月夜の人魚姫 20 総つく
俺、まさしく形無し状態だ。
この女一体何ものだ?
まるで俺のそんな思いを読み取るように
「女版ドンファンとでも思って頂ければ嬉しいですわ」
クスリとわらう。
妖艶に笑った後、思い出した様に‥
「私に似ていらっしゃるお嬢さんも、性には奔放でいらっしゃったの?」
女の問いに、牧野を思い出す。キス一つするのさえ受け身の女だった。
なのに、アイツとのセックスは、頭の芯が蕩けてしまって何も考えられなくなった。
初なのに‥身体の中は、俺をいつでも誘って離さなかった。
「‥‥いや‥‥‥」
「うふふっ、答えたくないっていう所かしら?」
可笑しそうにからかう。
口許の黒子が艶かしい。
マンションの前に車が着く。
「上がって頂いてセックスでも如何?とお誘いしたい所だけど‥‥家には、男が既に2人居るんでごめんなさいね」
クスクスと笑いながら、本気とも冗談ともわからぬ言葉を残しひらりと舞い降りて去って行く。
後ろを振り返りもせずに。
別れた後に残っているのは、微かな女の匂い。
「うーーーん。あいつ‥何ものだ?」
牧野のようで、牧野じゃなくて‥でも牧野のように、俺の心の中を掻き乱して行く。
俺の心は、牧野がいなくなってから初めて、この女が欲しいとざわめき出している。
牧野以外動く事がないと思っていたのに‥‥
「倉科様、お帰りなさいませ」
顔見知りの受付の子と挨拶を交わした後‥‥専用エレベーターに乗り込む。
乗り込んだ瞬間‥‥
「ふぅっーーー」
長い長い溜め息が漏れる。
西門さんに会う度に、全てを言いそうになる。
あたしは〝牧野つくし〟だよと。
でも、言わない。ううん、言えない。
同じ頃、産まれた子供は前の奥様が引き取ったのかな?
一緒には暮らしてないようだけど‥‥蒼と似ているのかな?そんな事を考える。
蒼をあの魑魅魍魎の世界に引き摺りこむようなことがあってはいけないと、改めて思う。
いつの間にかエレベーターは、止まっていた。あたしの頬に涙が伝う。
慌てて涙を拭き取ってエレベーターを出た。
そぉっと鍵を開ける。
「ほっ」
誰もいないのを確かめて安堵の溜め息を漏らしたあと、自分の部屋に戻ってシャワーを浴びた。
髪を乾かし化粧水をつける。
鏡に映るあたしは、たった一度の口づけ‥‥ただそれだけで、母の顔をかなぐり捨てて愛されたいと願う愚かな牝の貌になっている。
身体が、心が、疼いている。
疼く身体は熱を持ち心を渇かしていく。
あたしは、遊に電話する。
RRR‥‥RRRRRRRR
しつこく鳴らし続ける。
「っん?今取り込み中だけど」
遊の不機嫌な声がする。
「‥ごめん‥」
小さく呟けば
「どうした?」
優しく聞いてくる。
「…抱いて‥欲しいの」
「そこじゃ無理だ。暖が帰って来る」
「じゃぁ、どっかのホテルで抱いて」
「‥だから、俺取り込み中だって」
「このままじゃ、暖に寄り掛かりそうだよ」
「‥ったく、しゃあねな」
西門さんへの想いを鎮めるために‥
身体の中に咲いた焔を消すために、
あたしは遊に抱かれに夜の街に出る。
不毛という名の花を咲かせに遊の元へ急ぐ。
火、水、金、土、日 0時更新


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