恋心 前編
行かないで、その言葉が言えずにあたしは笑って
「お幸せに」そう言った。
いつかまた笑って会えるように‥‥‥
恋心を葬りあなたのもとを去ったんだ。
ザーザーザーザーザーザー 波が行ったりきたりを繰り返している。
夏を終えた海は、どこかもの哀しさでいっぱいだ。
幼子が笑いながら波打ち際を駆け回っている。
遠い日に、想いを馳せる‥‥
あの日、あの時のあたしに想いを馳せる。
辛く苦しかったあの日。
恋心を失ったあたし息をするので、精一杯だった。
だけど‥‥
あたしは、あたしを取り戻し元気に生きている。
時折、そう時折、ズキンッと胸は痛むけど。
「つくし先生—」
子供等が、あたしを見つけ手を振っている。
あたしは、力一杯手を振り返す。
この島に来てまる3年が経った。
一生この島で生活して行こうと決めた矢先に、この島出身者に帰りたいと言われ‥‥
明日、この島を後にして東京に戻る。
ボォッーーー 汽笛が鳴る。
「お元気でー」
「また来てねー」
「先生ーー」
幾つもの涙と言葉に見送られる。
大きな海は、温かい人達は、あたしに再び強く生きる力を与えてくれた。
あたしがあたしでいる力を。
「皆も元気でねーありがとうー」
大きく、大きく手を振った。
* **
「うわぁっ、すごい混んでる」
久しぶりの渋滞に巻き込まれながら、病院に向けて車を走らせる。
ネイビーのラングラーが、あたしの愛車だ。
「無骨なの選んだねー」そう言われたっけ。
そう言ったのは‥‥あのひとだった。
5年も経つのに昨日言われた様に鮮明に思い出す。
3年の月日が、日課だった渋滞を忘れさせる程すっかりあたしを浦島状態にしているのに、彼の事は色褪せない。
もう会わないと決めた当時は、彼を思うだけで辛かった。
今も時折胸が痛むけど、彼をこんな風に思い出す自分を楽しんでいる。
彼に対する恋心を捨て去る事だけで目一杯だったあの日‥こんな日がくるなんて思わなかったなぁーなんて考えてたら
ププッーー
いつの間にか信号が変わってて、後ろからクラクションを鳴らされていた。
イケナイ、イケナイ‥運転に集中、集中だ。
医学の世界は日進月歩だ。これまたすっかり浦島状態のあたしは、朝から晩まで忙しい。
トントンッ
資料を整理して、少し遅めの昼食をとるために席を立つ。
「牧野先生、お昼これからですか?」
顔見知りの婦長に声をかけられる。
「えぇ」
「じゃぁ、ご一緒してもいいですか?」
「勿論、喜んで」
トレーに日替わり定食を載せて席に着く。
「あっ、そう言えば、先生ご存知でした?」
「っん?」
「ほらっ、なんでしたっけ、2年くらい前に週刊誌を賑やかした、ほらっ、うーーん、顔は出てるのに名前が出て来ない。うんと月?あれ?星?あれっ」
「うふふっ 佐々木婦長、相変わらずね」
「あらっ、そうでした?うふふっ、年のせいかと思ってましたけど、前からって事ですかーね」
「うふふっ、どうでしょうかね? あっ、この筑前煮美味しい」
「そうなんですよー。ほら何とかに影響受けて、我が病院の食堂も一気に改革されたんですよ」
「へぇっー」
なんて答えつつ、何とかってなんだろう?なんてことを思った。
それに、月?星?うーん何だろう?聞いてみようと思った瞬間
「あっ、マッキーに佐々木婦長」
みっちゃんがやって来て、3人で食事をとる事になった。
この時佐々木婦長に、何の話をしたかったのか?
