明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

un secret ~秘密~ 最終話 やこ ver. 前編

あきらside

なんだっていうんだあのふたりは。
もう勘弁してくれよ…。

あれから普段と変わらない態度で美作商事で仕事を続け、俺達とも元のように付き合いを続けてきた牧野は…

アイツを選び結ばれた。

俺を含めて3名は振られたことになる。
俺達天下のF4だよな?
揃いも揃ってパンピーの雑草オンナに惚れてこの有様。

「おい牧野。仕事終わったか?」
「あ、美作さん。うん、今ちょうど終わって帰ろっかなって思ってたトコ」

A4のコピー用紙をトントンと揃え、ダブルクリップで左端を留め茶封筒に入れている。
オフィスの窓から見える風景は、いつの間にか昼間の殺伐とした景色から煌びやかな夜景へと変化していた。

「うわっ、もう外真っ暗じゃん!何時なの?」

左腕にはめられた時計を見ながら慌てて帰り支度を始める牧野。
派手さはないがひと目見て高級だとわかる時計の価値を、コイツはわかっているのか?

「久々に飯でもいかないか?」

実は俺、未だに牧野に未練があったりする。
失恋はしたが下心があるワケじゃない。食事くらいはいいよな?

「あ、ごめんね美作さん…今日はちょっと…約束が…」

歯切れが悪いのはアイツとの約束だからだろう。

牧野、未練はあるがお前が振り向いてくれるとは思ってない。
気を使うことはない。

「あっ、そうだ!美作さんも一緒に行かない?」

俺もかよ!?

いくら諦めたとは言っても目の前でイチャつかれたらさすがの俺もキレるかもしれない。

断ろうと口を開きかけるが、必殺上目遣いでお願いされると俺も弱い。

「お…おぅ。長い時間は…いられないかもしれないけどな」

まさか目の前でポルノが繰り広げられることはないだろうな?
勘弁してくれよ、俺だってまだ完全に傷が癒えたわけじゃないんだ。
ひとりであのふたりのイチャつきっぷりを見せつけられて、平気でいる自信はない。

「ほんとっ?嬉しい!久しぶりに美作さんとご飯だねっ」

この無邪気そうな顔。
仕方ないな、今夜だけは付き合ってやるかって気分になる。

実は少しだけ、牧野が俺を選ぶという自信があった。
消去法だけどな。

総二郎はきちんと告ったみたいだが、恋人や結婚相手というよりは兄貴のような存在のほうがしっくりくる。

元カレの司なんてガッツリ別れを告げられてたしな。
これはさすがの俺もビビった。
あの(ねちっこい)道明寺司が10年近く愛し抜いた女をきっぱりと諦めるなんて信じられるか?
あり得ないだろ?

類なんて花沢のお家騒動に巻き込んだ上に、強姦未遂(言いすぎか?)のキスマークだぜ?
見つけた時の牧野はマジで憔悴しきっていたし、さすがにそこに落ち着くことはないだろうと。
類には悪いが、正直心の中でガッツポーズをしたぜ。

俺の家はほかの3人とは違って親父もお袋も双子も牧野に好意的だ。
嫁姑は上手くやれるほうがいいだろ?

惚れた男に会いに行けるという嬉しさから満面の笑みの牧野を見ていて思う。

俺はガッツポーズの罰(しかも耐えがたい拷問)を受けているのか??

待ち合わせの店と思われる場所が見えてきた。スラックスのポケットからスマートフォンを取り出すと、牧野に告げた。

「ちょっと1本電話済ませてから行くから先に行ってろよ」
「ウンっ!早く来てね、美作さん」

満面の笑みで俺に手を振る牧野。
頼む、その顔はやめてくれ。
頭を軽く振ってから通話ボタンをタップし、そのまま耳にあてた。


**


総二郎side

「ねぇ~、今度はいつ会ってくれるのぉ?」

たぶんもうねぇな、と心の中でつぶやきながら軽く伸びをする。
バイブにしていたスマートフォンがヴーッヴーッと音を立てて震えていることに気づき、床に投げ捨ててあるバスローブを羽織って通話ボタンをタップする。

