二郎が好きなんだな…。」
何の言葉も返せず、ただその瞳を見つめていた。
「今からでも行って来いよ。あいつもきっとお前が来るの待ってるんじゃないか?
今の総二郎を支えてやれるのは…多分…。お前だけだ。」
私は…。
ずっと西門さんからの連絡を待っていた。
自分からも何度かしていた。
自分から連絡をとろうとしたのは西門さんだけだった…。
「行って来る!!」
レストランの個室を飛び出し、タクシーを捕まえて西門さんのお屋敷へと向かった。
「ほんとに世話が焼けるよな、牧野は…。結局最後の最後まで俺はお兄ちゃん…か…。」
俺は大きなため息をつきながらも、惚れた女の幸せを願っていた。
*****
牧野と類が拉致されたあの日…。
呼び出しを受けたものの、俺は動くことが出来ずにいた。
親父が倒れた。
牧野の無事を祈りつつも、後処理に追われていた。
何の兆候もなかったせいか、俺の周りは一気に騒がしくなっていった。
牧野と会う日だけはどうにか時間を作ったものの、意識を取り戻すことなく眠り続ける親父の代理やらなんやで西門に足止めを食う日が続いている。
牧野はどうしてる?
あいつらと会ってんのか?
もう誰かに決めちまったのか?
そんな想いを抱きながら、家元襲名の段取りをしていた。
疲れきって自室に戻り、扉を開けようとして手を止める。
隙間から漏れる灯り…。
電気は消して部屋を出たはず…?
扉に手をかけゆっくりと開き中を覗くと、そこには牧野の姿があった。
随分と長い時間ここで待っていたのか、ソファーに凭れて眠っている。
久々に見る牧野を前に力が抜けていく。
歩みより隣に腰掛け牧野を抱き寄せた。
「牧野…。」
今までピンと張詰めていた心が次第に解き放たれていく。
そしていつしかに眠りに落ちていた。
腕の中でモゾモゾ動く感覚に目を覚ました。
「牧野?」
「あっ、ごめん。起こさないようにって思ったのに…。勝手に部屋に入ってごめん…。」
「お前…目が真っ赤だぞ?」
「えっ?えっと…これは…。」
「あきらから聞いたのか?」
コクンと頷きその瞳が俺を捉える。
「ねぇ、どうして…?どうして何も言ってくれなかったの?
聞いても役に立てることなんて何もないかもしれないけど…。それでも教えてほしかった…。西門さんが辛い想いをしてるなら、私だって支えになりたいよ…。」
ポロポロと涙を溢しながら、それでも俺の目をじっと見つめている牧野の瞳。
「ごめんな。あんまり急なことでさ…俺も全然余裕がなくて…。」
そこで言葉を切って牧野をきつく抱きしめた。
「牧野…。来てくれてありがとな。
昨日…。部屋に戻って来てお前の顔見たら、すっげぇホッとしたんだ。で、思った。やっぱり俺にはお前が必要なんだって。」
腕を解いて牧野を見つめた。
「牧野。お前が好きだ。絶対に泣かせるようなことはしない。だからこれから先、ずっと俺の傍にいてほしい。」
俺の言葉を受けて牧野は黙ったまま俯いた。
暫くすると俯いたまま、ポツリポツリと話し出す。
「あの日から…。ずっと連絡がとれなくて…不安だったの。あんな宣言したから、ほんとは呆れられちゃったのかなって…。
でも美作さんにおじ様の話聞いたら…。いてもたってもいられなくて…。」
俯いていた顔をあげ大きな瞳が俺を見つめている。
「私ね。西門さんが好き…なんだと思う。
今までも何度か連絡が途切れた時があったでしょ?それはみんなも同じなんだけど、そんな時自分から連絡をとろうとしたのは西門さんだけだった。
今回のことでよく分かった。
私、西門さんを支えたい。傍にいたい。好きだから…。」
頬をうっすらと染めて恥ずかしそうに笑う牧野の耳元に唇を寄せた。
「今日からよろしくな。つくし。」
そのままつくしをギュッと抱きしめると、つくしの小さな手が背中に回る。
ただそれだけのことが実はすごく幸せなことなんだと初めて気づいた瞬間だった。
程なくして、親父は意識を取り戻した。
きっと俺にとってつくしは幸運の女神なんだろう。
柄にもなくそんな事を思っていた。
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