それが何だったかの事を聞いておけば良かったと思うのは、後からのお話で‥‥
女3人、話に花を咲かせて、すっかり「ご存知でした~?」は、忘却の彼方にいっていた。
手術の後は、意識を集中するからだろか?無性に甘い物が食べたくなる。
この頃お気に入りのチョコ棒が、一階受付横に売っている。
お財布片手に「チョコ棒、チョコ棒♪」音頭をとりながら買い物しに行く。
最後の一本を手にとり、ホクホクしながらお会計と思った瞬間‥名を呼ばれる
「牧野先生—— あぁ、良かった捕まった」
手を取られる。
「チョコ棒———」
「それどころじゃないです。医院長がお呼びです」
チョコ棒が棚に戻されていく‥‥‥
それを待ち構えていたかのように、後ろの人がチョコ棒を手に取っている。
《あぁぁーーーーあたしのチョコ棒がぁーーー》
頭の中をチョコ棒がぐるぐると回っている。
あたしの心をチョコ棒が占めたまま、医院長室のドアの前に立っていた。
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♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
「お幸せに」そう言った。
いつかまた笑って会えるように‥‥‥
恋心を葬りあなたのもとを去ったんだ。
ザーザーザーザーザーザー 波が行ったりきたりを繰り返している。
夏を終えた海は、どこかもの哀しさでいっぱいだ。
幼子が笑いながら波打ち際を駆け回っている。
遠い日に、想いを馳せる‥‥
あの日、あの時のあたしに想いを馳せる。
辛く苦しかったあの日。
恋心を失ったあたし息をするので、精一杯だった。
だけど‥‥
あたしは、あたしを取り戻し元気に生きている。
時折、そう時折、ズキンッと胸は痛むけど。
「つくし先生—」
子供等が、あたしを見つけ手を振っている。
あたしは、力一杯手を振り返す。
この島に来てまる3年が経った。
一生この島で生活して行こうと決めた矢先に、この島出身者に帰りたいと言われ‥‥
明日、この島を後にして東京に戻る。
ボォッーーー 汽笛が鳴る。
「お元気でー」
「また来てねー」
「先生ーー」
幾つもの涙と言葉に見送られる。
大きな海は、温かい人達は、あたしに再び強く生きる力を与えてくれた。
あたしがあたしでいる力を。
「皆も元気でねーありがとうー」
大きく、大きく手を振った。
* **
「うわぁっ、すごい混んでる」
久しぶりの渋滞に巻き込まれながら、病院に向けて車を走らせる。
ネイビーのラングラーが、あたしの愛車だ。
「無骨なの選んだねー」そう言われたっけ。
そう言ったのは‥‥あのひとだった。
5年も経つのに昨日言われた様に鮮明に思い出す。
3年の月日が、日課だった渋滞を忘れさせる程すっかりあたしを浦島状態にしているのに、彼の事は色褪せない。
もう会わないと決めた当時は、彼を思うだけで辛かった。
今も時折胸が痛むけど、彼をこんな風に思い出す自分を楽しんでいる。
彼に対する恋心を捨て去る事だけで目一杯だったあの日‥こんな日がくるなんて思わなかったなぁーなんて考えてたら
ププッーー
いつの間にか信号が変わってて、後ろからクラクションを鳴らされていた。
イケナイ、イケナイ‥運転に集中、集中だ。
医学の世界は日進月歩だ。これまたすっかり浦島状態のあたしは、朝から晩まで忙しい。
トントンッ
資料を整理して、少し遅めの昼食をとるために席を立つ。
「牧野先生、お昼これからですか?」
顔見知りの婦長に声をかけられる。
「えぇ」
「じゃぁ、ご一緒してもいいですか?」
「勿論、喜んで」
トレーに日替わり定食を載せて席に着く。
「あっ、そう言えば、先生ご存知でした?」
「っん?」
「ほらっ、なんでしたっけ、2年くらい前に週刊誌を賑やかした、ほらっ、うーーん、顔は出てるのに名前が出て来ない。うんと月?あれ?星?あれっ」
「うふふっ 佐々木婦長、相変わらずね」
「あらっ、そうでした?うふふっ、年のせいかと思ってましたけど、前からって事ですかーね」
「うふふっ、どうでしょうかね? あっ、この筑前煮美味しい」
「そうなんですよー。ほら何とかに影響受けて、我が病院の食堂も一気に改革されたんですよ」
「へぇっー」
なんて答えつつ、何とかってなんだろう?なんてことを思った。
それに、月?星?うーん何だろう?聞いてみようと思った瞬間
「あっ、マッキーに佐々木婦長」
みっちゃんがやって来て、3人で食事をとる事になった。
この時佐々木婦長に、何の話をしたかったのか?
それが何だったかの事を聞いておけば良かったと思うのは、後からのお話で‥‥
女3人、話に花を咲かせて、すっかり「ご存知でした~?」は、忘却の彼方にいっていた。
手術の後は、意識を集中するからだろか?無性に甘い物が食べたくなる。
この頃お気に入りのチョコ棒が、一階受付横に売っている。
お財布片手に「チョコ棒、チョコ棒♪」音頭をとりながら買い物しに行く。
最後の一本を手にとり、ホクホクしながらお会計と思った瞬間‥名を呼ばれる
「牧野先生—— あぁ、良かった捕まった」
手を取られる。
「チョコ棒———」
「それどころじゃないです。医院長がお呼びです」
チョコ棒が棚に戻されていく‥‥‥
それを待ち構えていたかのように、後ろの人がチョコ棒を手に取っている。
《あぁぁーーーーあたしのチョコ棒がぁーーー》
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あたしの心をチョコ棒が占めたまま、医院長室のドアの前に立っていた。
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