月夜の人魚姫 22 総つく
「あたし‥なにやってるんだろう‥‥」
身体の餓えは、渇いても‥‥心の餓えは、渇きなどしないのに。一時の安堵を求めて遊を求めてしまう‥‥
慌てて首を振る。考えちゃいけないと。
西門さんと再び会ったあの日から‥‥あたしの中には、葛藤が生まれている。
今まで、押し殺していた感情が溢れ出す。
西門さんが‥西門さんが‥‥‥欲しい。
欲しくて、欲しくてたまらない。
だから‥‥会いたくなかった。
だから‥‥会っちゃいけなかった。
スマホをタップして、蒼の画像を見る。
赤ちゃんの蒼‥‥始めの一歩を怖々と踏み出す蒼、
1歳の誕生日。
幼稚園の運動会、お遊戯会、小学校の入学式。
色々な色々な蒼が居る。
蒼は、あたしの子供だ。あたしだけの子供だ。
蒼には、父親など存在しない。
それに…………魑魅魍魎の世界に、あの子を巻き込むわけにはいかない。
~~~~~~~
雲一つない日だった。どこまでもどこまでも青空が続いてた。
洗濯物が風にはためいていた。
ピンポーン
チャイムが鳴って出てみれば‥‥
西門さんのお屋敷で良く見かける重鎮と、その秘書と名乗る女性の2人が玄関に立っていた。
「ちょっと宜しいおますか?」
そう言いながら上がり込んで来た男は、あたしの目の前で、意味のワカラナイ事を話している。
「‥‥先程から、何をおっしゃりたいんでしょうか?」
あたしがそう聞けば、鼻先で笑いながら
「何をおっしゃりたいって、あんさんご自分の立場はきちんと理解りしてはりますか?」
「理解とは、どういう事でしょうか?」
「若宗匠にはご縁談があられます。お相手のお嬢はんのお腹には、もう赤ん坊も居てはりますからな。牧野はん、何も言わずに去っとくれはりますな?これは、まぁ当座の生活費と言う事でしてね。悪いですが‥若宗匠がこちらに戻って来はる前までにお願いしますなぁ」
この人は、何をいっているのだろう?
唇がワナワナと震え言葉が出ない。無言のあたしの前に、封筒が置かれ、二人が去って行く。
一体どれくらいの時間が経ったのだろう?
出し放しの洗濯物と同じで、気が付けば‥‥‥真っ暗闇の中にあたしは、残されていた。
「‥‥ひっく‥ひっく‥うぅっ‥うっ」
泣いて、泣いて、泣いて、枯れちゃうくらいに泣いた。
同時に、もしかしたら愛されてたかもしれないと思っていたのは、あたし一人の勘違いなんだってわかった。
相手のお嬢さんのお腹に赤ちゃん‥‥‥
「あははっ、でも‥予想外だったなぁ‥‥」
解っていた。恋をした時から。
いつかあきらめなきゃイケナイ時が来るって言う事くらい。
それなのに、恋をしてしまったのはあたしだ。だから、覚悟はしていた筈なのに。
だけど、お相手のお腹の中に赤ちゃんが既にいるなんて‥‥‥これは、想定外だ。
別に付き合ってたわけじゃない。ましてや、何かを約束したわけでもない。
それでも西門さんは、あたししか抱いていない筈だと何故か思っていたのだから‥‥
あたしもとことんお目出度い。
あたしの心が、身体が、渇いていく‥‥‥
どんなに、この世の中から消えてしまいたいと願っても……
朝はやってくる。
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