ケサランパサラン fin 司つく
そりゃそうだ。怒んない方が可笑しい。
だが、俺に取っては、たかだか3年半だ。これからの長い長い人生の中での3年半だ。この先は、決して離れ離れにならないのだから。
俺は、頑張ってすげぇ爺ぃになるまで長生きする。お前は勿論、すげぇ婆ぁになってる予定だ。
そうなるまでに少なく見積もって50年。そっから10年くらい生きるとしてだ、60年お前といられるんだぞ?
そんな中の《たったの3年半だ》
長期で考えろ、長期で。
「牧野‥」
「なにっ!」
怒気の含んだ声が返ってくる。
「俺は、牧野が好きだ。今も昔も牧野だけだ」
プイッと音が聞こえてきそうな勢いで、牧野の顔が窓の外に向く。
「なぁ‥‥」
「ズルイ、ズルイ、ズルイ‥‥」
「あぁ、ズリィよな」
そこまで真剣に大きく頷かないでもいいんじゃねぇの?ってぐらいに大きく頷いている。
ぷっ、子供か。お前は
「お前がな」
「えっ?」
鬼の形相ってやつか?そんな顔して俺を見る。
「やっとこっち向いたな」
コレをチャンスとばかりに、牧野を抱きしめる。
「ちょっ、ちょっ」
抱きしめた瞬間‥‥牧野の薫りが立ちこめる。胸がつまって、涙が出そうになる。
「お前、ズリィよな。こんなに可愛くなってやがる」
「ちょっ、なに言ってんのよ」
「お前、ズリィよ。すげぇでっかく俺の中に住み着いててよ」
「‥‥‥‥」
抵抗してた牧野の力が抜けて行くのを腕の中で感じる。
「‥っすん‥っすん‥うっ‥うっくっ‥バカ道明寺‥なんで‥なんで‥なんで‥3年半も‥っすんっ‥」
「悪かった‥ごめん‥‥」
「許さないよ‥っすん‥ぐっすん‥‥」
「あぁ、端っから、許してもらおうなんて思っちゃいない。その変わり‥一生かけて償いをさせろ」
牧野の顔が涙でグチャグチャになっていく。
「ええーん、ぇっぇぇえぇーんっ えぇぇーーーんっ」
「償いさせてくれるか?」
頷け、頷け、頷け。なっ頷いてくれ。
「‥‥バカ‥バカ‥バカ‥償いなんていらない‥」
ちょっ、ちょっと待て。償いさせてくれの言葉に、お前頷く。それでハピエンっていう順序だ。
「いや、償いをさせてくれ。なっ」
慌てる俺に、ブンブンと首を振り
「償いなんていらない‥だからだから‥もう‥ぅぅ‥うぅわーん」
うわーんじゃなくて、だからの次は何だ?
俺の胸の中で、牧野が泣きじゃくる。恥ずかしい事に、俺の目からもポツリ涙が一粒零れた。
「牧野、会いたかった」
「‥どおみょーじーー‥えぇぇーーん」
いい年した女の顔が、鼻水と涙でグチョグチョだ。
なのに、可愛くてたまらない
なのに、愛おしくてたまらない
なのに‥‥美しい
「もう一生離さない。ずっとずっと一緒にいさせてくれるか?」
牧野の、グチョグチョの顔が破顔する。
「ぇぇえーーん、ぇぇえーん」
それからも、暫くの間子供のように泣きじゃくって、返事もせずに俺の胸の中で眠ちまった。
眠る牧野を抱きかかえて、いつか行った南の楽園へ。
眠り姫は昏々と眠る。眠る。眠る。
眠る‥‥‥
「おーーーい 起きろ おーーーい 牧野———」
名前を呼んでも、揺さぶっても起きやしなっくて、眠り姫の牧野を眺めながら、いつしか俺も眠りについていた。
***
パチリッ
「ふわぁー良く寝たー」
真っ暗闇の中、目を覚ます。微かに聞こえる波の音‥‥
えっ?ここはどこ?
辺りを見回す。いつもの見慣れた家の中じゃなくって‥‥‥そして隣には、道明寺。
えっ?なんで‥‥? 一気に昨日の出来事を思い出していく。
戻ってきたんだ。もうどこにも行かないんだよね。
道明寺のクルクル髪の毛を指に絡ませる。
道明寺の瞳がパチリと開いて、嬉しそうに微笑む。
美しい美しい男が。あたしを見て微笑む。
泣き疲れて寝入ったあたし‥メイクは、はげ落ちて目は腫れてる筈だ。なのに‥‥
「牧野、綺麗だ」
そんな言葉と共に、あたしを抱きしめてキスをする。
長い長いキスを。
多分、この男は、頭がイカレテル。3年半をあっという間だと言って、あたしの気持ちなんておかまい無しに、さも当たり前のように迎えに来る。そして‥‥こんなグチャグチャのあたしを綺麗だと言う。
でも‥あたしは、もっとイカレテル。
会った瞬間‥‥全てを忘れて許していた。泉が滾々と湧き出る様に愛が思いが懇々と湧き出ていた。
深く深くしまった筈の愛が。
「お帰り道明寺」
「あぁ、ただいま」
あたし達は、朝まで抱き合った。
もう離れない。
* **
「牧野ーー牧野ーーー」
「牧野、牧野、気安く呼ぶな。それにあたしは忙しいっつーの。朝一で呼び出すな」
「そんな忙しいんなら、剣崎辞めろ、なっ。ラクダに話してやる。なっ なんだその寿退社ってのをだな」
「ブッブーーー却下」
「ブッブーーって‥じゃぁいつならいんだよ。そろそろ返事聞かせろ」
あたしは、笑う。 本当は直ぐにでもかまわなかった。でも、ちょっとだけ意地悪をする事に決めたんだ。
ううん。ちょっとだけ、ベッタリ一緒にいる恋人時代を堪能しようって決めたんだ。
3年半待たされたから、3ヶ月半ね。今日が、その最後の日。
時計の針が、11時11分を指す。
あたしは、愛おしい男に振り向き
「二人一緒にお爺ちゃん、お婆ちゃんになろうね」
愛する男の顔が破顔する。
ふわりフワフワ どこからか、ケサランパサランが飛んで来る。
Fin
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とある企画もののお話を書いている時に、ふと降りて来たケサランパサラン‥
いやっ、書きたいぃーとあいなりまして。
ならなら、111111拍手の御礼にSSでと思ったら、
あららっで妙に長くなってしまいました。
も、も、もしや‥
ケサランパサラン未確認物体の呪いですかねぇー
ケサランパサランに
最後までお付き合い頂き大変ありがとうございました♪
asuhana
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