シーソーゲーム 60 類つく
あたしは、柊兄ぃを待っている‥‥
計算が正しければ、もうじきこのドアが開くだろう。
目を閉じてから、息を吐く。
〝ごめんなさい〟
呪文のように何度も唱えた言の葉を心にしまう。
目を開け、真っ直ぐにドアを見る。
3、2、1 バタンッ
柊兄ぃが‥青い顔をして部屋に飛び込んで来る。
「つくし‥どういう事だ?」
「一之宮の大老にお聞きになられた通りです」
「‥‥一年半は、このためか?」
「はい」
あたしは、微笑みながら返事を返し次の言葉を放つ。
「柊さん、あたしはあなたに幸せになってもらいたい。そして自分も幸せになりたいんです」
「つくしを失って俺が幸せに?ははっなれるワケないだろう‥何もいらない、つくしだけが傍にいてくれればいいんだ」
あたしは黙って首をふり
「柊さんは、もうおわかりかと思います。あたしに対する想いは、愛じゃない妄執だって。唯一想い通りにならなかったのが、あたしだから」
「……つくしには、全てが伝わらないって事なのか?」
「いいえ、その考え全てが妄執だと言っているのです」
酷い事を言っている。
柊兄ぃの愛情を人一番感じて育ってきたのは、あたしなのに‥その全てを否定しているのだから。
エンゲージリングを外し、柊さんの目の前に置く。
「柊さん‥21年間ありがとうございました」
あたしは、振り向かないで部屋を出る。
涙が出そうになるのを必死で堪える。辛いのはあたしじゃない。あたしを愛し慈しんでくれた人を、裏切り傷つけ、ぼろ布のように捨て去るのだから。薄情で、恩を仇で返す嫌な女だ‥‥だから、泣いちゃいけない。
完膚なきまでに叩きのめす‥‥これが、あたしのあなたへの贖罪だ。
卒業式には出ずに帰国した。
誰にも見送られず、誰の出迎えも無い状態で。
このまま、類の元に走って向かいたい。
だけど‥‥あたしは、まずあたしになる。
*****
翌週、橘、兵藤、一之宮、如月の共同事業が発表される。
そう‥あたしが唯一、柊さんに怪しまれずに会える相手が、静ちゃんと佐助さんだった。
胃潰瘍で入院した時に、お見舞いに来てくれた静ちゃんに、あたしは全てを話したんだ。
静ちゃんは、意地悪く一つ微笑んだ後に
「つくしちゃん‥あなたって、本当に空回り人生ね‥‥」
そう言ってから
「はぁっーーーー、あたしに柊を裏切れって言うの?」
「ううん、そんな事頼んでないよ。ただ‥静ちゃんには知っておいて貰いたかったの‥あたしの大事なお姉ちゃまだから」
この時、あたしは計算済みだった。こう言えば、静ちゃんがあたしを放っておけないって。
その翌週、佐助さんと共に静ちゃんは、やって来た。
佐助さんは、流石兵藤グループの時期総帥だ。見返りを条件に、あたしに協力してくれた。
見返りは、橘への紹介状。
そして‥一之宮、如月との業務提携だ。
どこにとっても、損は無い筈だ。損が無ければ、婚約破棄も許されるだろう。
失敗は許されないから、入念に計画を立てた。
進の相手は、吟味に吟味を重ねた。
そして‥‥偶然の出会いを幾つか用意した。
あたしは、仲人婆さんか? と言う程に上手くいったから、驚きだ。
きっと、運命の神様があたしに動く様に指示を出したのだと思う。
進もほのちゃんも偶然出会った、運命の出会いだと思ってる。いや、一生そう思い続けて貰うつもりだ。
知らない方がいい事は、一生知らなくていい。
その代わりと言っちゃぁーなんだけど、
〝進、あんたが守らなきゃいけないものの力にはなって上げるからね〟そう神様に誓った。
夏みかんの花言葉のような純潔、清純という言葉は、今のあたしには似合わないだろう。それに‥類は、こんな策士なあたしを愛さないかもしれない。
だけど、これがあたし『如月つくし』だ。
類つくは月火木金12時更新予定


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