紅蓮 65 つかつく
脳死状態の人間が、普通に生活を営めるまでに復活するものなのか?
世界の中では、もしかしたら、そんな症例もあるかもしれない。だが心配停止で5分以上脳が止まっただけでも蘇生後脳症で、良くて寝たきり、人工呼吸器で生活が普通だ。それが、脳死の状態での完全復活?‥‥あり得ない‥‥何かが、何かがある筈だ
グシャリッ いつの間にか書類を握りつぶしていた。
* **
何も考えず全ての物を受け入れる生活は、開放感と共に、あたしに安息を与える。
最初と同じだ。宗谷に出会って結婚した時と。
伽藍堂の木偶は、傷付かないのだ。
「つくし……いい子だ」
宗谷の指先があたしの胸のピアスを弄び首筋に舌が這い回る。呼吸が上がって来た頃に、宗谷があたしを貫く。
「あぁ‥お願い‥もっともっと‥あぁ‥気持ち‥いい‥‥」
あたしの身体は、素直に快楽を受け止める。
香木の薫りが、ゆらゆらと漂っている。
あたしは、堕ちていく。堕ちていく。深い奈落へと。
微睡みの中、宗谷が満足げに微笑みながらあたしの髪を梳く
「設楽先生とは、毎回何の話しをしているんだい?」
何の話をしている? そう問われ、あたしは考える。
何の話をしているのだろう? 世間話をした後に、香が薫る中少し眠る。その繰り返しだ。
「世間話を少々‥」
「世間話?それは、それは」
宗谷が可笑しそうに笑いながら。
「それにしてもつくしは、随分といい子になったね……つくし、舌を出してご覧」
あたしは、舌を出す。
宗谷の舌があたしの舌を蛇のように絡めとり口腔内を陵辱する。
香の中に再び堕ちていく。
「‥奥様‥つくし奥様‥そろそろ」
いつの間に眠ってしまっていようで、永瀬の声で目が覚める。
「つくし奥様」
手に抱えた服をあたしに手渡して来る。
「っん?」
受け取れば‥
「こ、これは?」
手渡された物は、ジーパンにプルオーバーのシャツだった。
「つくし奥様へお渡ししてくれと、旦那様からのご指示でございます」
ほらっ、何も考えずに‥享楽に浸ればいい事がある。
「うふふふっふふっ」
笑みが零れる。あたしは、跳ね起きて着物を脱ぎ服を着る。
「良くお似合いでございます」
紅をさす。いつもの色とは違う明るい色の紅をさす。
ほらっ、設楽先生の言う事を聞いていれば全てが上手くいく。
「旦那様がつくし奥様がお疲れでないようでしたら、奥様のお作りになられたお夕飯を頂きたいと、おしゃっておりました」
禁じられていたもの達が、あたしの手に戻って来る。
あたしは、台所に籠り一人料理を作る。
知らず知らずに鼻唄が零れ出す。
設楽先生への信頼感は、増して行く。
シャリーンシャリーンと鳴る鈴の音さえも‥‥もう怖くない。
全てを委ねればいいのだから。
* *
「えぇ、先生がおしゃっていた通りほんの少しの自由を与えましたよ。えぇ‥これで、つくしの発作は落ち着くのでしょうか?」
「えぇ、ほんの少しの自由と、束縛を。随分落ち着いて行かれるかと思いますよ。そうそう、性交渉の時は必ずお香を焚いて下さいね」
男2人の笑い合う声が谺する。
目に見えていた要塞は、壊された。
だけど‥‥羽根を切られた鳥は、どこを飛べるのだろう?
↓ランキングのご協力よろしくお願い致します♥


♥ありがとうございます。とっても嬉しいです♥
- 関連記事
-
- 紅蓮 68 つかつく
- 紅蓮 67 つかつく
- 紅蓮 66 つかつく
- 紅蓮 65 つかつく
- 紅蓮 64 つかつく
- 紅蓮 63 つかつく
- 紅蓮 62 つかつく