明日咲く花

花より男子の2次小説になります。

夜伽の国の白雪姫 中編 ~類つく~ byオダワラアキさま


類は車のキキーーッという急ブレーキ音と、ガリガリと車が木に擦り付けられる音にハッと目を覚ます。
ここのところの仕事で疲れていたからか、眠ってしまっていたようだった。
運転手に何かあったのだろうかと驚き、運転席と後部座席の間の仕切りを上げると、運転手は外に出て何かを確認しているようだった。

車に故障かーーー?

「何かあった…?」

類も外に出て蹲る運転手に話しかける。
心霊現象を信じているわけではないけれど、こんな真っ暗い山道で車を停めていつまでも外に出ていたくはない。
類は多少イライラとしながらも、運転手の見ている先に視線を向けた。

「…類様。人が急に車に飛び出してきたもので…っ」
「あれ…人間?轢いたの?そんな音はしなかったけど…」

類の視線の先に、鬱蒼と茂る木々の間に月明かりに照らされる白い塊がいた。
車がガクンと前に引っ張られるような感覚はしたが、何かがぶつかったような感じはしなかった。
いくら疲れて寝ていたとはいえ、それに気が付かない筈はないだろう。

運転手はよほど動揺しているのか、白い塊に近付こうとはせずその場に尻を付け腰を抜かしているため、類が暗い中目を凝らしながら白い塊に近付いていった。

「……女?…良かった…生きてる。取り敢えず運ぶしかないか……」

類は細い腕を掴み脈を取ると、トクントクンと規則正しい振動が掴んだ腕から類へと伝わってくる。
運転手に大丈夫だからと声をかけ、女性を横抱きにかかえて車に戻ると、運転手も轢いていないというところで安心したのか運転席へと座った。

「運転大丈夫?」
「申し訳ございませんでした…動揺しただけです。少しスピードを落として走ります」
「うん…そうして」

どういう状態で山の公道で倒れていたのかは分からないが、なるべく女性を動かさないようにとゆっくり、広い車の後部座席に寝かせた。
類が女性の頭を固定すると、手に触れた髪はざらりとしていて、何日も洗っていないかのように砂や埃に塗れていた。
よく見ると山道で倒れたせいだけではないと分かる傷跡が無数にある。
薄い色のドレスに赤黒い血の跡のようなものがあり、ドレスはナイフで切られたように破れていた。

「何があって…あんなところに…」

意識を失っている女性の髪を顔が見えるように左右に梳くと、その透き通るような白い肌と、目を閉じていても分かるふっくらと形の良い赤い唇に、類はハッと目が釘付けになった。



邸に戻りすぐに医者を手配し、あまり動かすわけにはいかないため汚れたドレスのままベッドに寝かせた。
使用人はどこの誰とも知らぬ者を邸内に連れ込むことにいい顔をしなかったが、事情を話せばこの邸の主である類に逆らえる者などいるはずもない。

「じゃあ、眠ってるだけ…?」
「はい…どこにも異常は見当たりませんので。しかし、ここまで起きないとなると、起きることを拒絶しているのかもしれません」

医者に一通りの検査をさせた後、起こそうと身体を揺すったり声をかけたりしてみたが、女性は一向に目を覚まさない。
薬が使われたような形跡は確かにあったが、それでも全く覚醒しないという状態はおかしいと医者は言った。
医者にもこれ以上何を頼むべきこともなく、遅くに呼びつけたことだけを詫びて帰らせる。

「類様…この方をどうするおつもりですか?もし…このまま目覚めなかったら…」

事情を知る運転手が類に話し掛ける。
目覚めなかったらどうするのか、一生面倒をみるつもりかーーー
口からは発せられなかったその言葉は、運転手自身の責任転嫁というよりも類の立場を鑑みてのものだろう。

「俺は大丈夫だから…あんたも今日のことは誰にも知られないように…いい?」

友人からの依頼がありたまたま出向いた山奥で、倒れていた女性を助けた…事実はそれだけで、類にとって何ら責任を負うことはないはずだ。
それでも、今も目覚めないこの女性を身元不明として警察に身柄を預けることは、何故かしたくはなかった。

「はい…かしこまりました」

運転手に下がっていいと声を掛けて、ドアの閉まる音を後ろに聞くと、類はバスルームからタオルと洗面器を持ってつくしの眠る傍らへ座る。

「汚れたままじゃ…嫌だよね…」

お湯を張った洗面器でタオルを濡らし、女性の顔や髪を丁寧に拭いていく。
髪の汚れを落とし櫛で絡まった髪を梳かすと、黒檀の窓枠のように黒々とした艶のあるサラリとした髪へと変わった。
類は申し訳ないとは思いながらも、汚れ切りつけられたかのような服を脱がし、使用人に用意させたドレスを傍らに置いた。
女性の真っ白い雪のような肌がオレンジ色の照明に照らされて、類はその妖艶さに思わず唾を飲み込んだ。
タオルで拭いながらも、早くなる鼓動と汗ばみ熱くなる身体を類は抑えることが出来ない。