「おう、なんだよあきら」
『総二郎、今どこにいる?』

ベッドの中の女(確かひま子)がこちらを眺め、もう一度抱いてほしそうに甘えた目つきで俺を見てる。

「ホテル」
『おいおい、相変わらずだな』

そういうお前だって最近明日香さんとかいう人妻と付き合いだしただろ、というツッコミはとりあえず入れないでおくか。

『出られそうか?』

あきらに聞かれ横目でひま子?を見ると、まだぁ?と甘えた声を出して俺を呼んでいる。

「ああ、大丈夫だ」

女の横を通り過ぎベッドルームを出る。

俺も一応牧野のことは今でも大切に思ってる。
寝るだけの遊び相手とは明らかに違う感情があるし、初恋の更ともどこか違う。
牧野が俺達4人のことを選ばなかった時、正直言ってしばらく落ち込んだ。

俺らしくもない。

女遊びを再開してみても、どこか心に穴が開いたよう。

「で、どこに行けばいいワケ?」
『青山の【miumiu】』

店の名前を聞いて俺は思う。あいつも牧野の趣味に合った店を選ぶようになったもんだ、と。

どんな店かって?
そりゃ決まってんだろ、天然入った女主人が切り盛りしてる少女チックな店だ。

実は思い出したくない屈辱の出来事があって足が遠のいていた。

そんなことはどうでもいい。

「ん、OK。たぶん30分くらいで合流できる」
『おう、早く来てくれ』

あきらもひとりであいつらがイチャつくところを見る勇気はまだない…か。

「で、奴には声かけたのか?」
『まだだ、総二郎。お前に頼んでもいいか?』

ラジャ、と返事をし電話を切る。

仕方ない、電話する…か。


**


類side

♪♪♪

誰、安眠妨害するの。
せっかくのオフで、とんでもない騒動を起こした(すごく気持ち悪い)結婚話から解放されてのんびりしてるっていうのに。

どこだよ、ケータイ。

「誰?」

ベッドの下に落ちていた携帯電話を拾い、相手が誰かも確認せずに出る。

『おい、3年寝太郎。お昼寝時間にはチョイと遅くねぇか?』
「総二郎?」

外を歩いているのか?電話越しにザワザワした音が聞こえてきてすごく耳障り。

「だって俺、今日オフなんだもん。やっとあの騒動から解放されたんだし寝足りないくらい」
『今から青山に行けるか?』

ボーっとしながらも時計を見る。準備を入れても30分くらいかな。

「青山でなんかあるの?」
『召集だ、召集』

まったく軍隊じゃあるまいし、召集ってなんだよ。
また司がおかしなことでも言いだして俺達を振り回すの?とため息をつく。

「めんどくさい、もう切るよ」

めくった布団に再び潜りこむと慌てたような総二郎の声が聞こえてきた。

『類っ、ちょっと待て!あきらの話だと牧野からのお誘いらしいぜ』

【牧野】と聞いて一瞬固まる。

牧野…牧野……

誰だっけ…?

ああ、牧野ね。
大切な女の名前も忘れてしまうほど俺は寝ボケてるのか?

そう、牧野は一度俺達4人と決別宣言をしたが、結局司の元に戻った。

それでいいかって?
いいワケないじゃん、だって俺まだ牧野好きだし。

でも無理やりどうこうしようなんて、あのふたりを見てたらどうでもよくなった。

司は別にどうでもいいけどね。

牧野が笑ってて、牧野を笑わせることができるのが司だっていうなら仕方ない。

司は司で俺に申し訳ないとか思ってるのよくわかんないけど、大学の時みたいに女を紹介するとか言い出した。

空子だっけ?あれ、名前何だっけ?

まあどうでもいいや。

「で、どこ行けばいいの?」
『お、起きる気になったか』

一度入り直したベッドからなんとか抜け出し、クローゼットから服を出す。

「牧野が呼んでるんでしょ?」
『知らねえよ。俺はあきらから電話が来て牧野から食事に誘われたとしか聞いてねぇし』

牧野が俺達3人を誘って4人仲良く食事するなんて考えられない。

と、言うことは司もいるな。

「いい、やっぱ行かない」
『俺だって乗り気で行くわけじゃねぇよ。とりあえず俺は声かけたからな?ちゃんと来いよ類!』

めんどくさい、行きたくないと言おうとするが、すでに電話は切れていた。

「……(思考停止)……で、どこの店に行けばいいわけ?」

ボーッとする頭をフル回転…するわけもなく、とりあえず着替えよう。


**


あきらside

総二郎!類!早くこの拷問から俺を開放してくれ!

