シーソーゲーム 56 類つく
一之宮と如月の提携、つくしと柊さんの婚約のニュースが街を駆け巡り。
ゆみさんからは「類君、ごめんね」そう謝られて‥‥
全て泡になった事を知る。
あの日、会いに行かなければ良かった?
違う‥‥もっと前からだ。柊さんは入念に計画を立てたのだろう。
もう遅過ぎるのだろうか?
俺の心の中を、空虚という風が流れて行く。
年が明けた後‥‥柊さんから一度会いたいと連絡が入る。
何を今更?訝しがる俺の気持ちを察するように
「類とは、一度きちんと話したいと思っているんだ」
そう最後に言葉を添えてくる。
約束の場所は、緑溢れる逗子の別荘だった。
「遠くまで悪かったね」
そう言いながら、ドアを開ける。
お茶が出されたあとに‥まるで今日の空模様を話すように唐突に言葉が放たれた。
「類、つくしを抱いたよ。あれから何度かね」
つくしを抱いた。つくしはそれを受け入れた?
色々な事がぐるぐると俺の中を回る。血の気がひいていくのがわかる。
「婚約も整ったあとだしね。あっ、そうだ婚約のお祝いは、言ってくれないのかな?」
しばしの静寂が訪れる。
静寂を破ったのは‥
「ここはね小ちゃな頃から、つくしと良く来たんだ。如月の意向で、つくしは社交界とは無縁で生きて来た。加えてあんな性格だからね、自然の中が大好きでね‥‥」
嬉しそうに愛する者の思い出を語る。
「3つの頃ね、つくしは初めて俺以外の男の子の事を話しはじめたんだ。あたしその男の子お嫁さんになるんだってね‥6つだった俺は、その言葉に激しく嫉妬して、その時初めて気が付いたんだ。つくしは妹じゃないってね。あの日から17年間‥俺はつくしだけを愛して、つくしだけを見守ってきたんだ」
お茶を一口啜りながら、話を続ける。
つくしが、英徳に来た経緯。そして‥去って行った経緯を。
「類、お前に激しく嫉妬したよ」
ソファーの手摺を、指でコツーンコツーンとならす音が響きわたる。
「それでも‥どんな理由であれ、つくしは再び俺の元に帰ってきた。それだけで充分だった。人生は長い。その間に俺を愛してくれればいいと思っていたからね。それに‥ちゃんとした初恋くらいあっても、青春の思い出にいいかなと思ったんだよ。俺も甘いよね。」
コツーンコツーン‥一定のリズムで音が響く。美しい瞳に陰が刺す。
「‥‥蛹が蝶になる‥凄い言葉だよね。正しくそれを体感させてもらったよ。つくしの持ってる魅力が一斉に花開いて行く。類、君に抱かれた日だよね?」
俺の目をじっと見る
「気が狂うかと思ったよ。慈しみ愛してきたものを一瞬にして奪い去られる気持ち‥お前にわかるか?相手の男を殺してやりたいと思ったよ」
でも‥そんな言葉のあとに続けたのは
「無かった事にしたんだ。つくしが再び俺の手を掴んでくれたからね‥‥‥それなのに‥‥この有様だ」
目の前の男は、つくしをどれだけ慈しみ愛して来たんだろう?
俺の知っている柊さんは、いつでも自信に満ちていた筈だった。
今、目の前にいる男は、ただただ愛を乞うている。
「類、知らなかったんだろう?知らなかったんだよな?だから出来たんだろう?知ったらもういいよな‥つくしをつくしを俺に返してくれ」
「柊さん‥俺‥つくしを愛してるんだ」
「愛してる?愛してるなら何をしてもいいのか?」
指の音が止み、俺の目を真っ直ぐにみる。
「類、俺はつくしを憎んでいるよ。殺してやりたい程にね。それと同時に愛してるんだ。気が狂いそうな程愛しているんだ」
「俺‥‥柊さんになんて言われようと、なんて思われようと‥つくしを諦められない」
「つくしは、俺の元に囚われているのに?俺に毎晩のように抱かれているのに?それでも構わないんだ‥ククッ」
小さな笑いが高笑いに変わっていく。
話は終わりだとばかりに、ソファーから立ち上がり‥
「渡さないよ‥」
そう言い残し、席を立つ。
俺は、再び立ち上がる決心をする。
つくしをこの手に取り戻すために。
今出来る精一杯を‥
これは、負けられないシーソーゲーム‥
でも敵は他の誰かじゃなく、自分自身との戦いだ。
類つくは月火木金12時更新予定☆お話も残す所あと7話♪


♥ありがとうございます。お話の励みになります♥
- 関連記事