シーソーゲーム Fin 類つく

つくしが帰国したと聞いたあの日から、俺は、待ち続けている。

つくしが自ら自分を許して、俺の元に再び現れてくれる日を。
１年経っても、２年経っても‥中々現れない。３年、４年、５年、６年、７年目に突入だ。
俺も大概‥気が長い。


ねぇ、つくし、この6年間で俺を取り巻く環境も、色々変わったよ。

３年半前に作り出したビルも来月には完成披露だ。
それと共に、橘と花沢を一つにするつもりだよ。

でも‥俺には、少し荷が重いんだよね。
こんな時‥策士な片腕が居てくれたら‥俺ちょっとは昼寝出来そうだよね？
だからさぁ、そろそろ、自分を許して俺の元に、戻っておいでよ。

クゥちゃん‥冒険してきたよ。お待たせって‥‥

ねぇ、つくし、新社屋の屋上庭園にも楡の木を植えたんだ。きっとあんたは気に入る筈だ。
全てを整えてあんたを待ってるんだからさぁ。早くお出でよ。


見慣れぬ番号が俺のスマホを揺らした。
スマホの向こうの相手は、柊さんで‥‥時候の挨拶のあと

蕩けそうな幸せそうな声で
「先に幸せにならせてもらうよ」そう言ったんだ。

その後は、延々と惚気話が続きそうな勢いで思わず苦笑しちゃったよ。

「あっそうそう、肝心な事を忘れてた。実は、ゆみさんの所に敏腕策士な秘書が居てね‥類の力になる筈だと思って、烏滸がましいけど今日そちに行く様に手配させてもらったよ。気に入ったら雇ってあげてくれないかな？屋上庭園だっけ？そこに行くように指示を出しておいたよ。じゃあ」

俺の返事も待たずに電話がきれる。

待ち合わせの時間がやってくる。俺は屋上に向う。

チーン　扉が開いた瞬間‥‥

『くそバカやろー　どたまかち割れろ～』

クククッ　威勢のいい寝言が聞こえる。いつか聞いた事のある声が。
つしくは、ビクンっと身体を一瞬震わせて‥またすやすやと眠りだす。


あんたが寝ている横に腰掛ける。
笑い声が聞こえてきそうな顔で、あんたが微笑んでいる。

幸せそうな寝顔を眺めていたくて、小さな声で声をかける
「つくし、お帰り。会いたかったよ」

蕩けそうな顔をして
「類、ただいま。会いたかった」
って、言うからてっきり起きてるのかと思ったら‥

クククッ　寝惚けてたみたいで、また寝ちゃった。

って、あんたここに顔合わせに来たんだよね？


幸せな寝顔を眺めていたら、いつの間にか俺も眠ってた。久しぶりのお昼寝って奴だね。


楡の木がサワサワと笑ってる。
優しく、優しく、笑ってる。



グゥッーーーーー　っん？何の音？　

２人同時に目が覚めて‥‥２人同時に笑い合う。
感動的の再会の筈なのに‥‥つくしの‥俺の‥腹の虫の音で目が覚める。
俺の腹の虫‥３０年近くの人生で鳴ったのは、初めてだ。
あんたは、いつでも俺の五感に働きかける。

つくしが、鞄を開けて‥何やら取り出している。
っん？何？　
顔を上げたつくしが‥えへへっと笑ってる。

今って、結構‥重要な場面じゃないのかな‥‥

俺等って長い間会えなかったんだよね？　
なんて事は、ちっともおかまいなく‥

「はい」

つくしが、半分に割ったお握りを俺に差し出してくれる。

全てが吹っ飛んでいく。
そして‥‥‥愛とか、恋とか、そんなもんじゃ計りきれない位の感情が押し寄せてくる。

色気も何にもない再会だけど‥‥

楡の木の下、２人並んで食べるお握りは〝幸せの味〟そのものだった。

「俺、今すごく幸せだ」
「あたしも、すごく幸せ」

「うん。冒険お疲れ」
「うん。迷子じゃなかったでしょ？」
「ぷっ　そうみたいだね」

プッ　あははっと、二人で目を見合わせて笑う。
言葉が途切れる‥

つくしを抱き寄せ口づけを交わした。

つくしの首筋から、ふわりと夏みかんの薫りが匂い立つ。
二人の薫りが一つになる。


＊＊＊

あれから半年‥つくしは俺の右腕として働いている。
折角楡の木があるのに、昼寝が出来ないなんて愚痴りながらね。


嫁ぐ前に、如月の家に戻って来いと両親に言われ‥今は如月の家から通っている。

休みの日は、お土産もって如月の家に遊びに行く。
今日は、すっかり隠遁生活に戻った爺様が送ってくれた夏みかんを持っていく。
沢山の夏みかんを見てなんて言うかな？　


千恵子さんが、つくしを呼んでいる。
もうじきつくしが階段を降りて来る。


花咲く笑顔で俺を嬉しそうに迎え入れるだろう。


ほらっ、ドタドタと音がしてるよ。
階段の上から顔を出す。笑顔が咲き誇っている。

「類！」

落っこちないでね。
なんてハラハラしながらあんたを待つよ。


ドタドタドタ

「あっ、」
つんのめるあんたを‥‥‥
間一髪、抱き止める。

えへへっと、満面の笑顔を浮かべるあんたが愛おしい。


あんたは、いつでも俺の一番だ。



夏みかんの香りが辺り一面に立ち込める。

もうじき、あんたは俺の花嫁になる。



fin

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シーソーゲーム‥最後までお付き合い頂き大変有り難うございました。
コミカルなパラレルワールドのつもりで書きはじめたシーソーゲーム‥
お話の更新をストップしている間に‥‥
どうせなら、少女から大人へ変わっていく〝つくし〟を書きたくなってしまいました。


後先考えない行動で、自分の頚をしめ、回りを苦しめる。それなのに衝動を止めれない。そんな女の子を書いてみたくなりました。いやーバカじゃん。なんかムカつく　って感じのね。ほらっ愛されてるって、ある種放漫でしょ。

‥‥自分を傷つけ、他人を傷つけ、その中で、少しずつ大人になっていく。自分であるために、自分の始末は自分でしなけりゃいけないと気が付く。そんな〝つくし〟に変化を遂げる。そんな過程が書いてみたくなりました。


策士なつくし‥‥勿論、類も援護射撃で佐助さんと共に動いてくれました。
だけど、柊兄ぃに引導を渡したのは、「類」ではなく、「つくし」

柊兄ぃに、引導を渡すのは……柊兄ぃの気持ちを諦めさせるために、つくしじゃなくちゃいけなかった。


なぜ、全てにかたをつけても、類の元に戻らなかったのか？
自分の愚かさで、傷つけた柊兄ぃへの贖罪と共に、
誰かに頼らず一人で歩かなきゃいけないと思ったんだと思います。あの日、ポペと冒険したようにね。
なぜ、類はつくしを迎えにいかなったのか？　
そりゃー　類だから。見守る事が愛だと知っているから。

先ずは、自分の精一杯で世の中に立つ。
一人で立って居られるから、２人で寄り添う事に意味がある。
つくしがそう考えるなら、それに寄り添おうと。

そんな二人に、再び出会うチャンスをくれたのは、柊兄ぃ。
柊兄ぃは、こんな形で二人にお返しをしたのだと思います。



何はともあれ‥最後はハピエンで纏まって、心からホッとしています。

シーソーゲームにお付き合い頂き、大変有り難うございました♪



asuhana



最後の最後までお付き合いありがとうございます。
asu からの感謝をこめて、御礼小話をのせてあります。
類とつくしと‥‥未来のお話になります。

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