ここは青山のイタリアンレストラン【miumiu】

長身で俺よりも年上と思われる女主人は、なかなか俺好みの美人だ。
かなりの天然っぷりだが、そこも俺のツボ。

総二郎がちょっかい出そうとしていたが、よほど肝が据わっているのか本物の天然なのか、口説かれてる最中に居眠りしたという伝説を持っている。

女主人の話はとりあえずどうでもいい。

目の前にいるバカップルはなんだ?
言い合いは日常茶飯事だが、時々オトコがウットリとオンナを見つめて手を握ったり摩ったり。

オンナのほうはオトコの暴走を制止するような態度だが嫌がっている様子はない。
いや絶対に嫌がってはいない、あれは。

むしろ喜びを感じてるな。

しかもなんだアレは…。さっきからチラチラ見える首筋の赤いモノ。
畜生、ヤリやがったな!コイツらめ!

「仲がよろしいようで…」

この声はっ!!

「おう、総二郎。久しぶりだな、まあ座れよ」

高級スーツ姿のオトコは仕事をするときの厳しい目つきをどこかに忘れてきたのか?
緩みっぱなしの表情で総二郎を手招きする。

「ヤダッ、離してよ」

今まで散々触られ放題だったオンナは急に態度を変える。

なんだ?今まで散々俺の前でイチャついてたじゃねぇか?
今更なんだよ、今更!

「よっ、つくしちゃん、ひさしぶり。あれ、司もいたのか」

おどけてウインクしながら敬礼してる総二郎。
お前の図太さが羨ましいよ。見てみろ司の顔を。

蟀谷がピクピクしてるぞ?

「あはは、久しぶりだね西門さん!」

友達同士に戻ったとはいえ、一度惚れたオンナが自分以外のオトコの横で幸せそう寄り添い笑ってる。
ざまあみろ、総二郎。お前も思い知れ。


**


総二郎side

クソっ。

来なけりゃよかった。なんだこの光景は?
人目も憚らずイチャつきやがって!

っていうかあきら。
お前ひとりでこの拷問に耐えてたのか?
相変わらずお前の忍耐の強さには脱帽だぜ。

「いらっしゃいませ」

…こないだ俺が口説いても反応しなかった女主人が出迎える。
たぶんこの女俺のこと覚えてねぇな。
俺の魅力がなぜわからない?

まあそんなことはどうでもいい。

店の奥で手招きする3人の元へ向かい軽く挨拶を済ませる。
イスに座って牧野を見た瞬間固まった。

司の野郎、牧野を抱きやがったな?

牧野…お前もスカーフするとか隠すことを知れ。
『アタシ達昨夜ヤリまくりました♥』って言ってるようなもんだぞ?

あきら、このオンナから漂う色気に気づいてるか?
気づいてるとしたら、よくぞこの拷問に耐えたとキスしてやりてぇよ。

俺はここへ何をしに来たんだ?


**


類side

ボーっとしながらも店の前に立っていた。
なんで俺ここにいるんだっけ?
ああ、そうか。牧野が呼んでるって総二郎に言われて来たんだっけ。

店のドアを開け中に入るとやけに背の高い店員が「いらっしゃいませ」と俺を出迎えたようだがそんなことはどうでもいい。

「あ、牧野」

騒動以来牧野は俺と普通に接してはいるが、なんとなくギクシャクしているようには感じてた。

俺らしくもない、どうかしてたとしか言いようがないが、今さらだ。

あんな騒動に巻き込んでおいて、しかも暴走しかけた。
普通に友達として付き合ってくれるだけでもいいのかも。
ま、いっか。

「久しぶりだね、牧野」
「うん、類も元気だった?」

司の隣だからご機嫌なのか、ニコニコと笑って座っている。

司も総二郎もあきらも、俺をなぜか憐れむような目つきで見る。

やめてよ、別に俺、かわいそうな奴じゃないんですけど。

「おお類。久しぶりじゃないか、元気だったかい?」
なに司。その変な言葉遣い。
キモ。

とりあえず牧野の横の席が空いてるし、ここに座ろう。

「毎日あきらのとこでコキ使われてるんでしょ?大変だねアンタも」

そんなことないよぉ、と答える牧野を見て言わずにはいられなかった。

「牧野…キスマークついてるよ」


「「「「類っ!!!!!」」」」






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