シーソーゲーム 61 類つく
あたしのお腹は、ぐぅーっとなっている。
冒険だと勇んで屋敷を飛び出した筈なのに‥‥
すっかりと、道に迷って迷子になっている。
至る所、擦り傷だらけのあたし。千恵子の持たせてくれたポシェットの中から、最後のクッキーを一つ取り出して、ポペト半分こする。小さなクッキーは、もっと小さくなる。
半分こにわったクッキーは、片方がちょっぴり大きくて、あたしは悩む。どっちをポペにあげようか?って。ポペに大きな方をあげた。
水筒のお水もポペと半分こした。ちょっぴり元気を取り戻したあたしは、新しい道をまっすぐに輝く道を突き進んだ。そして出会う。あたしの‥‥あたしの‥‥
遠くから、あたしを呼ぶ声がする。意識が呼び戻されて行く。
「‥らぎ‥きさ‥如月」
「‥‥あっ、はい。あっ、はい‥決して居眠りなんてしてません」
「バカ、違うよ。って、また昼寝か?ったく‥それよりも社長がお呼びだ」
「あっ、はい」
コンコンッ 扉をノックする。
「入って」
「失礼致します」
社長室に入った途端‥‥夏みかんの香りに包まれる。
クンクンッ クンックン
「如月‥犬じゃないんだから」
目の前には、あきれ顔のゆみ叔母ちゃま‥もとい、加藤社長が、笑いながら悠然と座っている。
あの後あたしは、ゆみ叔母ちゃまの会社に一般試験を受けて入社したのだ。
一次、二次、三次.四次、五次試験と順調だった。入社式では新入社員を代表して挨拶したので‥多分だがトップの出来だっただろう。
一番最後の社長面接‥これが厄介だった。いやいや、難関だった。
だって‥‥社長と2人きりだよ?
「如月さん、我が社は腰掛け社員は要らないのだけど、あなたご結婚のご予定は?」
「全くもってございません」
「スキャンダラスな社員も要らないのだけど」
「箝口令をひいてあります」
「進君のお相手はあなたの手引き?」
「‥‥‥‥」
「四社合同事業は?」
「‥‥‥‥」
「あらっ、お返事は? あっ、そうそう一番重要な事を忘れてた。如月から除名されてる叔母のいるうちの社を選んだ理由もね」
くぅっーーーー 意地悪だ。
「如月さん、顔に全部出てるわよ」
海千山千‥正しくこんな女性に使う言葉だ。ウンッ
「あらっ、失礼ね。あなたも十二分に素質はあると思うわよ」
「えっ“」
「まだまだ若輩者ね。すぐ顔に出るし、すぐ認めちゃう
‥よく、あんな計画立てたわよね。兵藤専務はどうやって陥落したの?やっぱり静ちゃん経由よね」
あははっ‥‥全部バレバレですね。
「いついかなる時も、ポーカーフェイスを壊さない。‥その辺りを‥きちんと教え込んであげるわ」
「そ、そ、それって?」
「そう、採用ってこと。正式入社は4月1日からだけど、今日から、仕事ね」
他の人間がインターン期間中‥あたしの仕事は、掃除のお姉さんだった。しかも‥変装ありでね。
お陰で、変装は上手くなった。かな?って、変装って普段何に使うんだろう?
胸とお尻にパットを入れて、メイクは濃い目、つけ黒子、ちょっぴり濃厚な香水で掃除した日には‥あははっ男性社員が妙に優しかった。ノーメイク牛乳瓶のような眼鏡をかけて掃除をした日は、男性社員も女性社員にも空気のように扱われた。報告書には、勿論その旨を記載した。
毎週、色々なあたしになった‥‥中々色んな反応で楽しかった。
晴れて入社日を迎えた時には、社員の大半の人間を把握出来ていた。
最初に、回されたのは受付だった。受付嬢の林原先輩は正しく受付嬢の鏡で‥社員の顔、お得意様の顔は勿論のこと、一度チラッときた方でも社にとって大切な方は、社名、名前を把握しているのだ。好感度をあげるメイクから、人の名前と顔を憶えるテクニックまで林原先輩に半年みっちり扱かれた。
その後は、人事部で、高梨部長の人事アシストについた。高梨部長の采配は、正しく天の采配だ。
会社を作るのは、人間だ。適材適所にその人間を送り込む。天の采配は、優秀な社員とやる気を生んで行くのだ。
人事企画、面接、様々な事を教えてもらった。草案がようやっと褒められるようになるのに2年がかかった。
その後は、営業部に配属され2年半。6年目に秘書課に配属され、もうじき一年が経つ。
「そうそう、柊君‥結婚が決まったみたいね」
加藤社長の顔でなく、ゆみ叔母ちゃまの顔で微笑んだ後に、封書を渡された。
柊さん‥ううん柊兄ぃからの手紙だった。
中には、美しい文字で
『幸せを掴んだよ』
そう書かれていた‥‥
あたしの目からは涙が溢れ出す。
罪が許された瞬間だった。
類つくは月火木金12時更新予定


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