「綺麗だ…」

下着姿になった女性を見つめ、動くことのない手をソッと握る。
ダメだと理性では分かっているのに、このまま身体に手を這わせたいという衝動がビリビリと全身を駆け巡った。
握った手からお腹へと手を滑らせると、類が思っていたよりもはるかに肌には艶があり吸い付きたくなるような瑞々しさだ。

化粧をしている様子はないのにふっくらと赤い唇にソッと唇を重ねると、女性の身体がピクリと動いたような気がした。

「動いた?…ねぇ、起きて…目を開けて…俺に顔を見せてよ」

やはり気のせいかと思うが、まさか、まさかなと思いながら、試してみたかった…いや、もう一度触れたかったこの唇に。
類は身体を起こし、再び唇をゆっくりと重ねた。

類の唇が重なった瞬間、今度はもっと大きく女性の身体は震え、閉じられたままだった瞳が薄く開いた。

「目を覚ましたーーー?白雪姫…」




大きな腕に守られているようなフワフワとした、宙を浮くような感覚のあとに、温かい手に身体を撫でられているような感覚が続く。

何だか…気持ちいいーーー

本当はもうとっくに覚醒しているのに、ずっとこのまま目を瞑っていたいと思ってしまう。
だって、目を覚ましたら…またあの現実が目の前に広がっているだろうから。
撫でられている手も心地いいものなんかじゃなくて、息を荒くした男のものかもしれない。
もしかしたらそれすらも夢で、母も父も死んでしまったことすら本当のことではない、そんな現実だったらいいのに。

このまま眠っていたいの…誰も起こさないでーーー

「…ねぇ、起きて…目を開けて…俺に顔を見せてよ」

低くつくしの耳に届く綺麗な声。
そしてつくしの唇に柔らかいものが重なる。

起きるのは嫌だけど…少しだけあなたの顔を見せて欲しいのーーー

「目を覚ましたーーー?白雪姫…」
「あなたは…だ、れ…?」

目を開けると、閉じ込められていた石垣で作られた牢屋ではなく、花の香りが漂うフワフワのベッドの上だった。
長い睫毛の奥にある、ビー玉みたいに綺麗な薄茶色の瞳が不安そうに揺れて、大丈夫とつくしに語り掛ける。

「助けて…くれたの…?お継母さまから…」
「いや、山中に倒れていたから医者に見せるために邸に連れて来たんだ。母親に何をされたの?」

つくしがゆっくりと身体を起こすと、目の前の男性は何故か頬を赤らめて目を反らす。

「ごめん…汚れてたから脱がしたのは俺なんだけど…何か着てくれる?」
「え…あっ、や、やだ…あたしっ!ごめんなさい…っ」

つくしはベッドの上に起き上がった体勢で、下半身は何とか隠れているものの上半身はブラジャー1枚という姿だった。
慌てて掛けられたタオルケットを胸元まで引っ張りあげると、真っ赤な顔で男性を見つめる。
お互いに気まずい時間が過ぎ、先に行動を起こしたのは男だった。
淡いブルーのドレスをベッドの下から取ると、首からスポッと被せるように着させる。
装飾品の全くないシンプルなドレスは生地も上質でとても着心地が良かった。

「あ…ありがとうございます」

つくしが口元を綻ばせて礼を言うと、男性も穏やかな笑みを浮かべた。

「俺の名前は類…君の名前を教えて?白雪姫?」
「白雪姫…?あたしは……」

もし自分の名前を出せば、すぐに居場所がバレて連れ戻されてしまうのではという恐怖で、つくしは言葉を濁し俯いた。
何か事情があるのだろうと察知した類は、無理に聞き出そうとはせずに、倒れていた場所、時間、どういう状態であったかを丁寧に説明していく。
真っ青な顔で類の言葉を聞いているつくしは、震える声で訴えた。

あの場所には…もう戻りたくないーーー

「あ、あたしがここに居ること…誰にも言わないでっ!お願いっ!すぐ出て行きますからっ!」

つくしは慌ててベッドから降りようともがくと、緊張で強張った身体は脆く崩れ落ちる。
類は落ちそうになったつくしの身体を抱き留め、落ち着かせるように背中を撫でる。

「大丈夫…君がここにいることは俺と、運転手しか知らない。そして、ここは多分君が住んでいた場所からは山を2つほど越えなければならない距離だ。簡単に居場所が分かるものではないよ?」
「そう…なんです…か…あたし…街の外に…?あ、あのっ…今更ですが…ご迷惑をお掛けしました…」

つくしは抱き締める類の腕を離しベッドに戻ると、頭を深く下げた。

「何があったか話してくれる?」



続きは12時
オダワラアキさまより頂きもの♪

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2 Comments

オダワラアキ  

yukiko様

yukikoさまより

つくしちゃんを助けるのは類くんじゃないとねw
運転手ビビりすぎ?w
しかし、寝ているつくしちゃんの寝込み襲っておりますから…やっぱり私の書く類くんは若干変態ということで…(^◇^;)
連れ戻されないように逃げるためには、どうするのか…その辺りは最終話で〜♬

最後までお付き合いいただければ幸いです(^ω^)

2016/09/04 (Sun) 13:19 | EDIT | REPLY |   

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2016/09/04 (Sun) 09:50 | EDIT | REPLY |   

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